ぬいぐるみ犬探偵 リーバーの冒険

鈴木りん/カドカワ読書タイム/カクヨム運営公式

プロローグ

 雪雲のすき間から見える、ほんのりとした月明かり――。

 ここは、とある北国の雪る街。

 その北側に建つマンションの一室のまどから見える景色は、一面の銀世界だった。

 この時期の夜はとにかく静かである。

 街角に降りもった雪が、人間のつくり出だすざっ な音をその白い色にかしむようにきゅうしゅうしてくれるからだ。

 そんな、冬のただなか

 人々は当然、だんぼう器具を使って暖を取る。ここのリビングルームも、先ほどまで火のいていた大きな石油ストーブのおかげで、まだあたたかさが残っていた。けれど、いくつかの電子機器のランプが光っている以外、くらやみだった。それもそのはず――今は真夜中、「ウシミツドキ」なのだから。

 でもよく目をらして見れば、リビングの中に何やらうごめく物体があった。それもひとつではなく、五つ、いや、六つ……。

 もしかして――ぬいぐるみ!?

 そのフォルムは、たしかに「ぬいぐるみ」としか思えない。

 大きさはどれも、人間の小さな子どもがきかかえることができるくらいのものだ。何度目をこすってみても、やっぱり暗い中でがさごそと動いている。


 ぬいぐるみが勝手に動くなんてことがあり得るの?

 あなたもきっとそう思っていることでしょう。

 このいきにあるというかつだんそうの動きが活発化し、そこからあふれ出たエネルギーがかれらをうごかした――かどうかは知らないが、とにかく、このマンションの一室のぬいぐるみたちは動き回っている!

 たなの上やソファーの上など、部屋のあちこちに散らばっていた彼らがえんじんを組むようにひとかたまりになり、人間には聞こえない周波数の音波みたいなもので、いっせいに声をあげた。

『人間にたよってはいけない!』

『人間に動くところを見られてはいけない!』

『人間と話してはいけない!』


 どうやら、この三つがぬいぐるみたちの「おきて」らしい。

 それらの言葉をさけんだ彼らは、ぴょんぴょんとね回るようにして、ふたたび好き勝手に部屋のあちこちへと散らばっていった。

 ぬいぐるみたちの昼間――人間にとっての真夜中は、まさにこれからだったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る