第1話 山ん婆の昔話/雲泉

やまの かなた

第1話

 今日もお山のてっぺんで

  一人ぽっちの山ん婆が

  お迎え来るのを待ちながら

ピューピュウ冷たい山背の風に

  ざんばら髪をなぶられて

  かぼそい声で歌います


  この世の最後の慰めに

  誰にともなく語ります




心はどこにあるのだろう

胸にあるのだろうか

頭にあるのだろうか

それとも背中だろうか

そもそも心とは何だ?

悲しむ事を言うのだろうか。

苦しむ事を言うのだろうか?

喜ぶ事を言うのか?

誰もが持っている心を

持っていない人がいるとしたら

どこへ置いて来たのだろう

どこへ忘れて来たのだろう

耳も聞こえてる

目も見える

でも、どこかに置き忘れて来た心

いつか取り戻せる時が来るのだろうか




雲泉


やまのかなた



昔々、ある所に総十郎という若者がおりました。

総十郎の父親は藩の勘定方のお役で扶持は百石でした。

父親という人は思慮深い人で頭も仕事も出来る人でしたが、上役に取り入ったり仕事仲間と酒を組み合わせて気を許すような事は全く無く、いわゆる付き合いの悪い偏屈者と周りから見られていた為、信用はあるものの、

取り立てられて出世する事も無く、先祖代々受け継がれて来たそのお勤めをただひたすら勤め上げて来た目立たない人でした。

妻女は、総十郎を一人生むと産後の日立ちが悪かったのか、その後、元のようにすっかり元気になる事が無いまま、それでも幼児の為に養生しながらブラブラ病で総十郎が十歳になるまでは頑張って生きていましたがとうとう

死んでしまいました。

総十郎は幼い頃から、この病気がちの母親を喜ばせようと何事にも一生懸命に励みました。学問も、剣道もひたすら母親の笑顔見たさに励んだのです。

母親が亡くなってからは、その淋しさを忘れる為に尚一層励みました。

そのお蔭で十七・八歳にもなると、城下の若者達の中では並ぶ者が無いと噂される程の若者になっておりました。

おまけに背も高く、顔立ちも良く、いかにも優れて見えたのです。

父親は周りからそういう息子を誉められたり、評判を耳にした事もあっただろうが、それを特別喜んだり、自慢にする様子もありませんでした。

同じ暮らしぶりの気の良い同僚や親戚筋の中には総十郎の事を自分の事のように喜んで話す者もおりましたが、父親はそれを決して喜ばす、むしろ、総十郎が人のおだてに乗って軽薄な人間になりはしないかと恐れているような所が

ありました。

だが、総十郎は決して父親が心配するような人間になる事はありませんでした。

常に自分を戒めるような所があり、うぬぼれたりするような所はありませんでした。

二十歳になった春には、父親のお勤めを継ぐ為の準備をさせようと考えていた。その冬に、悪い風が流行り、それに罹って寝込んだと思ったら、なかなか快方に向かわず、むしろ、一日一日と弱って行くようで総十郎は腕の良いという

評判の医者にも診て貰いましたが、弱ったまま正月を越し、まだまだ暖かい春は遠い底冷えのする朝に、帰らぬ人となってしまいました。


その亡くなる前の日に、父親はそれまで伏せっていた体を寝床の上に座り直して総十郎に昏々と話して聞かせました。

「父上、無理をしてはいけません。まだ横になっていなければなりません。」

そういう息子に父親は煩わしそうに頭を横に振りました。

思えば、その頃には、例え短い一言であっても無駄に言葉を発するのが困難な状態だったのかも知れません。

総十郎はいつに無い父親の厳しい目にハッとして姿勢を正して耳を傾けました。


「総十郎、これから言う事は心して聞け。世の中という所はな、恐ろしい所なのだぞ。普段はいかにも優し気に見えても、ひとたび何か事が起こると途端に恐ろしい顔を見せる。それが世の中というものなのだ。決して、決して油断のならない所だという事を、まず肝に銘じておくのだぞ。」


「この父が死んだなら、お前が誰かに力を貸す事があっても、お前自身に何か災難が起きた時は、お前の事を庇って助けてくれる者はいないと思うのだぞ。総十郎、私がこう言うとお前は妙に思うだろうが、親戚や知り合いは気のいい者達ばかりだが、力の無い弱い者達ばかりだ。自分が生きていく事だけで精一杯の者達ばかりだ。もしもお前に何かがあった時、自分の身を捨てお前を助けたなら、その者達の家族に災いが降りかかるだろう。従って、その者達をあてにしてはならない。

だから総十郎、決して問題を引き起こさないようにくれぐれも身を慎むのだぞ。足を引っ張られないようにするのだぞ。目立つととかく人に足を引っ張られるものだ。総十郎、お前は学問所や道場では自分は他の者達より優れていると人におだてられてうぬぼれているのではあるまいな。」

「いいえ、父上、私は決してうぬぼれてはおりません。」

「目立つ者は必ず人の妬みをかって、いつか足をすくわれるものだ。それが世の中といいうものだ。総十郎、くれぐれも慎重に、出来れば目立たぬようにただ、ひたすら真面目に仕事に励むのだぞ。どんな些細な事でも命取りになる事がある。

決して調子に乗ってはならぬぞ。それから、もう一つ、お前の口から出た言葉は、お前の気持ちとは違った形で人の口から口に伝わって、いつの間にか思いもかけぬものに変貌する事があるものだ、人の心の底には悪意と言うものがあって、それが少しずつ少しずつ形を変えて人づてに伝わって行くものなのだ。くれぐれもくれぐれも気をつけねばならぬのだぞ。」


その日の父親はいつもの父らしくなく、何度も同じような事を繰り返し話した。

くどい程話した後、力を使い果たしたように横になりながらも、まだ何か心残りなように一人息子の際立って凛々しく端正な顔を悲しそうな、心配そうな目で見つめているのだった。


総十郎はそんな父親を初めてみる思いで、もしかしたら、父は長くはないのかも知れないと不吉な事が頭を過ったが慌てて払いのけたが、慌ててはらいのけた。だが、その予感はやはり真実となった。

翌朝、父親は冷たくなってもう二度と帰っては来ない人になったのでした。


葬式には次から次へと多くの人々が焼香に訪れた。

その誰もが父親に世話になったと言い、何かあったらいつでも力になると言ってくれた。総十郎は悲しみの中にあって、その言葉が有難く心強く思われた。

人はいつかは必ず死ぬ、死んであの世に旅立たなければならない。

近くにいた者達は、その時、故人の消えていなくなったことを淋しく思い、心細くも思い悲しむが、だからといっていつまでも悲しんでばかりはいられない。残された者にはそれぞれまるで容赦ない勢いのある川の流れのように時の流れという日々の暮らしがあって、その時の流れに流されながら厳しい暮らしの中に身を置いているのだから、故人をいつまでも偲んでばかりはいられないのだ。

父親の葬儀が済んで、初七日もすると父の親族や友人達も皆、おのおのの暮らしの中に帰って行き、もう顔を出して総十郎を力づけてくれる人も無くなった。

皮肉な事に父親が亡くなった後、急に春がやって来たように暖かくなって、その暖気に誘われるように世間の人達も陽気になっているようなのが総十郎には淋しかった。

日も長くなって、陽がすっかり沈むまでの時間が今の総十郎には亡き父の面影が蘇って来て、ことに切なく感じられる。

一人だけいる下男の老爺は用事で外に出ていて家の中には総十郎ただ一人っきりだった。

総十郎は近々、父親の跡を継いで、出仕する予定になっていた。

その間の数日、自分はどうしなければならないかと繰り返し頭の中で考え幾度も整理したが、そういう事は実際にお城勤めをしてみなければ解らない事でもあった。

父親が急に逝ってからは、家の中に居て仏前で過ごす事が多かったなく来た。

ああ、今頃はどこの家でも皆が集まり今頃は団欒を囲んでいるのだろうナ。思えば両親がいた幼い頃は体の弱い母だったけれど、それなりに暖かい家庭だった。母が死んでからは寡黙な父親だけになったが、それでもその父が居る事で総十郎は伸び伸びと

勉学に励み、道場でも心置きなく修練を積む事が出来た。

だが、今はどうだろう。

下男の老爺はいるが、その爺とて今はこの自分が守って行かなければならない。いざ父親が亡くなってみると自分の周りがまるで違って見える。

急に足場を失ったような、自分が根の無い草のように心もとなく思われる。

そう思って見るこの人の気配の途絶えたいつもの細い通りまでもが、あの懐かしい団欒がすっかり遠いものになってしまった事を感じさせて、今までに無い心細さがヒタヒタと総十郎の体を覆って一層やるせない気持ちになった。

総十郎は家の前の古い木の門によりかかり体をあずけてボンヤリ物思いにふけっていたのだが、ふと近くに人の気配を感じて思わず目を見張ると、そこには陽の沈みかけるくらい赤い夕空を背にして、細い通りの向こう側の物陰に隠れるように立っている

娘の姿があった。

あっと思い、しげしげとその人を見つめるとその人は、まぎれもなく総十郎の覚えのあるあの人だった。

その人が今、目の前にいる。こんなにも近く。まるで自分の悲しみを解ってそこに立っているようであった。

周りに人の影が全くなかった事と、今のやるせない切ない気持ちが勇気を与えてくれたのか総十郎はその娘の方へ数歩近づくと、その娘の顔を見た。

今初めて、その娘をこんなにも間近に見た。

娘はきっと、総十郎が唯一の父親を亡くし、悲しみに沈んでいる事を思い、忙しい手伝いのわずかな暇を見つけてここに佇んでいたのに違いなかった。

その想いが口に出さずともその目から切に伝って来て、総十郎は思わず自分でも信じられない事だが、

「貴女は私を待っていてくれますか?私の妻になって下さいますか?」と口に出して言っていた。

娘はその言葉を聞くと、ハッと胸を抑えたがやがて千年も待ち続けた者のように涙を湛えた情のある目で総十郎を見上げ、深く頷くと逃げるように三軒先の自分の家の方へ走って行った。

その後ろ姿を見送りながら、いつの間にか総十郎の胸に新たな力が湧いて来るのが解った。

もうさっきまでの不安で頼りない根無し草の自分ではなかった。

まるで百人の見方を得たような喜びが胸に満ちていた。

やがて、数日して総十郎は父の後を継いで、出仕した。

何事においても慎重に。そして冷静に。謙虚にと常に自分に言い聞かせて。緊張しながらも仕事に励んだ。

父親が言い残した言葉を忘れる事は無かった。真面目な総十郎の姿勢に、やがて周りの同僚や上役達も徐々に信用するようになって、一年もすると仕事も慣れて来た頃、

ある日、総十郎は突然、筆頭家老にヨぼれた。

何故自分が呼ばれるのだろう?何か間違いがあったなら上司にまず注意なりお叱りを受ける筈なのに何の話だろう?

筆頭家老といえば総十郎達のような下の者にとっては、雲の上の方で滅多に顔を合わせる事の無いお方だった。

総十郎は緊張しながらも、神妙に家老の待つ座敷に伺候した。

人の気配がしたので、ひれ伏して待っていると、

「山高 総十郎か。」と声があった。

「表をあげなさい。」

筆頭家老という人を間近で見る事等、全く無い総十郎の目にその人は随分優しく見えた。

声音も優しく、背は高くはなくやせた銀髪のその人は総十郎を好もしそうに眺めて、

「父を亡くして仕事を継いで頑張っているそうだの。仕事には慣れたか?」と聞いた。

「はい。今はただ、ただ、お勤めをつつがなく果たせますよう心掛けている所です。」

総十郎が緊張してそう答えると、家老はしげしげと見て、

「仕事ぶりは熱心でよく勤めている事は聞いている。今日呼んだのは、一つ仕事を頼みたいと思って呼んだのだ。儂はこうして時々、有望な若者の中から将来、この藩を担って行く人間を探している。そういう者に機会を与える事をしているのだ。どうだ

やってみてはくれぬか。仕事の詳しい内容は別の者が説明する。まず、その仕事を無事果たしたなら、良い事もあろう。」

そう言って優し気に笑った。

家老が部屋を出て行くと、別の者が来て仕事の説明をした。その仕事は総十郎にとって無理な事では無かった。これから何日間か特別な座敷に極、限られた数名が呼ばれ、過去に記帳された経費等の文書の中から誤りが無いかを調べて書き出し、またはそこから

無駄な点を書き出して、その収支をこれからの財政に役立てるというそういう仕事であった。

総十郎はその集められた五名の中の一人として真剣にこの仕事に取り組んだ。

五日程してそれが済むと、最後に簡単な報告書のようなものを書いてそれぞれが出すように言われ提出した。

難しいようでもあり、緊張の中にもやり甲斐のある仕事だった。だがその仕事は終わった。

その帰り道総十郎は、


まず終わった。あれで良かったのかどうか。自信は無いけれど、自分は精一杯やった。

それにしても他の五人も粒揃いの優秀な人達だった。皆、自分よりも年上で仕事の経験もあり、落ち着いた凄い人達ばかりだった。これからも、あの人達に負けぬように頑張らなければ。

そう考え晴れ晴れとした気持ちで帰って来たのだった。


果たして、その事があってから一ヶ月もしないうちにまた、家老から呼ばれた。


「先日は御苦労であったな。皆が頑張ってくれたお蔭で今まで気がつかなかった諸々の事が解った。なかでも、総十郎、お前の報告書が優れていると上様が大変感心なされて、直々に会ってお言葉を賜るそうじゃ。良かったナ。儂が見込んだ通りになった。」


家老は大変満足しているようであった。


このようにして、出仕してまだ一年も経たぬのに上様から直々のお言葉を頂戴して総十郎は、周りから驚きの目で見られるようになった。

急に偉い家老から誉められ、更には家老について行って上様から直接お言葉をかけられ、まだまだ青二才の総十郎にとっては思いがけない事の連続で、かえって空恐ろしい程だった。

自分は勿論の事、誰にも何も話した訳でも無いのにその事は周りの人に知れて、いつか評判になっているようだった。

総十郎は頭の隅で父親がこの事を喜んではいなくてかえって心配しているように思って、

「これは危ないぞ、調子に乗ってはいけないぞ!」と自分に言い聞かせた。

そして一層真面目に勤めに励んだ。

父のように目立たぬようにしよう。そう思う毎日だったが、運命はどうしても総十郎を放ってはおかなかった。

また、筆頭家老から呼ばれて、上様が総十郎を大変気に入られていると。家老と共に何かの宴席に呼ばれたり、ちょっとした仕事を言い使ったりした。

総十郎は派手な事が嫌いなので、出来ればお断りしたいと考えるのだけれど、断る事の出来ない事で、むしろ上から見込まれてしまったという事は喜ばねばならない事だった。

総十郎は背丈も人より高く、見た目もりりしく顔立ちも端正な事から上様や御家老が連れ歩くのに相応しいと思われたのだろう。

しかも剣術の腕前も誰もが知る所であった。


勘定方に席を置いていながら、時々御家老に呼ばれて仕事をする事が一年程続いたある日、上の方から総十郎に新たなお役変えの沙汰があった。

上様のお側衆の一人に抜擢されたのである。異例の大出世であった。

たかだか百石取りの若者がなりたくてなれる仕事では無かった。

このお役変えにともない石高もそれに相応しく五百石に加増される事になるという。

総十郎の心持とは裏腹に、あれよあれよという間に出世の階段をひとっ飛びに高い所まで登ってしまったという案配だった。

この事は地味な父親を知る親族や知人を大いに驚かせたが、皆はこぞってお祝いの言葉をかけてくれた。

百石から五百石になると住む家も元の所という訳には行かない。

総十郎は新しい屋敷に移る事になった。

総十郎は何人か家士を置かなければならない所を、道場で剣術を共に修練していた頃の折目正しい性格の一つ年下の二男という若者に話をし、我家の家士という形になるがと声をかけると喜んで仕えたいと言って

くれ、その者一人と老爺を連れて今までの所から

少し離れた、大きな屋敷に移る事になった。

引っ越しの日、総十郎は近所の皆に礼を言って歩きだす時、人々の陰に隠れるようにして見送るタカを見かけた。

あの後、あわただしいお勤めで何度か顔を見かける事があっても、いつもそばに誰かがいて、あの時のように二人っきりで言葉を交わす事の出来ない二人だった。

大出世して、ここを出て行く総十郎を見つめる娘の目は心細く悲し気だった。

総十郎は皆にお礼を言って歩きだす時、その娘の目を見て笑い、しっかり頷いてみせた。

娘は総十郎の気持ちが今も変わらずにいる事を確かめたのだろう。ホッとしたような目をした。

その様子を見て総十郎も心の中でその娘にも自分

にも向けてこう話しかけた。


「さあ、これからが本当の戦のようなものだ。きっとこれからが苦しい日々になるだろう。だが俺は頑張ってみせる。いつか落ち着いたなら必ず迎えに来るから。」そう心の中で誓った。

総十郎が二十歳、娘は十六歳だった。

出る釘は打たれると古来から言われている事の通り、急に若干二十歳で出世をとげた総十郎に世間の目は冷たかった。

だが総十郎には家老という強い後ろ盾があった。どういう訳か、父の後を継いで出仕した時から家老に目をかけられたのである。

総十郎は自分を推してくれるその人の恩に報いようと、一層仕事に励んだ。

それから大過なく無事に二年が過ぎて行った。

お蔭で周りの冷たい目もいつか総十郎を少しずつ認めるようになって行った。

そのようなある日、総十郎は家老の屋敷に呼ばれたのであった。

仕事の話かと伺うと家老は顔をほころばせて、妻を娶らぬかを切り出した。

しかも相手は家老の末娘であるという。その娘は総十郎も耳にした事のある才媛であった。

和歌、茶の湯、琴、いずれにも通じしかも美しく、明るい性格で、家老が最も可愛がって自慢にしている末娘だった。

その宝物を総十郎の妻にくれてやるというのであった。

若い男なら誰もが喜んでこの話に飛びついたであろう。だが総十郎は違った。

それまで自分を認め、引き立ててくれた家老に深く感謝しながらも瞬時に”タカ”の事を想った。

タカのあの涙をたたえて見上げる黒目がちの目を思い出した。

総十郎はすぐに平伏して返答をした。

「御家老の有難いお言葉、誠に身に余る事ですが、私にはすでに約束した者がおります。」とそう答えた途端、急に部屋の空気が寒々と冷えて家老の顔から笑みが消えた。その後

総十郎はうすら寒い気持ちでその場を退出したのだった。

帰り道、今まで急な出世はこの為だったのか、そう思うと夢のようなとんとん拍子の出世がいかにもまやかし物のように思われて急に不安な気持ちになったが、しかし自分は今まで通り真面目に仕事するしかないと腹を決めた。

総十郎は出世の為に約束を破るような男ではなかった。

例え元の百石に戻ってもいい、自分はタカと約束をしたのだから。その約束を裏切って御家老の娘を妻にする事など出来ないし、考えられない。

私が親もなし妻もなしの一人者だから悪いのだ。もっと早く妻を迎えるべきだった。

そう考えると総十郎は家に帰るなり、知り合いの者に頼み、タカの叔父の預かり親に話を通して一日も早く妻帯する事にした。

総十郎も親のない身ならタカも同じで本当の両親のいない孤児のような身の上だったので大それた祝言はせずにほんの盃事を形ばかりして身一つでタカを妻に迎えたのであった。

それは御家老から話のあったたった三日後の事だった。

その事は内々にして誰にも話さないのに、総十郎が妻を迎えたという事はあっという間に知れ渡った。

多分、御家老の耳にも入っただろう。自分では単なるひっそりとした私事の筈だったが、このように人々の口端に上るとは意外な驚きだった。

自分がそんなにも人から注目されていたのかと知った事は身のすくむ思いだった。

一旦人の口の端にのぼると、ほんの些細な事でもそれに何やら余計な尾ひれがついて、妙な方向に話が膨れ上がる事は知っていた。

これは気をつけないといけないぞ。

総十郎は自分に厳しく言い聞かせて誤解を招くような所は見せずに、増々身を慎んで仕事に励んだ。

気をつけ、気をつけて一日一日を過ごした。

たった一度だけ、どうにも断り切れない同僚の祝いの席に出席したが、その時も周りの流れに流される事なく酒を一口も飲まず、ただ誰かに話しかけられ聞かれた事は慎重に受け答えをした。

しかし、その酒席でさえ、今までとは何か様子が違う事を感じていた。職場でもそうだった。人々の自分を見る目が急によそよそしく、時には言葉の響きもとげとげしく思えるのは自分の気のせいだろうか?と思いながらも

その度に背筋に冷たいものが走った。

それからは勿論、以前、あんなに頻繁にあった家老からの呼び出しは全くなくなっていた。それは覚悟していた事だった。

自分さえ心を引き締めてお仕えしていれば、この今の息苦しさは時間と共に薄れて行くだろう。それまでは頑張るのだ。そう自分に言い聞かす毎日だった。

そんなある日、牧田という上役から呼び出された。

総十郎の仕事に不行届のあった事を指摘され、叱責された。

先日、この牧田から言われ、大事な書面の代筆をし、その書面を持って相手方に届けに行った事があった。

代筆した書面を牧田に確認して貰い、大事な大事なお役目であるから、先方の主が留守だったのでそこを動かず、かなり長い時間待って、お帰りになったのをお会いして確かにお渡しして、その日は暗くなってから帰って

来たのであった。

だが牧田が言うには、翌日にその書面は遅れて届けられた上に内容がことごとく間違っているという事であった。

タカを妻にして、わずか半年後の事であった。

そんな馬鹿な!牧田殿も御覧になって確認したでしょう?そう口に出そうになったが、総十郎はぐっとこらえた。

牧田が言うには、書面に書かれた日時も間違っていたし、その事よりも何よりも総十郎には藩政に対して陰で批判しているという噂まで流れているという。

だから、この度の大事な書面もわざと日時を違えたのだと、その上の者達は見ているという事であった。

牧田は総十郎の反論等全く聞こうとせず、目の前で謹慎の書状を読み上げ、家で沙汰を待っているようにと言った。

そして部屋を出る間際に振り返って、

「もしもその噂が真実であれば、切腹もあり得ると言い捨てて出て行った。

さすがに総十郎は総毛立った。

根も葉も無い身に覚えの無い濡れ衣だった。

酒を飲み交わすあの場には顔を出したが、酒はすすめられても口にしなかった。話す言葉も慎重に選んで受け答えをした。

人の口車に乗らずに、ただひたすらに身を引き締め慎重の上にも慎重に歩いて来た自分であった。

総十郎は帰る道々、あらゆる事を考えて来た。


珍しく早く帰宅した夫の青ざめた顔を見て、タカはすぐに何かあった事を知った。

心配そうに見つめる妻に総十郎は言った。

「タカ、身に覚えが無くとも罪を着せられるという事は世の中にはよくある事だ。特にこの武士の世界という所では、その不条理な事が当たり前のようにまかり通るのだヨ。誰から何を言われようと私は潔白だ。これから、何があるか解らないがついて来てくれるか?」

タカは大きく目を見開き意志の強さを表すように深く頷いた。

だが、その時の総十郎の胸の内では、例え誤解されて人の過ちを自分の過ちにされて減俸されようとも、まさか命までは取られる事はあるまいと思う気持ちがあった。

すると、総十郎の家士が玄関に万八郎という友人が来ていると言いに来た。

出て行くと、幼い頃からの友人の万八郎だった。

昔はなんでも話し合える友人だったが、総十郎の急な出世でここ二・三年はお互い足が遠のいていたのだった。

万八郎は走って来たのだろう、汗をかいていた。


「総十郎、お前、何をしたのだ!!」

いきなり万八郎があえぐように言った。

「お前、とんでも無い事をしたそうじゃないか。しかも調子の乗って藩政を批判した、とんでもない奴になっているぞ!!お前は絶対にそう言う事をしたり、言ったりする奴じゃない。おかしいと思って俺は確かめに来たんだ!」

万八郎は切羽詰まった顔で聞いて来た。

「勿論だ!俺はそんな事はしていないし、ましてや藩政を批判した事等一度も無い!!」

そう言いながらも総十郎は、身体がブルブル震えて来るのを抑える事が出来なかった。

あんなに気をつけ慎重に慎重にと務めて来たのに、そんな馬鹿な事があるものか!

「私をはめようとしているがいるんだ!!」

総十郎は自分でも驚く程、大きな声で興奮して叫んでいた。

そう言葉に出して言った途端、鮮やかに頭をよぎったのは筆頭家老の顔だった。

間違いない!それ以外には考えられない。悪夢の中にいるような想いとはこの事だった。

家老が相手では勝ち目がない。どんな言い訳をしようときっと通らないだろう。

そんな想いが次々と湧いて来る。

そんな総十郎の耳に万八郎の声が尚も聞こえてくる。

「お前、明日にでも切腹の沙汰があるという噂だぞ!木下様と岩本様が話しているのを俺は偶然、この耳で聞いてそれで飛んで来たんだ!!」

聞こえて来る。そんな馬鹿な事があるものか!と思いながらも、これまでの諸々の事を考え合わせれば、何かもっともらしい理由をつけて、自分の言いなりにならなかった俺をつぶしにかかるのは本当の事のように思われた。

何て不条理な世界だ。馬鹿馬鹿しい世界だ。俺はそういう世界の為に必死に努力し、励んで来たのか!

総十郎の気持ちは急になえて体から力が抜けて行くようだった。

「総十郎!お前すぐ逃げろ!これは少しだが何かの足しにしてくれ!」

万八郎はそう言って金の入った包みを総十郎の手に無理矢理握らせた。

恐らくここに来る時、家の中の物を全部かき集めてきたのだろう。こんな針のむしろのような世界にも真心のある奴はいたのだと思うと総十郎もタカも有難さに泣いた。

しかし、今は友情に泣いている場合ではなかった。万八郎には迷惑はかけられない。

急いで背中を押すように万八郎を帰すと、家士にも友人がこの家を訪ねてきた事を口止めし、こうなったいきさつをあらまし説明し、心ばかりの金と大事にしていた品を与えて、自分は誓って潔白だが話して解る相手では無いと

自分達は出奔する事を話した。

家士は驚いて目を見張って聞いていたが、ただ一言、「御無事を祈ります。」と言ってくれた。

五百石なら何人か家士を置くべき所を、この者ならばと総十郎が見込んだ只一人の信用出来る人物だった。

自分の所に身を置いたばかりに災いを受けなければ良いがと思った。だがあの者なら自分の身を立てて行くだろう。それに老爺は、少し前から体をこわして、息子の所に帰っていたのは幸いだった。

総十郎とタカはほんの二・三枚の着替えと金子だけを持ってその後、すぐに家を出たのだった。

外は前の日からチラチラと雪が降っては消え、また振り出して、いよいよ本当の寒さがやって来る時節になっていた。

何も悪い事をしていないのだから逃げる必要等無いと思う。

だけれども、空恐ろしい程、トントン拍子に出世したのは全て家老の力によるものだった事を認めない訳には行かない。

それも全て自分の娘婿にする為だった事は、今ならはっきり解る。

それを自分ははっきり断った。そしてその後すぐに嫁を貰った。

この事は、相手の家老にしてみれば、かけてやった温情を足蹴にされた憎い奴という事になるのだろう。

顔に泥を塗られたと思ったかも知れない。


そんな恨みの私情でどこまでも追い込んで目の前から消してしまおうとしている相手なら、逃げる他道は無いと総十郎はすぐに悟った。

父上が亡くなる前に言っていた事は本当だった。本当に恐ろしい所だったのだ。

だが、自分に他に道はあったろうか。タカとの約束を破って家老の娘婿におさまる自分はどうしても想像出来ない。

やはり自分はこういう運命だったのだ。


雪が舞い落ちる中、黙々と足早に歩く総十郎に小走りで必死について来るタカが哀れでならなかった。

城下をはずれた所の小さな物置小屋でほんの少しだけ休んだ時、タカが堪り兼ねたように総十郎に聞いた。

「旦那様、これは全て私のせいなのですネ。」

「何を言う、お前のせいなんかであるものか。」総十郎は精一杯の優しさをこめて笑って答えた。

タカは家にいながらも、老爺か誰かから世間の噂を聞いていた。自分の夫が辛い立場に立たされていることを知っていたのだろう。

二人はまた、雪の中を歩き始めた。やはり胸をよぎるのは苦い思いばかりだった。あまりにも早い出世だった。

父が言った通り、総十郎が無実を訴えて守ってくれる者等一人もいない事も…。

それにあの狡猾な家老と戦って勝てる訳がないだろう。心の支えになってくれる筈の父ももうこの世にはいない。

万八郎が一人、俺の為に命をかけて来てくれたのだ。万八郎は大丈夫だろうか?

二人は雪が降りしきる中を逃げた。

行く先はタカの叔母が済むと聞く”大橋”という大きな町だった。

そこは簡単に行きつける場所ではないが、そこに無事たどり着ければ何とかなるようなきがした。

しかし必ず追っては来るだろう。実際二人を追って出ていた。

総十郎は峠を登る時、追手の姿を見てすぐにタカに別々に行く事を告げた。

「二人一緒では二人共殺されてしまう。女一人なら斬りもしないだろう。それに俺一人なら逃げおおす事が出来る。もしも二人共逃げおおせたらあの”大橋”の町で会おう。」

総十郎は笑ってタカに言った。

この人ともこれが最後の別れになるのだ。そう思うとタカの目からは涙が溢れた。

「なーに、この世で会えなかったらあの世で会うサ。」と総十郎は笑った。

「旦那様、こうなったのは私のせいですか?」タカはまた聞いた。

「タカのせいでなんかあるものか。こんな世の中つくづくうんさりだナ。俺は仕方ないと諦めているが、タカには苦労をかける事になった。すまん。俺も出来るだけ頑張ってみる。

タカも出来るだけ頑張ってみてくれ。そして、俺が死んでタカが生き残ったら、今度こそ幸せになってくれ。いいネ。」といった。その時タカはおもっていた。

どうしてもこの人を死なせたくない。この人が死んで帰らぬ人になるなんて嫌だ。タカの胸に激しい怒りのような悲しみが湧き上がった。そして思い切って告げた。

「旦那様、私のお腹の中にはややがおります。旦那様のややがおります。絶対死んではなりません。絶対生き延びてややに会ってやって下さい。」

すると総十郎の顔にパッと輝くような喜びが現れた。そしてタカを思いっきり抱きしめた。

抱きしめながら、「タカ、ありがとう。体を労わってそのややを無事、生み育ててくれ。私は嬉しいヨ。本当に嬉しい。私が死んだ後もこの命を継いでいく者がいると思うと、本当に嬉しいヨ。タカありがとう。私は、もしも死んでも満足して死んだと思ってくれ。さあ、タカは下の方の道をおいき。神仏はきっと見ておられる。見ていてきっと哀れに思って手を差し伸べて下さる。それを信じるんだヨ。このややが私の心を受け継いでくれる者ならば武士にだけはしないで欲しい。さあ、おゆき。体を労わるんだヨ。」


そう言うと、総十郎はニッコリ白い歯を見せて峠を降りた所の二筋道を上の方へ去って行きました。

タカは振り返り振り返り、その人の姿が降りしきる雪の中に消えると下の方への道を急いで歩いて行きました。

雪はシンシンと降り続け、やがて人気のない道は雪が降り積もって少しずつ深くなって行きました。

タカの足では歩いて進むのが容易でなくなって来ました。それでも総十郎の顔を思い浮かべ、話した言葉を思い出しながら、無我夢中で前に進みました。

あの人を助けたいばっかりにお腹にややがいると言ってしまった。

げんに、ここ二・三ヶ月は世間「の噂を聞いて秘かに心を痛めていたせいか月のものが無かった。

総十郎が家老の娘婿の話を断って名もない娘を嫁にしたばっかりに、今では針のむしろにさらされているという噂だった。

タカの前ではその気配を少しも見せぬ総十郎が、どんな辛い立場にあるかをタカは夫にも聞けず、一人胸を痛めていたのだった。

しかし、つわりも無く自分のお腹の中に子供がいるとはさっきまで考えもしない事だった。

それが、総十郎と最後の別れになると思った途端、口をついて出た、いわば嘘だった。

そう言ったなら総十郎は何が何でも命を惜しんで逃げ切ってくれるだろう。

そんな願いを抱いてついた大嘘だった。

タカは嘘をついた事に後悔は無かった。

総十郎の一瞬、パッと輝いたあの顔を思い出し、それを励みに進んだ。必死に進んだ。

雪はシンシンと降り続き、いつの間にか日が暮れて、立ち止まると雪に埋もれてしまいそうで無暗やたらに進んだ。

道がどこやら解らずに、まるで夢の中を歩いているような心地で足を一足、また一足と前に進めた。

ただ祈るように。

「旦那様、総十郎様。」

と繰り返し呼びながら、前の方へ前の方へと進んだ。

疲れてヘトヘトになって、このままこの雪の中で眠ってしまったらどんなに楽だろうという気持ちになった時、雪すだれの合間に、気のせいか遠くに灯りが見えたような気がした。

きっと気のせいだろう。狐火だろうか?遠くで人々の叫ぶ声や刀を打ち合う音が聞こえたような気がしたが、それも気のせいだろうか。

総十郎様、総十郎様。

タカは気が遠くなって行く中に総十郎の笑顔をすぐ身近に感じたような気がした。

タカは幸せになってくれと笑う総十郎の顔が…。

犬がさかんに吠える声も聞いたような気がする。



気がついた時、タカは一軒の農家の暖かい布団の中で目を覚ました。

「あれまあ、気がついたかい?」

傍に気の優しそうな老婆と老爺がいた。

「この辺は雪が降ると誰も通らないんだヨ。もう少しで危なかったネ。うちに犬がいなかったら、お前様は春の雪解けまで雪の下だったろうサ。うちのゴロとランがやけに吠えるから仕方なしに外に出て見たんだヨ。ほんとお前さんは

運が良かったヨ。」

老婆がそう言って笑った。

タカはボーッとしてお婆さんが話しかけるのも上の空だった。

やがてお爺さんが外に出掛けて行くと暫くして帰って来て、

「上の山道の方で斬り合いがあって、何人か人が死んだらしいヨ。大騒ぎだったらしい。追手が五人もいて、それの三人までやられたがとうとう仕留めたと言っていた。」

タカはそれを聞くとワーッと泣いた。背を震わせていつまでも泣いた。

お爺さんとお婆さんは何かコソコソと話し合っていたが、お婆さんが

「まさかとは思うけれど、追手がここまで来ないとも限らないから、お前さんそこの陰の物置に隠れていた方がいいヨ。」

そう言って、物置を片付けてそこに寝かしてくれました。

お婆さんもお爺さんも優しい人でした。

ある日、同じ村の男の人が遊びに来て斬り合いの話をした後、

「ところで女の人を見かけなかったかと聞かれたんだヨ。追われていた侍には女の連れがあったらしんだが、その女がどうなったかと聞かれてもネー。この深い雪だ。どっちにしても助かりっこありませんヨ。そう答えておいたんだがネ。」

等と話す声がタカの耳にも聞こえて来た。

まさかこの家にかくまわれている事も知らないで、村の男は帰って行った。

タカは疲れと体の冷えからか、熱と心の喪失感の為に床から起き上がれないでいた。

自分がこのまま死んでもかまわないと思った。

実際、厠に立つのも歩くのも一人でまともに立ち上がって行けない程弱っていた。

ある日お婆さんが、

「変な事を聞くけどネ。あんた、お腹の中に子供がいるんじゃないのかい?あんなに出血した後、いや子供も無事かどうか。あんたを着替えさせるのに裸にした時、私ゃすぐ解ったんだヨ。あんたは底腹といって、ちょっと見には解らないけれど

お乳もお腹に赤子のいるお乳だヨ。」と言った。

タカは今まで少しも気がつかなった。

若い頃から月のものは不順だったし、総十郎の世間の噂が耳に入って胸を痛めていたせいでお腹にややがいる等と思いもしなかったのだ。

だが。本当にややがお腹の中にいたのだ。

だけれども、老婆の話ではかなりの出血をしていたという。だから、犬も血の匂いに気がついて吠えたてたのだろうと言っていた。

あんな思いをして雪の中で危うく死にそうになりながら、お腹の赤子は無事だというのだろうか。

タカは自分のお腹に手を当ててみた。

冷たくて少しも命が宿っているようには思えない。赤子は死んでいるのかも知れない。

総十郎様が死んでしまった今、このまま私もお腹の赤子と一緒に死んでしまいたい。

タカは熱のある体で、ただただ総十郎の別れ際の笑顔を思い出しては、あの世に追って行きたいと願ってばかりいた。

すると枕元で、「恐らくお腹の赤子があんたを助けたんだろうサ。あの雪わらの中でゴロとランが家の中にいたにも関わらずワンワン吠えて知らせたのは、動物の勘って奴で、お腹の中に赤子のいるあんたを助けたい一心だったんだヨ。事情は解らないが、

折角拾った命だ。大事にしないといけないヨ。」

お婆さんの優しい言葉にもタカは気持ちの抜けた人のようにボーッと聞いていた。

どんなに慰められても少しも生きる元気が湧いて来ず、まして、お腹の赤子もひっそりとしていてお腹に自分がいるという事を少しも主張しないまま、タカも気の抜けた人のようにただボーッと月日が流れて行った。






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