最強魔導士は偽りで

ふたまる

1話 移る魂

「くそっくそっ、行け!」


明かりのつかない小さい一室で、独り言をこぼす男がテレビ画面と睨めっこしていた。彼の名前は、鈴木昇は高校卒業後も就職せずにダラダラと家に引きこもり親のすねに住まうかじり虫だ。真剣な眼差しで画面を見ていたがすぐさま険しい表情に変わる。画面には『Game Over』の文字。画面にはさっきまで銃を持ち異性よくフィールドを駆け巡っていたキャラが倒れていた。その周りをウロチョロと勝利の舞をする敵の姿を捉えている。


「もういいや、今日は調子が悪い」


ヘッドホンを外してゲームとテレビの電源を落とす。ふと、周囲を見ると自分の部屋なは明かりが付いていないことに気づいた。唯一の光と言えばカーテンの隙間から出ている太陽光のみ。近くに置いてあったスマホを見ると時刻は7時だ。この状況から察するに、今からが昇の就寝時間だ。昼夜逆転の生活をしているから夜にゲームをよくプレイする。しかし、両親は電気代がもったいないとうるさく言うので、仕方なく視力と引き換えにゲームをしていたのだ。

けれど7時というのはまだ就寝には早い。基本的に9時か10時あたりになるのが毎日のルーティーンなのだが、今日はやけに負け続けるのでこの辺でやめておく事にした。しかも丁度ゲームをやめた途端に長時間画面と睨めっこしていた反動が一気に眠気となり襲いかかってくる。


「んと、その前に小便でも済まして置こうかな」


部屋を出る。昇の部屋は2階でちょうど階段の真下に両親の寝床がある。あまり音を立てて起こして仕舞えば後が面倒なので手すりにつかまりながらゆっくりと降りる。普通に歩いて到着するよりも倍もの時間を費やして目的のトイレへと到着した。


「早く済ましてとっとと寝よう」


そう思いながらドアを開く……が、そこには便器がない。本来小さな部屋の便所は大きな木がたくさん生えている謎の場所になっている。下を見れば草が生い茂っている。どこでもドアを開いたかのような突拍子のない状況にとりあえず出ようと踵を返したが、ドアがどこにもない、それどころか、四方八方、先ほどと同じように沢山の木々に草が生い茂る地面。昇がさっきまでいた自宅の形跡がどこにもなかった。

不思議な場所に1人取り残されてしまった。とりあえず用を足そうする。


「なんじゃこりぁーーーー」


用の最中で気づいた。ズボンを下ろしながら気づいた。

昇の服装が変わっていたことに。革でできた服に大きなマント。まるで、そう、ゲームの勇者が着ていそうな気品さが感じられる深に変わっていた。


「どうなってんだこりゃ。場所だけじゃなくて服装も変わっているのか?いや」


ここで自分の身長がやけに少し伸びたある感覚がした。もしやと、思い近くにあった泉に顔を近づける。そこにいたのは、就職が決まらずに無気力で不潔になり更にそのヤケクソでゲームを費やした結果痩せこけた面はそこには無く、オレンジ髪で欧州風の顔立ちをしたイケメンがそこにはあった。


そこで初めて気がついた。昇は、身体が別の誰かの身体に変わっているファンタスティックな現象に遭遇していたことに。

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