第33話 眠り姫とテスト結果


 中間テストはつつがなく終了し、あれよあれよの間に結果発表の日になった。


「84位……」


 昼休み。

 エントランスに張り出されたテスト順位表を見て呟く。


 内心、驚いていた。


 本校は1学年に300名ほど在籍している。

 これまでテストは可もなく不可もなく、150位くらいをうろちょろしていたが、今回は84位というかなりの功績に食い込んだ。

 手応えは十分あると感じたが、まさかこれほど上がっているとは思ってもいなかった。


 要因は、多分……。


 ちらりと、横に視線を流す。

 テスト順位に一喜一憂している一際目立っているグループ。

 その中に、白音の姿を捉えた。


 先日の、白音との勉強会を思い出す。

 彼女の懇切丁寧な解説と、『ここ、おそらくテストに出ます』というアドバイスがドンピシャで当たったことが、この順位結果をアシストしてくれたのは確実だろう。


 でも、それよりも。

 白音との添い寝の日々が要因として深く絡んでいると、叶多は考えた。


 彼女との添い寝は、今も週に2,3日のペースで続いている。

 目的が白音の睡眠不足の解消だけあって夜更かしをしていないため、日付が変わる前までには寝床につくようにしている。


 すると、添い寝をしていない日にも10時くらいには眠くなり、自然と入眠するようになった。

 その結果、日中の頭の冴え加減というか、集中力が明らかに向上し、勉強効率が明らかに上がった。


 添い寝フレンドの関係が始まるまでは夜中の2時や3時まで起きていたことを考えると、当然の現象とも言える。


 そういえば、白音は何位だったんだろう。

 見上げて、順位の高い方から探して、すぐに見つかった。


 夢川白音:7位


 やっぱすごいな、と思った。

 白音の優秀さを、叶多は再認識する。


 ……同時に、なんでこんな子が、俺なんかに良くしてくれてるんだろうという、純粋な疑問も感じた。


 ふと視界の端に、もう一人の順位が入ってくる。

 

 九条琴美:12位。


 やっぱ、コミュニティは同じようなスペックのメンバーで構成されるんだな。

 先日の下駄箱の一件を思い出しながら、改めて思った。


 もう一度、白音の方を見やる。

 彼女はいつもの面々に囲まれて……あれ?


 気のせいだろうか。

 白音の表情が、ちょっぴり困り顔というか。

 そして周りの友人たちも、白音に対してどこか励ますようなムードを形成しているというか。


 そんな風に見えたのは。


「よう、かなっち」


 振り向くと、このクラスで二番目に顔を覚えているクラスメイト、通称ランチくんが、飄々とした笑顔で立っていた。


「どうだった、テスト?」

「いつもよりは良かった」

「おっ、どれどれ? ……84位! やるぅ〜」


 成績を褒められるのは、素直に嬉しいものだ。

 叶多は少しだけ、口の端を吊り上げてみせる。


「ちなみに君は?」

「俺? いつも通りっちゃいつも通りかな」

「なるほど」


 彼の名前がいまだにわからないため順位を確認することはできないが、多分こういうタイプはなんでもそつなくこなすだろうから、悪い順位ではあるまい。

 と、勝手に推測しておく。


「それにしても凄いよな、夢川さん」

「なんで急にし……夢川さんの話が出てくるの」


 危ない。


「んんー? 別にい?」


 明らかに作った笑顔を向けてくるランチくん。

 なんなんだ、一体。


「ところでかなっちよ、これから一緒にランチしね?」

「……ランチか」


 何度目かになる、ランチくんからのランチのお誘う。

 いつもならすぐにお断りの返答をしていたものだが。


 ──相手に、興味を持つんです。


 どこからか思い起こされた言葉とともに、何故か今日は10秒ほど費やして、


「…………いや、今日も大丈夫」

「およよよのよ、じゃあまた今度だな」


 いつも通り、ランチくんは特に残念そうにない素振りを見せた。


「また誘うわー」


 言い残して、ランチくんは別のグループへ足を伸ばした。

 その後ろ姿を見届けて、ふと、自身の胸に手を当てる。


 思った。


 最近、馴染みのない感情を抱くことが増えたな、と。


 

 


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