第1幕 『星の銀貨』のヒロインの場合 ⑤

 優しい神父のお陰でルナは教会に置いて貰える事になった。そこでお礼にルナは自分で焼いたパンを神父にさしだそうとしたのだが、断られた。


「ルナよ。この教会は裕福では無いが、お前を1人養う位の余裕はあるのだから気にする事は無いのだよ?その代りこの教会の為に働いておくれ?」


「はい、神父様。私はどのような仕事でも致します。」


ルナは神父に感謝し、早速教会へ戻ると仕事を始めた。教会のモップがけ、壊れた床の修繕・・・。掃除、洗濯・・・。元々働きものだったルナはそれは一生懸命仕事をし、教会の中はすっかり綺麗になった。

夕方・・・お葬式から戻って来た神父は教会へ足を運び、驚いた。


「おお・・・ルナ。大変だっただろう?さあ、温かいスープを作ったから一緒に食べよう。」


「はい、神父様。有難うございます。」


教会の奥にある小さな台所で神父と2人、ジャガイモと玉ねぎのスープを一緒に飲んだ。スープはとても温かくて美味しく、久しぶりにルナはお腹が満たされた。



「ルナ。それじゃお休み。」


ルナが寝床として案内されたのは教会の屋根裏だった。そこは天井も低く、狭い場所だったが、ルナの住んでいた小屋とは違い、隙間風も入って来ないので、ルナに取っては快適な睡眠場所だった。


「神父様・・・お心遣い、感謝致します。」


信仰深いルナは子供の頃にまだ父が生きていた頃にプレゼントしてもらった十字架のネックレスを大事に身に着けていた。そして神に感謝しつつ、十字架を握りしめ眠りについたのだが・・・その夜事件が起こった。


 ルナを狙っていた借金取りがもぬけの空になってしまった家を見て、ルナをさがしにやってきたのだ。この借金取りはルナを捕えて娼館へ売りさばこうと考えて居たのである。

ルナは信仰心の厚い娘と言う事で村でも評判だった。きっと教会で世話になってるのだろうと思い、借金取りは教会へやって来たのだ。


夜半―


教会の裏手にある神父の家に借金取りが仲間2名を連れて神父の家を襲撃した。

しかし、神父はどんなに殴られようと、蹴られようとも決してルナの居場所を吐かなかった。ついに意識を失った神父を見て借金取りたちは教会を逃げるように離れ・・・夜が明けた。



「キャアアッ!!神父様っ!」


ルナは翌朝神父の家を訪れ、大怪我を負った神父を見て悲鳴を上げた。そして急いで怪我の治療をしていると神父が目を覚まし、事のいきさつを全て説明してくれたのだ。


「神父様・・・もう私はここにはいられません。私のせいでこんなに大怪我を負わされてしまうなんて・・私は何と罪深い人間なのでしょう。」


「いや・・・ルナ。お前は少しも悪くない・・だが・・もうこの村にいては駄目だ・・・。借金取り達は・・血眼になってお前を探している・・・。もっと遠くへ逃げなさい・・。きっと何処かでお前が幸せになれる場所があるはずだから・・。」


そしてルナは神父の治療が終わると、教会を後にした。


(神様・・・どうぞ私の事を見守っていてください・・・。)


ルナの逃亡の旅は続く―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る