第9話
「ヴェル様!綺麗な花が咲いております。少し見て行きませんか?」
《綺麗な薔薇ですわ、ヴェル様ともう少し見ていたいけれど、殿方に花は興味ありませんわよね……》
装飾品を取り扱っている店に向かってる最中、リディは道を少し外れた場所に咲いている薔薇に興味が引かれたようだ。
青色の綺麗な薔薇だった。
キラキラとした瞳で薔薇を見つめながらも、どこか諦めたような声が頭に響いた。
「リディが見たいなら構わない。行くか?」
「はい!」
ぱぁ~と顔をほころばせて、俺の手を引く彼女が愛おしい。
「薔薇が美しいですね」と言ってくる彼女に、リディの方が美しいと思ってしまう。
「リディ、そろそろ行こう。遅くなるぞ」
いつまでも見ていようとするリディに声をかける。
するとリディは名残惜しそうにしながらも「そうですわね」と言って俺の腕に手を添えてきた!
「…ダメ?ですか?」
「……構わない……」
恥ずかしくて、リディの方に顔を向けられないが…それでも、了承の返事だけは伝える。
肯定と否定の言葉は、しっかりと伝えることにしたのだ、あの日から。
でないと、リディを悲しませる事になると思い知ったから。
リディをエスコートするように、談笑しながら装飾品店まで向かった。
「ヴェル様、この髪飾りどうですか?」
リディは自分の髪に、薄い桃色の薔薇の髪飾りを当てている。
先程の薔薇を思い出しているのか、頬を少し赤らめている。
だが、リディの髪には、桃色よりも……
「リディなら、こっちの方が似合ってる…と思う」
彼女の手から桃色の髪飾りを奪い、変わりに青緑が使われた薔薇の髪飾りを当ててやる。
《まぁ!素敵な髪飾り…しかも、ヴェル様が選んでくれたなんて……嬉しいですわ》
青緑の髪飾りは、リディの銀の髪によく似合っている。喜ぶリディをもっと見たくて、店主にこのまま付けていくからと言って購入した。
「よろしいんですか?ヴェル様……」
「ああ、リディに良く似合ってる。このままつけていて欲しい」
店を後にして、今人気のカフェに向かっている間、リディはずっと微笑んでいた…目は和らぎ口元は控えめに、まるで女神のような微笑みを浮かべていた。
俺だけじゃなく、道行く人をも虜にする笑みだった。
「ふっ」
「ヴェル様?どうされましたか?何か嬉しいことでも?」
「ああ、リディとこんな風に街中を歩くなんて、あの頃には思わなかったな…と思ってな」
「そうですわね、
《嬉しくて、嬉しくて、幸せ過ぎて……死にそうですわ》
死んだら困るんだが……
リディの幸せそうな声を聞きながらカフェに辿り着き中に入る。
店内は、ピンク色に統一されており、可愛らしい内装だった……男の俺には少し…いやだいぶ?居づらい雰囲気だ…。
《わぁ、可愛らしい内装ですわ!あっこれ、可愛い》
普段は冷静沈着、冷たい印象を与えるリディが今は、可愛い置物や家具に目を輝かせ年相応の姿を見せている。
今日のリディは、何時もの無表情ではなく、ずっと微笑み、楽しそうな笑顔を見せてくれていた。
それだけで俺の心は喜びに震え、この居心地の悪さを払拭できるほどだ。
「気に入ったか?」
「はい!」
「お客様、お席にご案内させて頂きます」
「頼む」
2人で向かい合って席に着くと、店員がメニュー表を持ってきた。
リディに渡すと、睨むような顔をしてメニュー表を見ていた。
《あっ、このガトーショコラ美味しそう…でも、こちらの季節のフルーツタルトも、う~ん、でもサントノーレも気になりますわ…どうしましょう、全然決まりませんわっ!早くしませんとヴェル様を待たせてしまいますのにっ、ど、どうしましょう……えっとえと》
何を食べるかで悩む彼女の心の声を聞きながらリディを観察する。
また、顔がニヤけてしまう。
だらしない顔になってるだろうか…、これ以上リディに嫌われないように、頑張って引き締める。
「決めましたわ!
「そうだな」
《フルーツタルトも美味しそうでしたが、仕方ありません…2つも食べたら、太ってしまいますし、何よりもヴェル様に食いしん坊だと思われたくありませんもの》
「俺はフルーツタルトを頼む事にする。飲み物は?」
「ミルクティーにしますわ。ガトーショコラに合いますの」
リディの言葉を聞き店員を呼ぶ。
「ガトーショコラとフルーツタルトを1つづつ、それから、ミルクティーと……」
「ヴェル様、フルーツタルトにはキャンディが合いますのよ」
「では、キャンディを1つ頼む」
「畏まりました、ガトーショコラがお1つ、フルーツタルトがお1つ、ミルクティーとキャンディが1つづつですね。少々お待ち下さいませ」
店員が注文表を手に下がっていき。
それから少しして、テーブルに菓子が並べられた。
「美味しそうですわね!ヴェル様」
「そうだな」
ガトーショコラをフォークで一口サイズにし口に運ぶリディを眺める。
《お、美味しいぃ~ですわぁ!》
美味しそうにパクパク食べるリディを見てるだけで、お腹がいっぱいになりそうだ。
紅茶を飲みながらリディを覗き見ていると、リディが俺を見上げた。
(ん?)
「ヴェル様は、お食べになりませんの?美味しいですわよ?」
「そうだな、頂くよ。でもリディ、1口食べてみるか?」
「え?…よ、よろしいんですの?」
『殿下、カフェは、この店が女性に人気ですよ。それで!女性には、あ~んをしてあげると喜びますよ!』
『あ~んってなんだ?』
『食べさせてあげると喜びますよ!』
『いえ、あれは、普通に恥ずかしいですわ』
アーキスの言葉に従うのは癪だし、サーシャ嬢の言葉も気になるが…
「ほら」
サクッと一口サイズにカットし、フォークで刺しリディの口元に運ぶ。
途端に顔を赤らめ恥ずかしそうにしながらも、口を開けたリディに食べさせる。
「~~~!」
《ヴェル様が甘いですわ!そんな目で
俺は今、どんな顔をしているのだろうか…自分じゃ分からないが、リディは凄く照れていた。
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