第16話 不明スキル:レーダー

 魔女の館というところは、俺たち雛と呼ばれる不明スキル持ちの育成を目的としているようだ。

 同時に、館に協力的な村の求めに応じて、支援を行うこともするらしい。


 帝国の辺境にある村々は、正確には帝国に属していない。

 それぞれが小さな国みたいなもので、帝国からの影響を絶って独立を保っている。


 だからこそ、彼らにとっては帝国は恐るべき敵なのだ。

 帝国はいつも、村を征服しようとしている。


 俺と緑髪の男……ストークが派遣されたのもそんな村だった。

 西武辺境。

 俺が住んでいた村よりも、さらに奥まったところにある村だ。


 今回、お付きとしてちびの魔女がついてきている。

 俺はエレジアと一緒に仕事をしたいのにー!!


 エレジアは魔法という万能のスキルを持っているので、大魔女から便利に思われているのかも知れないな……。


「さあさあ! サクサクとお仕事こなしましょ! あのね、今回の仕事はね、魔女狩りが出没してるんだって。あー、魔女狩りはね、あたしら魔女を狩るだけじゃないの。人間も狩るの。つまり帝国に反目する奴はみんな魔女だし、中にいる反乱分子も魔女。そういうのを刈り取るの。ソッチのほうがメインの仕事かな?」


「よく喋る人だなあ」


「マーチは口から先に生まれてきた女だからな」


 緑髪のストークが、自分を担当する魔女に凄い物言いをする。


「えっ、お前、いいのそういう言い方して……師匠みたいなのじゃないの……?」


「確かに僕のスキルを育ててくれてはいるが、それはそれ、これはこれだ。喋りすぎなんだ彼女は」


「ええーっ! いいじゃんいいじゃーん! あたし喋ってないと息が詰まって死んじゃうんだからー!」


「部屋でもとてもうるさい」


「ひどぅいー!!」


 賑やか過ぎる。

 ラプサとレンジは、あれはあれで雛の側が賑やかだしな。


 俺はエレジアで本当に良かった。

 可愛いしエッチだしな。


「ということで! 魔女狩り狩りの仕事を引き受けたんだよ! この辺り、ぐるっと回って探してみようか!」


「魔女が魔女狩りを探すとか……」


 ストークがため息をつく。

 だが、やる気が無いわけでは無さそうだ。


「走査……」


 彼が呟くと、その周囲に波みたいな物が生まれた。

 いや、目には見えないんだが、なんだか分かるというか……。


「マーチ」


「ほいほい! 叫べばいいんだよね! あ────────っ!!」


 マーチが叫んだ。

 声が響き渡り、すると波はぐんと広がった。


「いた」


 ストークが、村の外縁部分に目を向ける。


「なんで分かるんだ?」


「僕のスキルの力だ。僕のスキルは直接的な攻撃力は無くてね。レーダー、という」


「レーダー……?」


「光、音、魔力波。それらを放ち、反射してきた波を受け取って世界の姿を明らかにするスキル」


「なんだか難しそうだな……」


「難しいさ。だから、僕にしか扱えない」


 フッと得意げに笑うストーク。

 クールっぽいが、こいつもレンジ同様の俺様系キャラだな?


 しかし、俺からすると、誰もいないように見えるんだが。

 レーダーってのは見えない相手まで分かるのか?


「そこだ」


 ストークは歩きだすと、背負っていたクロスボウを取り出した。

 迷いなく、射出する。


 それは、一見して何もない空間に突き刺さった。


「うぎゃーっ!」


 悲鳴を上げて飛び上がるやつがいる。

 灰色のマントを被った男……あの紋章は、魔女狩りだ!


「な、なんで分かった!? 俺は姿を消す隠身スキルを使っていたのに!」


「人の目は誤魔化せても、音と魔力はお前がそこにいることを告げている。僕の目からは逃れられない」


「な、なんだそのスキルは! まさか……不明スキル!? そしてそこの女は魔女か!!」


 魔女狩りの男は、俄然やる気になったようだ。

 武器であろうナイフを取り出し、身構える。


「おっしゃ! ビームだ!!」


 俺がビームをぶっ放すと、男は慌てて避けた。


「二人も不明スキル持ちがいるのか!? だが、俺を捕まえられるかな……?」


 そう言いながら、魔女狩りが姿を消した。

 うわあ、目の前にいたのに消えるのか!!


 流石に俺も、見えない相手には当てられない……。


「走査」


 また、ストークが波を放った。

 そして膝を突いた。

 なんだ!?


 さっきまでストークの頭があったところに、ナイフの刃が生えている。

 躱したのだ!


「避けた!?」


 魔女狩りの驚く声が聞こえた。


「僕のレーダーからは逃れられない」


 一見して何もない場所に、ストークがクロスボウを放つ。


「うぎゃあーっ!!」


 魔女狩りの悲鳴が聞こえた。

 すぐに姿が現れる。

 奴の腹に、矢が突き刺さっていた。


「な……なんで……」


「お前のスキルと僕のスキルは、相性が最悪だった。それだけだよ。僕に対して、相手の感覚を誤魔化す類のスキルは通用しない」


「そんな……ぐふっ」


 倒れ伏し、絶命する魔女狩り。


 こいつ、そのまま放置していたら村の中に侵入してとんでもないことになっていただろうな。

 しかも、俺やレンジでは対抗しづらいタイプの相手だ。


 見つからない相手に攻撃するためには、まんべんなくその辺り全部を焦土に変えないといけないからな。


 ストークがやってる事は地味だ。

 しかし、絶対に相手を見つけるスキルというのは何気に凶悪ではないか。

 それに、恐らく見つけるだけのスキルではあるまい。


 俺もレンジも、何か別のことに応用できる要素があるからな。


「ね? うちのストーク凄いでしょ。ねー?」


 魔女のマーチが、露骨に自慢してくる。

 我が子自慢みたいな感じだな……!!


「さあさ、村に戻りましょ! まだまだ魔女狩りがいるかもしんないし、ゆっくりしながらストークに探してもらお!」


「僕だけ働き続けるのか……? マーチも仕事をしたほうがいい」


「あたしのスキルは待ち伏せ専門だもん! ストークが仕事した後で使うよー!」


 こうして、魔女と雛は村に戻っていった。

 なるほど、ストークがいればこそ、背中から不意打ちされる恐れは無いわけか。


 こいつは心強い男だ……!

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