第19話

 エドはついに満足のいく言葉を見つけたのか、納得した表情をして俺たちの疑問に優しい口調で答えはじめた。


「自分たちの文化と歴史をこれから生きる人々に伝え残すためだ。かつては何十、何百の文化が同じ星でひしめき合っていた。文化と土地は人間が文明という物を持ちはじめた頃から脈々と受け継がれた。だが、次第に土地が意味を持たなくなって、いずれは文化ですら意味を持たなくなるかもしれない。それでも、人々は自らの土地と文化を残したいと思ったから、建てたのだ」


 エドの言葉を俺は必死で理解しようとしたが、すぐにはできず、彼の言葉を完全に理解できたのはこの時から何年も経った後となる。だけど、彼の答えは何故だか納得のいくもので、俺は理解はできなかったが満足だった。レイとセイジの二人も同じ思いを抱いていたと思う。


 エドと俺たちはまた歩きはじめた。サークルの中へと入っていくと、思っていたよりも広い。俺たちは石でできたサークルの中をただ歩き続ける。歩き続けているとあることが俺の頭の中に浮かんだ。


「コレってどういう意味で建てたんだろう? 」


 気がつくと思わず呟いていた。それに気づいた様子のセイジが、


「確か、ストーンヘンジはどんな目的で造られたのか理由はわかってないはずだ」


 と返してくれた。さすがは歴史に詳しいだけはある。さっきのエドとの会話も実はセイジが一番理解していたのかもしれない。そう思いながらセイジに礼を言ったあと、俺はまた思考の渦に嵌る。“意味”という言葉に引っかかって、自分が今ここにいる意味がわからなくなった。


 サークルを見回しながら、俺はまたしても“居場所”や“意味”について考えている。そんなことを考えても良いことはないというのに。レイとセイジは俺から少し離れた場所でそれぞれ石像を観察している。俺の考えはどんどん落ちていく。


「悩んでる様だね」


「うわあ! 」


 すると、思わず叫んでしまったが、エドがいつの間にか近くまで来て俺に声を掛けた。彼はどうやら俺の心を見抜いているようで、俺は今思っていることを話すことにした。


「…… 母は家を飛び出して、父はそれを追いかけようともせずにいたから俺は思わずアイツを殴ったんです。その勢いで俺も家を飛び出して…… 、生活にウンザリして飛び出した俺にもう居場所とかあるのかな、旅してる意味ってなんなんだろうと思うんです」


 俺の目からは少し涙が出ていた。エドは俺を優しく見てくれていたのだと思う。レイとセイジは、俺が泣いていることに気づいていない。エドは俺が泣き止むのを待ってくれた。数分間、温かな静寂がこの辺りを包んでいた。

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