第38話

 レイのデバイスを起動して、まずは現在地の座標を調べ、次にその座標の情報と共に救助隊へのSOSを送った。これであとは、俺たちが死ぬ前に救助が来るのを待つだけになった。


 外の吹雪はとても強くて船内にも寒さが伝わり続けている。俺の体はもう限界まで来ていた。思うように体が動かせないのと、意識が消えそうになる。消えそうな意識の中で俺には人生で二度目の走馬灯が見え始めていた。今度は前よりも長かった。


 生まれた時、父と母が不仲になりはじめた時、レイとセイジに出会った時、二人との友情が生まれた時、“町”に不満を抱きはじめた時、宇宙船を見つけた時、三人で宇宙へ行こうと決めた時、船を修理している時、母が出て行って父を殴った時、船で“町”を出た時、エドにあった時、エドにいろいろなことを教えてもらった時、海賊に捕まった時、アリスに勇気づけられた時、村長と戦うことを選んだ時、ドン・ボラーの目を撃った時、セイジを担いで戦場を駆け回った時、壊れかけの船を飛ばそうと決めた時。


 いくつもの場面が頭の中で蘇る。俺はあの退屈だと思っていた日々の中で生きる意味をずっと見いだせていなかった。だけど、今になって、とんでもない回り道をしてやっと気がついたことがある。自分のために生きる意味を探し続ける。結局はみんな、この問いへの結論は出ないのだ。だからこそ、自分で満足のいく結論を求めて生きている間ずっと旅をする。それがひとまずの俺の結論だった。この先も、人生という旅は続く。その中で何ができるだろうか。


 まずは“町”に帰ろう。帰って迷惑をかけたみんなに謝ろう。しばらくしたらお金を貯めて三人で新しい船を買おう。船を買ったら今度はちゃんと目的地を決めて旅に出よう。旅先でいろんな人に会って、いろんなことを学ぼう。人生を学んだらそれを教訓にして生きていこう。生きているうちにいいことをしてみよう。


 なんだ、よくよく考えたらあるじゃないか。俺の生きる意味が。そう思って少し微笑んだところで俺の意識は途絶えた。



 目が覚めると、俺は病室らしき場所に居た。辺りを見回すと、レイとセイジも眠っている。俺たちは助かったようだ。俺の意識が戻ったことに気がついた、看護師らしき人が慌てて誰かに連絡を取っている。良かった。生きている。まだ生きている。ちゃんと生きている。それがいつも以上に嬉しく感じられた。程なくして医者の人がやってきて、俺たちの身に何があったのかを教えてくれた。宇宙ステーションが近くにあったためにすぐに救助隊が現場に着いたという。救助隊はレイのデバイスの現在地情報を利用して、俺たちの居場所を特定した。発見された時、俺たち全員が意識をなくしていたが、全員生きていたという。そこから、宇宙ステーション内の医療センターに運び込んで今に至るということだった。レイとセイジは無事に生きている。俺はそれがとても嬉しかった。


 この後、俺たちはあの“町”へ帰ることを選んだ。

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