お守リン! ~あなたの人生リペアします~

れなれな(水木レナ)

女神の降臨!

 私はニート。独身女性。

 昔、プー太郎と言われたジョブ。

 親にも見放された「永遠の二十歳はたち」。

 このままではヤバイ。

 おひとりさまの老後が待っている。

 寂しいなぁ。

 なにがって、一番はまっくらな部屋で孤独にPCをいじってるこの日々のむなしさよ。

「神様、佐助稲荷さすけいなりさま! この現状を打開するために、ステキな人とめぐりあわせてください!」

 パンパン!

 ――このとき、私、お賽銭五百円投げた。

 でも出逢いはやってこなかった。

 引きこもりだからしかたない。

「出逢えないなー。毎日ネットサーフィンしてるだけじゃなぁー……」

 ぼやいてみると、ぼやいただけみじめになるから、自分の本音をシャットアウト!

 佐助稲荷神社で手に入れた、金色をしたお守りが、いまだ現役の学生机(!?)のスタンドからプラプラとゆれていた。

「あー、出逢い、ないかなっ」

 神様、仏様、今まで私、何していたんだろう?

 勝手に、二人は恋人同士だと信じて疑わなかった幼稚園時代。

 好きな人に告白されるのを待っていた学生時代(何様だ!?)

 なのに、今、ひとり……結局、ひとり。

 やっぱり、ひとり。

 なにがいけなかったんだろうなぁ。

 私って、待ちの姿勢が常になるていどにはモテていた。

 転校生はちょっと親切にするとみんな告ってきたし、たいていの男子も笑って挨拶すれば頬を染めて顔をほころばせた。

 私ってばおしゃべり屋じゃないんだけど、親切はできる。

 教科書やノートを見せてあげたりとか、吠える犬の家の前を通らなくていい道を教えてあげたり。

 手作りのパウンドケーキやレアチーズケーキをわけてあげたりしたのよ。

 だけど、私の好みは……もんのすっげぇ、理想高かった!!

 誰が見てもカッコよくて、ジャニーズかっていうくらいかわいい顔してて、オシャレにもこだわりがあって、シュミはバイオリンとピアノとクラシックギター。

 ええいっ! アイドルを心に抱いて何が悪いっ! 顔がよければ性格だっていいに決まっているわ!!

 ていうか、心のうつくしさっておのずと、外見にあらわれるものだと思うのよね。

 実際のところ小学校五年生から、中学校を卒業するまで好きだった人がいた。

 その間、二年間しか同じクラスになったことなかったけど、好きだった。

 どこがどうっていうのでもなくて、ひたすら憧れっていうか。

 身に漂うオーラっていうかね、魅力的でね、慕わしい、そばにいたいって思うの。

 それは、雰囲気がよかったのよ。

 まあ、そういう現実離れしたポヤーンとした感覚が、高校に入学してからも確かにあって。

 で、大学に入っても同じことのくり返しでね。

 学生を卒業したはいいものの、名前と容姿以外は知らない、憧れの君を夢みて今にいたる……

 でもそういうすてきな人ってすでに彼女がいてね、なんならもう結婚してたりなんかするもんなの。

 公園でベビーカーなんか押しちゃったりしてるの。

 はぅーん。世知辛い。

「イイ男、あらわれないかな……」

 ほんと、漠然としてるんだけど、これってもうダメなのかな? 私と合う人いないのかな!?

『そんなことないわ、手伝ってあげる』

 突如として、私の脳裏に知らない声がした。

 どうしちゃったんだろ、私。

 妄想もここにきわまれりって感じの都合のよい夢なんて本当、見たことないんだけど。

 ひたすら、くっらーい青春(?)をふり返ってる日々なんだけどっっ!

『そんなに暗くなかったでしょう。モノローグをふり返るに。むしろひそかにミーハーよっ』

「あんただれ?」

『だれだと思う?』

「えーと? 私のモノローグを知ってるなんて、もしかしてあなたは神……女神様なの?」

『そのとおりっ!』

 声の感じからして女神だと思うけれど、私以外に私の過去を知ってるのは、神様以外にいやしない。

『わけあって姿は見せられないけれど、清らかなあなたの心に応じて降臨したの』

 へー。

 しばらくほけっとして、それからPCを立ち上げようとしたら、その声がまたした。

『おどろかないんかーいっ! ていうか、女神よ? 少しはおどろいてっ』

「だって、神様だって忙しいだろうし。私以外の人を幸せにするために、奔走してるんでしょ? だから私にはいい人があらわれないんでしょ?」

 少ない知識から言うと、守護霊とか、神様っていうのは、たくさんの人を見守り、導き、指図しなきゃいけない。

 だから、私なんかがおひきとめしちゃいけないのよ。

「イイ男、あらわれないかな? 連絡はこちらまで。なんてね」

『あのね? 恋人は募集するもんじゃないの。出逢いって、待ってるもんじゃないわよ』

「だからこーしてネットサーフィンを……」

『だー! もう、聞きなさいよっ』

 私はピタ、とマウスを握る手をとめた。

『私は縁結びの女神。恋する乙女たちの味方なの』

「ふうん。その当の女神は、いったい何年くらい乙女をこじらせていたの?」

『だまらっしゃい! 縁結びの神よ。当然、霊験あらたかにきまってるでしょ。乙女かどうかなんて、そんなもんポイよっ』

「でも、本物の神様がそう簡単に人間のところに降臨したり、しないと思うんだけどなあ……」

『そこはね。今シーズン中につき出血大サービスなのよ』

「ほう。私の心が清らかだからじゃないのか」

 女神様の話を総括するとこうだった。

「十一面観音、ね……」

『これっ! ありがたい話を気楽に要約するんじゃないわ!』

 ムダ話はけっこう苦手。

「じゃあ、聞いてるから自由にしゃべったらいいよ」

 ぞんざいに言ってのんびり構えたら、脳内で女神がどうやらシナをつくるらしいのがわかった。

『ありがとう。初めはね、こんなことになるなんて、考えもしなかったのよ……』

 再び要約すると、婚期が大幅に遅れた昔の姫君が、結局いい男に出逢えなかったものだから、縁をとり結ぶ十一面観世音菩薩像じゅういちめんかんぜおんぼさつぞうに想いを託して木彫りに彫った。

 彫られたそれが、本来の女神の姿なわけ。

 以来、男女の縁をとりもつ神となって、数多の恋を見守ってきたとか。

『だから、気楽に要約するんじゃないわ』

「ふう」

『なんでため息』

「そんなの聞いたって恋人はできないでしょ?」

『本当に女子力低いわねー。そこはもっと、身をのりだして、相槌くらい打って、そのご利益を私にもって、懇願するところよ?』

「神だのみは何年も前からしてるんだけどねー……」

『だからこうして、助けにきてあげたんじゃないっ』

「そうなの?」

『そうよっ!』

「ごめん、初めから拝聴させていただきます。おしえてプリーズ」

『それでいいのよっ!』

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