フライト

石嶋ユウ

前編

 ライト兄弟が初めて空を飛んだ時、人々はどんな思いを抱いたのだろうか。彼らが飛んでから一世紀近くが経って人が空を飛ぶことは当たり前になってしまったけれど、僕はそのことがとても気になっている。


 僕が飛行機に憧れを抱いたのは五歳の頃だった。両親に連れられて見た飛行機のスタントショー。そこでは、飛行機たちが縦横無尽に空を飛び回っていて、僕はすぐに飛行機の虜になった。

 それからというもの、僕は飛行機に夢中になって、今、十四歳の僕は自分の力で飛行機を作り上げた。飛行機を作るのに必要な事を学び、時間をかけて貯めたお金を注ぎ込んでやっと完成させた。僕の飛行機は人二人が入っていっぱいになるくらい小さい。とても速いエンジンを積んでいて、スピードには自信がある。翼は頑丈な素材を使って作ったから折れる心配は無い。僕はこの自慢の飛行機に‘ライト‘と名付けた。

 僕はライトを飛ばすために格納庫の扉を開けて、ライトを滑走路まで運び出す。これまで、なんとも思っていなかった滑走路が今日はやけに長く見える。今日、このフライトは自分のためであり、彼女のためでもあった。


 幼馴染の美波は空が大好きで、晴れている日はいつも空を見上げていた。

 僕と美波はとても仲がよくて、七歳のある時、僕は彼女と約束をした。

「いつか、いつか僕と一緒にこの空を飛び回ろうよ!」

「うん!」

 僕と彼女は指切りげんまんをして、その時に僕は自分の手でいつか飛行機を作ることを決心した。

 彼女はそれからずっと、この約束を覚えてくれていた。十二歳になって僕は飛行機の製作に取り掛かりはじめたと告げると彼女は喜んで、僕を抱きしめた。僕はそれを思い出すだけで心があったかくなる。嬉しかったのだ。だが、幸せは長く続いてくれなかった。

 美波は、十三の時に重い病気にかかった。僕はその病の詳しいことはわからなかったが、助かる確率がとても低い病気だということは理解できた。彼女はこの病気のせいで病院に入院してからもずっと笑顔で接してくれたが、一方で僕は美波の病気がショックで飛行機を作れなくなってしまった。

 入院してしばらく経ったある日、彼女はこんなことを言った。

「ねえ、約束の飛行機はいつ出来上がるの?」

「それは……」

 僕は答えられなかった。すると彼女は、

「じゃあ、いつか私の分まで空を飛んでよ。絶対に」

 そう言われて僕の目元は涙でぐちゃぐちゃになって、僕は涙で濡れた手で、彼女とまた指切りをした。

 それからすぐに、彼女は空へと先に旅立った。

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