第25話 バージョン2010



 3月に入り少しした頃。ダークエルフの従業員による退去者の立ち会いが終わった部屋の原状回復をするため、間取り図のギフトを発動した時のことだった。


 金色に輝くのパソコンに表示されたヘヤツクのアイコンの下に、なんと『ver.2010』と表示されていた。


「きたっ! きたきたきたっ!」


 俺はあまりの嬉しさに拳を握りしめ何度もガッツポーズをした。


 長かった……前回がバガンを撃退した後くらいで4月の終わりかその辺だから約1年てとこか。


 そういえばスーリオンの里の人たちを受け入れた後に、募集図面の機能が解放されたんだったな。あれは去年の8月くらいだったか? もしかしたらあの時にすぐマンションを建てていたら自動販売機の酒やジュースももっと早く提供できたから、もっと早くにバージョンアップしたのかもしれないな。まああの時は金がなかったから言っても仕方ないんだけど。


 だが今は違う。街のマンションやショッピングモールの売り上げに酒の販売益などで、人件費や材料費を差し引いても月に銀貨5千枚。Dランク魔石換算で5千個の収益がある。


 さらに王国からの賠償金も白金貨800枚(8億円)残っており、そのうち半分はDランク魔石へ両替済みだ。全部ではないのは、現状現金から魔石への両替手段がギルドのフジワラの街支店と東街のギルドだけだからだ。魔石は獣王国が外貨獲得に必要なため、獣王国に迷惑が掛からないよう少しずつ両替している。


 それでも現在ヘヤツクとマンカンの画面にはDランク魔石が4万5千個(4億5千万円)分貯まっている。ダークエルフ街区と病院の拡張をして結構使ったのにまだこれだけ残っている。


 もう一棟マンションを建てようかと思ったが、案の定というべきか第二フジワラマンションを建てる時に必要だったDランク魔石1万5千個というのは初回サービスだった。2棟目からは建設費が3万個になっており、設備等入れたら3万5千個だったのでやめた。5階建てのマンションを建てるのに3億円とか、ここは都心かよ……まあ異世界価格といえばそれまでなんだけど。


「ってそれよりアレの確認が先だ!」


 アイコンを前に物思いに耽っていた俺は何よりも先に確認しないといけない物を思い出し、急いでアイコンをクリックしてヘヤツクの画面を開いた。そして『間取り図作成画面』『募集図面作成』と並ぶタブのうち、間取り図作成画面を開いた。次に画面右側に縦に並ぶ図面を作る際に引く『外枠』と『ドア』と『設備』タブの中から設備をクリックした。


 するとそこには今までなかった『海外住宅設備』というタブが新たに追加されていた。


「あった!」


 俺は期待していたものが追加されていたことに興奮し、はやる気持ちを抑えながら海外住宅設備をクリックした。


 そこには基本アメリカの家具やキッチンなど水回りの設備などのマークが並んでおり、さらに『その他』のタブをクリックすると、特殊な設備のマークが表示された。


「よしっ! ヨシヨシヨシッ! やっぱりあった! これでこの街は要塞になる!」


 俺はその他のタブにあった、銃架に設置された固定式の機関銃のマークと弾帯にはめられている弾のマークを確認し再びガッツポーズをとった。


 そう、機関銃だ。なぜこんな物騒なものが部屋の設備にあるのかというと、海外の住居のバルコニーに警備用として設置されているからだ。初めて会社でこの設備を見た時は、さすが銃規制のないアメリカだと同僚と一緒に笑ったものだ。


 もちろん一般の家にはこんなものは無い。一部のそれもかなりの金持ちで、マフィアのボスとかそういった人の豪邸だけだろう。それが中古物件として売られることもあるからなのか、ヘヤツクのソフトの運営会社が遊びで入れた機関銃のマークなんだろう。現に機関銃以上の銃器は登録されていない。2010バージョンにだけ入れたネタ設備なんだと思う。


 でも俺はこの世界に来て、初めてヘヤツクの存在を確認した時からずっとこの設備を渇望していた。これがあれば国を相手にしても戦えると。恋人たちや従業員。そして入居者を守れると。


「名称はM240機関銃? よくわからないけど価格はCランク魔石60個か」


 卒業旅行で友人と、ベトナムに旅行に行った時に撃った機関銃の名前とは違うやつっぽいな。しかしバージョンアップしたことで今度からはCランク魔石払いになるのか。まあそうなるんじゃないかとは思っていたけど。


 確かCランク魔石は一個銀貨5枚で日本円にしたらだいたい5万円だから……機関銃一丁で300万円? 確か機関銃って100万とかそこらって聞いたけど、機関銃を固定する銃架込みだとしても高くないか? やっぱりこれも異世界価格ってことか。弾は7.62ミリでCランク魔石10個だから50万円か。これも異世界価格なのか?


 これって何発でCランク魔石10個なんだ? 確か1発100円くらいじゃなかったっけ? それなら50万だと5千発だけど、異世界価格だとして2千発くらいか? でもあれって千発売りだとか昔聞いたような……まあいっか。


 弾帯という帯状に複数の弾を繋げている物の価格を見て、学生時代のミリタリオタクの友人の話を思い出したが買えばわかるかと思い考えるのをやめた。


「とりあえず機関銃はあとで買うとして、部屋の価格と新しい設備だな」


 一番欲しかったものが手に入り安心した俺は、上機嫌で他の設備と価格の確認をするために1Kの部屋を作成してみることにした。


 おっ!? ミストサウナがある! やっと馴染み深い設備が出てきたな。ジャグジーバスの大きさも海外住宅設備の物は大きいな。これに買い換えるか。


 それからミストサウナなど新しい設備をクリックして図面に設置していると、一覧の中に板状のマークと長方形の箱状のマークを見つけた。


「これはノートパソコンにプリンターだよな。そういえばSOHOはこの時代から流行ったんだっけ」


 SOHOとはスモールオフィス・ホームオフィスの略だ。会社を設立する際に、住居用として登録されている賃貸マンションの部屋を会社登録することはできない。しかし特別な許可を得て建築されたマンションの場合は、マンションの一室を会社所在地として登録ができるようになる。


 会社登録ができる事務所用の部屋なんか借りると敷金とか6ヶ月必要だったりするから、少人数の会社ならこういったSOHO可能な住居兼会社のマンションの一室の方が人気があったらしい。ただ、スモールオフィスというだけあり、その部屋に出入りする人数は少数であることなど条件があったりする。


 2000年から2010年代は、こういったマンションが流行った時代でもあったらしいということを上司から聞いたことがある。ちなみに俺が生活していた2030年は不景気でそんな法の縛りはなく、住居用の部屋を勝手に会社登録することができた。


 短期滞在用のマンスリーマンションの場合は登録はできないが、ノートパソコンとプリンターの設備だけはサービスとして置いていた。客寄せのためにゲーム機なんかも置いていたが、設備にないということは2010年にはそういったサービスはしていなかったようだ。


「プリンター用の紙に電卓に筆記具のマークもあるな。これだけでも会計が楽になるのに、エクセムまであると顧客管理がはかどるな。あ〜計算式か。覚えてるかな……」


 あんまり表計算は得意じゃなかったんだよな。まあこれも設置してみて色々いじりながら思い出すか。


 そんな事を考えながら色々と設備や家具を配置していき、とりあえず1Kの部屋の間取り図を完成させた。


「Cランク魔石35個か……設備を除いたら20個だから2000バージョンより部屋自体の価格は1割増しってとこかな?」


 設備が高いけどこれは仕方無いか。パソコンとプリンターはもちろんだけど、場所も取るし賃貸用にミストサウナは無しにした方がいいな。それなら1室25個で作れそうだ。


 1部屋あたりの大体の価格がわかった俺は、とりあえず新規に一部屋作ることにして神殿入口の並びにある現在使われていない旧蒸留所へと向かった。ここは俺の作業場として今は使っている。


 そして作業場の真ん中を石壁で囲んだあとヘヤツクを再度起動させ、図面のバルコニーに機関銃を設置してから実行ボタンを押した。するとCランク魔石95個が必要ですという注意表示が現れた。


「あれ? なんでだ?」


 画面の右上に必要魔石:Cランク魔石95個。その隣に貯蓄していたDランク魔石45000個と表示されている。残高が足らないということはないだろう。今までDランク魔石が足らなかったら、Eランク魔石2個でDランク魔石1個として充当されて設備も部屋も作れていた。だから今回もDランク魔石5個でCランク魔石1個として充当され部屋を作れるはずなんだけど、なんで作れないんだ?


「……まさか2010年バージョンからは低ランク魔石による代替えが効かない? Cランク魔石のみでの支払いなのか?」


 マジか……よく考えてみれば低ランク魔石による代替えができるなら、バージョンアップする毎に必要魔石のランクが上がる意味がないよな。バージョン2000に関してはサービスだったってことか? というかこのままバージョンが上がっていけば、バージョン2030だとAランク魔石が必要になるってことだよな? オイオイオイ、Aランクの魔石なんか国がほとんど買い上げるから市場に出回ってないぞ? いくら金があってもタワーマンションを建てるほどの数なんか集まるわけない。


 これはつまり俺に狩りにいけと。そういうことか? それしかないよな……


 クソッ! あの堕女神め! やっぱり俺にこの滅びの森をどうにかさせようとしてるな!


「あ〜もうあんな奴のためにタワーマンション建てるのバカらしくなってきたわ。でもシュンランとミレイアがタワーマンションを見たがってたしな……いい生活をさせてやりたいし、一歩手前くらいまでなら頑張ってみるか」


 2020年バージョンならBランクの魔石で済むしな。恐らく15階建てくらいだろうけど、恋人たちにはそこらで満足してもらおうかな。そうでもしないとタワーマンションが25億円くらいだと仮定したとして、Aランクの魔石が2500個だろ? 設備を入れたら3000個くらいか? 高ランクハンターが数多くいる魔国ならいくらか持ってそうだけど、Aランクの魔石は王宮や都市の公共施設の全ての魔道具の動力源になっていたり、製鉄のための溶鉱炉などの魔道具に使われているらしいから千個単位では余ってないだろ。


 よし、ミニタワーマンションまでにしよう。それでも森の奥地に行く必要があるが、もともとレベルが上がり難くなってきたこともあっていずれ奥地には行く予定だった。まあ帝国や教会とのゴタゴタが収まってからになるが、その際には奥地に拠点を構えようかと考えていた所だ。どうせならここから歩いて十日ほど奥地にある聖地を復旧させるのもいいかもな。教会が文句を言おうがどうせ奪い返しに来れないだろうし。


「とりあえず魔石を取りに行くか」


 俺は今後のことをある程度決め、とりあえずオーナー用倉庫と神殿マンションの受付の管理室へCランクの魔石を取りに行き、そのあとギルドでDランク魔石とCランク魔石を交換してもらった。


 そうして集めた170個ほどのCランク魔石をヘヤツクへ投入し、調べたい設備以外を図面から外して必要魔石を85個まで減らしてから再び実行ボタンをクリックして腕で目を覆った。


 すると今度こそ目の前が眩い光で覆われ、その光が収まると部屋のドアが目の前に現れた。


 そしてドアを開け部屋の中に入ると、パソコンデスクの上にノートパソコンとプリンターが鎮座していた。


「さて、問題はネットに繋がるかだが……」


 俺は有線放送の件もあって期待に満ちた気持ちでパソコンを立ち上げた。


 しかし


「ネットには繋がってないか……俺のことがニュースになってるか知りたかったんだけどな」


 ネットには繋がっていなかった。


 がっかりした気持ちでパソコンを操作してみると、エクセムと文章作成ソフトはインストールされていた。プリンターも設定されて繋がっており、すぐにでも使えるようだった。


「まあいくつかゲームも入ってるみたいだし、ミレイアとクロースは喜んでくれるだろう。しかし言語が地球の言語しかないのはな。この辺は仕方ないか」


 エクセムや文章作成ソフトはこの世界の言語には対応していなかった。まあキーボードがアルファベットとひらがなだからこれは予想していたことでもあった。


 シュンランとミレイアしか使えないな。俺と二人で事務仕事を頑張るしかないか。


「おっと、それよりバルコニーだ」


 機関銃のことを思い出した俺は腰掛けていたパソコンデスクから立ち上がり、カーテンを開けてバルコニーの戸を開いた。するとそこには銃架の上に設置された黒くてゴツい機関銃が鎮座していた。


「おお〜ベトナムで撃ったのと似てるな。これなら使い方がわかる」


 そんなことを口ずさむと銃架の下に工具箱と思わしき物と、鉄製の緑色の弾薬箱があったので開けてみた。すると中に弾が連なるようにはめこまれた弾帯があったので、取り出しながら装填してみる。弾は千発のようだ。


 千発で50万円は高いなとか考えつつも、機関銃の銃床を肩に当てて構えてみる。


「いけそうだな。ここで撃つわけにはいかないから、今度森の奥に持っていって練習するか」


 目の前は石の壁だ。ここで撃てば間違いなく跳弾が自分に襲いかかってくる。かといって街で試し撃ちをしようものならあまりの轟音に皆がビックリするだろうし、この武器のことはできるだけ秘匿しておきたい。


「射手は誰にしようかな。カルラとクロースなんか喜んで撃ちたがりそうだけど、絶対にトリガーハッピーになりそうなんだよな。スーリオンたちがいいか」


 どうせ複数設置するんだ。ダークエルフ街区の壁上にも設置するし、ダークエルフたちに撃ち方を教えた方がいいだろう。機関銃は強力な武器だけど、敵の目の前から動けなくなるしな。


 外壁の上に分厚い石の盾を作ってその隙間から撃つ感じがいいか? いや、弓や敵のギフト持ちに狙われても大丈夫なように、砲塔という感じで外壁の外側にでかい柱を造ってその上を石のドームで囲った方がいいな。それでも銃身が突き出る隙間を狙われそうだけど、下からの攻撃だしそうそう射手に直撃はしないだろう。その辺は一度作って見て検証しなきゃな。


「とりあえず機関銃だけ持ち出してあとは元に戻すか」


 俺は50キロはありそうな銃架ごと機関銃を持ち上げ、工具箱と弾薬箱と一緒に部屋の外に運び出した。そして再びヘヤツクを起動して設備のない部屋へと戻した。その際に差額でCランク魔石5個を失ったが、新規の部屋の価格を調べるための経費として割り切る。


 帰ったら俺たちの部屋の設備を新しいのに変えるか。設備だけだし差額分だけCランク魔石が必要な感じだといいが。


 はぁ、せっかくDランク魔石を3万個も買い集めたのに、もうほとんど使うことがなくなってしまった。今度はこのDランク魔石をCランク魔石に交換してもらう作業をしなきゃな。でもさすがにCランクの魔石となると、東街のギルドだけだと厳しそうだ。竜王に頼んで西街のギルドからも手に入れるか? この街のギルド長のオリバーさんにまずは相談だな。


 そんなことを考えながら、俺は機関銃を担ぎ上げながら一旦家へと帰るのだった。


 そしてその日の夜。


 夕食を食べたあと、恋人たちの前で部屋の設備をバージョンアップさせた。


 ミレイアは新しくなったシステムキッチンと、使いやすくなった冷蔵庫やドラム式洗濯乾燥機に大喜びだった。シュンランはミストサウナに興味津々で、風呂に入るのが楽しみだと言っていた。クロースもバルコニーに設置した、以前より1.3倍ほど大きくなったお湯の張っていないジャグジーバスの中で夜空を見上げながら足をバタバタさせてご満悦だった。


 ノートパソコンに関しては全員が頭の上にハテナを浮かべていたが、簡単な数式を入れた表計算をしてみると全員から『おお〜』という声が上がった。


 電卓やボールペンなど事務用品も、ミレイアが目を輝かせながらいじっていた。クロースはハサミを武器だと勘違いして部屋の壁に投げて突き刺していた。それを見たシュンランがクロースにゲンコツを落としていた。痛がっていたけど前ほどじゃないようだった。レベルアップした効果だな。


 その後はパソコンの中に入っているパズルゲームを面白いと言ってクロースとミレイアが一緒に遊んでいた。


 そうして一通り新しい設備の説明が終わり、ゲームをしているミレイアとクロース。そしてその様子を微笑みながら眺めていたシュンランの前に、俺は自分の部屋に置いておいた機関銃を持ってきてお披露目した。


「涼介、その黒い鉄はなんだ?」


「これは機関銃という武器だ。これ一つで数百人の兵士と戦える代物だ」


「えっ!? この鉄の塊でですか!?」


「これ一つで数百人の兵を?」


 俺の返答にミレイアは目を見開いて驚き、シュンランはどうやって数百人の兵を倒すことができるのか想像ができないようで首を傾げている。


 まあ銃を知らなかったらイメージできないのも無理はないか。


「なあリョウスケ。本当にこんな鉄の塊で本当にそんな大量の兵を倒せるのか? 確かに重いけど、振り回しにくいぞ?」


「おい、持ち上げるな。これは振り回して使うもんじゃない。この先端から横に置いてあるこの鉄の弾が矢のように飛び出すんだ。それも目で追えないような速度で、騎士のフルプレートメイルを貫通する威力がある。それが60数えるまでに600発とか発射されるんだよ」


 俺は持ち上げて振り回そうとするクロースの手を押さえながら説明した。


「はあっ!? フルプレイートメイルを貫通!? しかも60数えるまでに600!? 弓でも10射がいいとこだぞ!?」


にわかには信じ難いが涼介が言うのだから本当なのだろうな。しかしフルプレートメイルを貫通するとは恐ろしい武器だ。これは魔道具なのか?」


「いや、これは魔道具じゃない。この弾の中に火薬というのが入っていてだな……」


 俺はシュンランたちにに弾が射出される原理を説明した。



「なるほど。この小さな鉄の弾の後部に入っている火薬という物が爆発することによって先端部分の弾が射出されるのか……しかもこの引き金を引いている間は自動でずっと弾が出ると」


「そうだ。途中で弾が詰まったりもするけどな」


 機関銃はよく弾が詰まる。そのこともあって射手のほかに補助をする人員が必要だ。


「シュンランは分かったのか? 私は全然だ」


「私もなんとなくでしか理解できませんでした」


「私だって火薬というものがなんなのかはよく分からないさ。ただ母が爆炎のギフト持ちだったからな。幼い頃から炎だけではなく、その爆風によって土や石を飛び散らせて魔獣に傷を負わせることができるということを聞いていた。それと似たような原理なのだろうと思っただけだ」


「原理としては似たようなものだな」


 爆風によって弾を射出させているわけだし。


「しかし聞けば聞くほど恐ろしい武器だな」


「ああ、俺も撃ったことがあるがとんでもない威力だ。間違いなく騎士の鎧程度は余裕で貫通するよ」


 多分鉄の鎧だけじゃなくミスリルの鎧でもいけると思う。そもそもミスリルは鉄より軽くて少しだけ頑丈なだけだ。ただ鉄より軽いから重宝がられている。これが魔鉄となるとミスリルよりも遥かに頑丈で軽いから機関銃で貫通できるかは微妙だし、ドラゴンの革鎧なんかは貫通はできないだろう。


 だが魔鉄はミスリルよりも希少金属ということもあり、王族くらいしか魔鉄製の鎧なんて身に着けていないと聞く。ドラゴンの革に関してはもっと希少だから心配する必要はないだろう。そもそも機関銃はあくまでも一般の騎士や雑兵の数を減らすために使うつもりだし。


「そんなすごい武器なら帝国が攻めてきても平気だな!」


「そうだな。たとえ5千の軍が攻めてきたとしても、開戦と同時にこれで敵のギフト持ちがいる場所を一掃して、そのあと外壁を登ろうとしてくる兵を撃てばすぐに決着がつくだろうな」


 外壁の周囲の森を伐採した方がいいかもな。ギフト持ちに木に隠れられると機関銃で狙えなくなる。


「どんなギフトよりも強力な武器か。クロースが言うように帝国が攻めてきたとしても一方的な戦いになりそうだな」


「ああ、一方的な戦いになる。もうダークエルフたちを外で潜ませる必要も無くなるだろうな」


 5千とか相手だと今までの戦法では犠牲者が出る。だから俺は今回のバージョンアップを切望していた。この機関銃があれば、たとえ帝国が攻めてきても追い返すことができるはずだ。


 俺は目の前に鎮座する黒く冷たい鉄の塊を見つめながら、できればこれを使うようなことが起こらないよう願うのだった。

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