第16話「描写」
朝方まで窓を叩いていた雨は、まるで私の起床時間に合わせてやんだようだった。
窓を全開にして部屋に風を呼びこめば、ほんの少しだけ夏の予感がする。
心を焦がす程の恋に破れた私は二度と恋などしないだろうと思っていた。
あれから何度目かの夏。
私は恋をしている。
初めて行ったヘアサロン、話しかけられるのが苦手な私に、必要以上のことを聞かない彼。サラサラと流れるカットの手さばき。
少しずつ違う自分になるようで心が踊る。そして鏡の中の私はほんの少しだけ微笑む。
「手ぐしでも整うようにカットしました」
そう言いながら、手に持った鏡で後ろ髪を見せてもらう。
「とても気に入りました、ありがとうございます」
それが出会いだった。
仕事帰りの駅前の交差点で彼にあって会釈を交わす。
残業して帰る時間と彼が店を閉めて帰る時間が偶然にも同じくらいだと言うことはあとから聞いた。
そんなことが何度かあり言葉を交わすようになり、いつしか連絡先を交換した。
言葉少ない彼からのメッセージは、短くて素っ気ない。
だけど、直ぐに返信してくれるし、会いたいといえば「じゃあ、明日」と言ってくれる。
恋人未満の私たちは臆病で紡げない言葉がある。
それぞれには恋の歴史があって、なかなか素直になれない。
傷ついた心はとっくに癒えているはずなのに、もどかしさに胸は苦しくなるばかり。
「大人ってめんどくさいよね」
彼が不意に言う。
「確かに、拗らせちゃうとね」
「俺、素直になってみようかと思ってる」
まっすぐに私の目をみてそう言うから、ドキリとする。
彼が続きを言う前に、私は初めて彼の手をとり指を絡めた。
それが私の愛の告白。
絡めた指は強く握り返されて引き寄せられた肩はそっと抱かれる。
新しい恋がはじまろうとしていた。
夏は、もうそこまで来ている。
駆け出したい気持ちを抑えながら、私はゆっくりと一歩、踏み出したのだ。
家の前まで送ってくれた彼を見送りながら私は、スマホを開いて、グループLINEにメッセージを送った。
(彩絵)💬「ねぇ聞いて聞いて!彼氏が出来た!」
(楓)💬「マジで!ズルい!」
(凛)💬「誰よ、そんな幸せなオトコは」
(彩絵)💬「行きつけのヘアサロンの美容師さん💕」
(楓)💬「イケメン?歳は!」
(彩絵)💬「うふふふふ」
(凛)💬「何がうふふふふよ!」
(彩絵)💬「だって!うふふふふなんだもん!私の好きなタイプ、小池徹平くんにちょっと似てる」
(凛)💬「マジで!?明日詳しく聞かせて貰うからね」
(楓)💬「そうよ!尋問よ!」
(凛)💬「今度、婚活パーティーに行こうって行ってたじゃないの、楽しみにしてたのに」
(彩絵)💬「あっ、それパス」
(凛)💬「彩絵にしても、楓にしても幸せそうでいいなぁ」
(彩絵)💬「まぁまぁ落ち着いて次は凛ちゃんの番だからね」
(凛)💬「とにかく、詳しくそして厳しく聞かせて貰うからね」
(彩絵)💬「ひゃ~怖い!お手柔らかにね、じゃあまた明日ね」
(楓)💬「良かったね、彩絵」
(凛)💬「悔しいけどおめでとう、また明日」
(彩絵)💬「二人ともありがとう、また明日ね」
次の日、二人の刑事による尋問が厳しく行われ、有罪が確定した。
五十嵐彩絵27歳
幸せな未来かもしれない罪で収監。
━━五十嵐
━━前田
━━松林
※後半はコント仕立てになっております(笑)もちろん美容師のモデルは神楽耶夏輝君です、勝手に使わせて貰いました。
見た目はイケてるのにシャイな男子(妄想より)
あらまー次のお題「罪」ですって、取り調べで書けるかも(笑)
(偶然ですが、ちょっとびっくり(ºㅁº)!!)
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