第29話 [師弟関係?]




 無事に決闘に勝利した。



 ちなみに最後に使った【竜王の一角ドラゴン・ホーン】という技は、持っている武器にありったけの“気”を注ぎ込み、竜王のツノの如く硬くする技だ。


 だがこれは、“気”を入れ続けないとすぐに壊れてしまう技なのであまり使えない。


 武器が膨大な“気”に耐えられないのだ。



 俺は木刀に“気”を注ぎ込めるのをやめたので、木刀が粉々になってしまった。



「くくく、なかなか良い決闘だったぞ」



 相手は聞こえていなかったのか、俺の顔ばかりジィーっと見つめていた。


 そしてハッと気を取り戻したのか、俺の手を両手で掴み、こんなことを言ってきた。



「あ、あのっ!!僕を……弟子にしてくださいっ!!!」


「………は?」



 で、弟子?なぜいきなり……。



「ま、待て。いきなりなんなんだ。というか決闘の目的はなんだったんだ?」



 俺に勢いよく近づいてきた相手に疑問に思ったことを口に出した。



「ああ、そういえば師匠に言ってなかったですね!」


「うむ………っておい!俺は師匠をするなど一言も言っていないだろう!だいたい俺はもう弟子を取るつもりなどないぞ」


「えぇっ!?そんなぁ……。そこをなんとか!!」



 一瞬だけ地面にヘタッと座ったが、すぐにまた俺の手を掴んできた。



「むむむ……とりあえずなぜ決闘をしたのか説明しろ……」


「あ、はい。えっとですね、昨日広場で師匠が戦っている姿を見たんですよ」



 やはり視線の正体はこいつだったか。



「その戦っている姿がまるで次元が違うような感じがしたんですよ!それで確かめるために決闘を申し込んだ……ってことです!」


「ふむ、決闘の理由はわかった。だがなぜ師匠をやらねばならないのだ?お前の技は師匠に教えてもらったものではないのか?」


「これはお爺ちゃんから教えてもらったんです!お爺ちゃんも僕より強い人を見つけて、そいつを師匠にしてこい!って言ってましたし」



 お爺ちゃんよ……。ただ自分が面倒になったからとかではないよな……?



「悪いが、諦めるんだな」


「えぇぇ!!なんでですかっ!!」


「理由は先程から言っているだろう……」


「仕方ないですね……」



 お、物分かりがいいな。判断が早いやつは嫌いではない。むしろ好印象———



「じゃあ師匠が僕のことを弟子にしたくなるように色々とお世話をします!!」


「お前は話を聞いていなかったのか!!」



 諦めたのかと思ったが、全然違ったようだ。



「僕は絶対に諦めません!!今からお帰りですか!?お伴します!!」


「いらんっ!お前も自分の家へ帰れ!!」


「ダメですよ師匠。師匠の後ろを歩くのが弟子の役目です!」


「だぁから師匠ではないと言っているだろう!!」



 ギャアギャアと口争いをしていたが、こいつが諦めることなく、俺は自分の家へと帰ることにした。


 すで日は沈んでおり、空には星も見えていた。



「では師匠!家までお伴します!!」


「はぁ……好きにしろ……。だが師弟関係ではないぞ」



 階段を降り、俺たちは下駄箱へと向かって靴を履き、帰り道を歩いた。



「師匠、師匠!師匠はなんであんなに強いんですか?」


「そうだな……最強を目指しているからな」


「おお……!さすが師匠!!」


「師匠ではないぞ」



 そんな話をしながら歩いていたら、すぐに駅までついた。



「よし、お前はここで帰れ」


「ついていきます!」


「時間も時間だ……。いくらお前が強くとも、夜道は危険なものだ」


「だったら師匠〜」


「………なんだ」



 こいつは手を後ろに回し、くねくねと体を動かしながら喋りかけてきた。



「今もう真っ暗だから一人で帰るのは危ないんじゃないですか〜?」


「うぐっ……確かに……。まさか自分が言ったことが仇となるとは……」



 なぜ駅までの道のりを許してしまったのか……。恨むぞ……過去の俺……。



「お前の家はどこらへんなんだ」


「えーっと……真逆ですね!」


「はぁぁぁ……。お前はこの後どうするつもりだったんだ……」


「家までついて行って色々とお世話をします!」


「お前は良くても、家族が心配す———」


「あ、もしもしお爺ちゃん?うん、うん、今日は友達の家に行くから。わかった!バイバイ!オッケーです!!」



 俺が話している途中にスマホを取り出し、家族に電話したようだ。

 しかも許可までとりよって……。というかお爺ちゃんはスマホを使えるのか?



「お前とお前の家族が良くても、俺は許可していないぞ」


「………それよりお前じゃなくて名前で呼んでほしいです!」


「む?じゃあ唯咲」


「やった!それじゃ行きましょー!」


「待て、話をそらすな」


「むぅ……」



 ぷくっと頬を膨らませ、小動物のようにこちらを見つめていた。



「はぁぁぁぁ……。家まで来るのを許す………」


「やった!師匠ありがとうございます!」


「だがお前を弟子とは認めていないからな」


「うっ……わかってますよぅ……。それじゃあ行きましょう!」



 駅の中まで入り、改札扉を通ろうとしていたが、唯咲が固まっていた。



「どうした?」


「師匠大変です!お金がありません!!」


「…………」


「あうっ!!師匠、痛い……」



 俺は唯咲に近づき、おでこにデコピンをした。



 次の駅までの分の金をあげ、俺たちは電車で俺の家まで向かった。

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