第23話

 意識が戻った頃には俺の手には手錠がかけられ横にされていた。右横を振り向くと、レイとセイジも同じ状態だった。まだ二人は気絶していて、かなりの怪我を負っているようだった。俺は思わず、


「レイ! セイジ! 」


 と叫んだが、二人は起きる気配がない。すると左横にいた海賊が


「うっせーんだよガキが! 」


 と叫んで、俺を蹴り倒した。直後さらに海賊が集まって俺を一斉に蹴りはじめた。身体中が痛い。


「お前ら、そこまでだ! 」


 蹴られ続けること数分、ついに誰かの一声で海賊たちは俺を蹴るのを止めた。俺の顔からは血が出ている。


「すみません、ボス」


 海賊たちの一人がご機嫌を取るかのように奥にいる大柄な男に向かってペコペコしている。アイツがこの海賊たちの親分らしい。そう思っているうちに男は銃を取り出し、さっきまで頭を下げていた部下に向かって一発撃った。撃たれたそいつの血が俺の顔や服に飛び散る。


「…… どう…… して」


 こう言ったきりその部下が動くことはもう無かった。残った部下たちは怖気付きながらさっきまで生きていたそいつの亡骸を引きずってその場を去っていく。引きずられたことで床に付いたそいつの血を見た瞬間、俺の中に死への恐怖が湧いた。


「安心しろ。お前たちは殺しやしねえ」


 奥の男は自らの部下を撃ち殺した銃を愛でながら俺にこう言った。嘘だ。どう足掻こうといずれはアイツに殺される。確証はなかったが、アイツの目は間違いなく人の痛みが分からない奴の目だった。


「…… お前、目つき悪いな。お前の目ん玉潰してやるよ」


 どうやら思っていることが顔に出ていたらしい。男は静かに宣言した。俺は死を覚悟した。その時だった。奥の自動ドアが開いた。


「失礼しますボス」


「…… なんだよ。楽しんでる時に」


 ドアの向こうから現れたのはさっきいた部下たちよりは位の高そうな女の部下だった。“ボス”は舌打ちを一回したが今度は撃ち殺すことはせず、女は“ボス”の耳元に近づいて何かを話しているようだった。耳元での話を終えると“ボス”は俺に聞こえるくらいの声で女と会話を始めた。


「ちぇ。またアリスのやつか」


「どうしますか? 」


「…… この部屋に通してやれ」


「承知しました」


 一通りのやりとりを終えた後、女は入ってきたドアから戻っていった。アリス、どこかで聞いたことがある気がする名前だ。


「…… 命拾いしたな小僧。お前の目を潰すのはまた今度だ」


 愉快げに“ボス”は俺に向かって言い放った。俺はこの瞬間は命拾いをしたが、恐怖に駆られていることに変わりはない。程なくして、何人かの武装した女たちがやってきた。集団のリーダーらしき女は強い調子で“ボス”にこう言った。


「キャプテン・アリスだ。今すぐにその子たちを解放しろ」


 キャプテン・アリス、やっと思い出した。彼女はエドの昔からの仲間の一人だった。

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