曽根さんに借りたシャーペンを返す

授業終了のチャイムが鳴った。

吉田君は、曽根さんに借りていたシャーペンを返した。

「ありがとな」

曽根さんはそれを一瞥すると、唇を噛み、毒針のような視線で吉田君を突き刺した。

「普通の人は、借りたシャープペンシルの……頭の消しゴム、勝手に使わないよねぇ?」

曽根さんの白目の部分は糸ミミズのように血走り、ろうの涙を流しているように潤んでいた。血が焼けて蒸発するような怒りの波動が襲ってくる。

「これ、もう私のシャープペンシルじゃない気がするんだけど……」

小腸をくびり絞って出すような曽根さんの震える声に、吉田君は身の毛がよだち、ぶるりと震えた。

「ご、ごめん。ギザ十あげるから許して!」

「え?」

曽根さんはギザ十を受け取ると、「じ……十六枚目」と呟き、口角を少し持ち上げたかと思うと、陰で堪えるようにくつくつと笑い出し、もう何も言わなかった。

吉田君は、生きた心地がしなかったという。

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