第1幕 『星の銀貨』のヒロインの場合 ④

 ルナは明日、住む家を失ってしまう。居場所を無くしてしまう前に・・・ルナにはするべきことがあった。

今、ルナの手元には近所の女性からもらった小麦がある。この小麦を全て使い切ってパンを焼き、これを持ってこの家を後にしようと思った。


(たとえ住むところが無くなっても・・・食べ物さえあれば・・雨風をしのぐことが出来れば・・・。)


そしてその日のうちにルナは4本のパンを焼きあげた―。


翌日、ルナは焼いたパンを麻袋に入れると18年間育ってきた家を綺麗に片づけ、自分の持っている全ての持ち物をかき集めても小さなリュックに収まるほどの荷物しかなかった。


「フフ・・・私の荷物って18年間で・・これっぽっちしかなかったのね・・・。」


ルナは目に涙を貯めながらポツリと呟いた。そしてルナはリュックの中に麻袋に入れたパンをしまうと、家を出た―。



「これから何所へ行けばいいんだろう・・・。」


ルナは12月の寒い空の下を薄着姿の重い足取りでとぼとぼと当てもなく歩き始めた。この地方は雪こそ多くは降らないが、冬になると冷たい北風が吹いてくる。冷たい風は容赦なくルナの体温を奪っていく。


「さ・・・寒い・・・。」


手を擦り合わせ、ルナは両手に息を吹きかけた。あかぎれだらけの手からは血が滲み、ズキズキと痛む。


「神様・・・これからも毎日のお祈りを欠かしません。なので・・・どうか今夜一晩私が泊まれる場所が見つかりますように・・・。」


その時、ルナの目に教会が飛び込んできた。そこはこの間ルナの母を埋葬した教会であった。いつの間にか無意識でルナは母の眠る墓地の近くまで来ていたのだった


「そうだわ、もうここにはいられなくなるから・・・ついでにお母さんのお墓参りをしていきましょう。」


ルナにはお供えするものが何も無かった。季節は冬の為、咲いている花も無い。


(ごめんなさい。お母さん・・・。お供え出来る物が今の私には何もないの・・。)


ルナは母に祈りを捧げながら心の中で謝罪した。


「おや・・・ルナじゃありませんか?」


その時、背後からルナは声を掛けられた。振り向くとそこに立っていたのは教会の神父であった。


「あ・・・神父様。」


「ルナ。お墓参りりに来たのですか?」


「はい・・・。もうここには住めなくなってしまったので・・・。」


「え・・?それはどういう意味ですか?」


神父は神妙な顔つきでルナに尋ねてきた。そこでルナは自分の今置かれている立場を説明すると彼は言った。


「そうでしたか・・・ルナ・・。それならこの教会で暮らしませんか?ここは貧しい教会ですが、貴女1人位なら置いて上げる事が出来ますよ?」


「ほ・・・本当ですかっ?神父様・・・っ!}


ルナは勿論その提案をありがたく受け取ることにした―。

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