第12話 戦後処理とマンション建設
「シュンラン! 捕虜を縛って一箇所に集めておいてくれ! カルラとスーリオンはハンターたちと遺体の装備を外しまとめてくれ。あとで火葬する……カルラ? 」
戦闘が終わり外壁から降りた俺は、大量の人を殺したことに吐きそうになりながらもシュンランとカルラに指示をした。
しかし街道に背を向け森の方を向いていたカルラは、剣を手にしたまま動かなかった。彼女の隣ではスーリオンと、棘の警備隊の女性たちが心配そうに彼女を見ている。
どうしたのかと彼女の元に向かうと、カルラは足元に転がる一体の亡骸を見下ろしていた。その亡骸は四肢が切断され、顔をズタズタに切り裂かれた貴族のものだった。
その隣に転がっている騎士団長らしき亡骸も、まるで嬲り殺されたかのように無惨な姿を晒していた。
「カルラ……なぜ……」
俺はあまりにも酷い殺し方に顔をしかめ、なぜこんなことをしたのか彼女に問いかけた。
「リョウスケか……ちょっとコイツらとは個人的な因縁があってな。ハハッ、まさかこんなとこで再会できるとはよ」
カルラは俺に顔を向けると、戦闘前に見たのと同じ暗い笑みを浮かべながら指先を自らの額から顎にかけて斜めに走らせそう言った。
彼女のその仕草で俺は全てを理解した。
この貴族がカルラの顔に傷をつけた男なのだと。
「そうか……その遺体は装備だけ外して森の奥にでも放り投げておいてくれ。魔物が処理してくれる」
「……わかった。悪りいなリョウスケ」
「いいさ、スーリオン。彼女に付いていてやってくれ。あとの処理はやっておくから」
「いやしかし……」
「付いててやれ。心配なんだろ? 」
スーリオンは退院してからカルラに気があるのが見え見えだ。
非番の日や仕事終わりの夜は彼女のいる酒場にしょっちゅう通っているし、前にスーリオンから俺がカルラをどう思っているのか聞いてきたこともある。今だって戦闘後にカルラの異変にすぐに気付き、こうしてカルラを心配して側にいる。ここはスーリオンに任せた方がいいだろう。
俺の言葉にスーリオンはカルラへと視線を向け、『すまない』と言って頷いた。
そんなスーリオンへ頼むと告げ、俺は棘の警備隊の皆を連れてその場を後にした。
ふと振り返ってみると、カルラがスーリオンの胸に顔を埋めて泣いていた。そんな彼女に対し、スーリオンは直立不動のまま固まっていた。
俺は肩くらい抱いてやれよと呆れつつも、遺体の処理へと向かうのだった。
その後、街の北の外れに簡素な倉庫を建て、俺はそこに捕虜となった500人ほどの騎士や兵士たちを詰め込んだ。貴族や騎士団長などの遺体は一つにまとめて森の中に大穴を開けて埋めてある。
ヘヤツクによって建てた建物に捕虜を入れてお客様満足度が下がらないか心配だったが、ほかに収容する場所もないから仕方ない。ギフトが捕虜をお客様じゃないことを認識してくれるのを願うばかりだ。
捕虜を収容したあと少しして、リーゼロットが急ぎ王国へと知らせるために飛んで行くことになった。サーシャも行きたがったが捕虜たちを大人しくさせるために彼女が必要だし、一人で飛んだ方が早く着くことからリーゼロットだけで行くことになった。
「それじゃあ行ってくるわ」
「ああ、王国は俺の敵になるつもりかと伝えてくれ」
「ええ、しっかり脅しておくわ。シルフお願い」
リーゼロットはそう言って空に浮かび南へ向かって飛んでいった。
「なんとか勝てたな」
徐々に小さくなっていくリーゼロットの背を見ながらそう呟くと、シュンランが笑みを浮かべながら口を開いた。
「フフッ、門の前にいきなり巨大な石の壁が現れてはな。あれでは攻めようがないだろう」
「あまりはしごの数も用意していなかったみたいですし、ギフトで門を破壊できると思っていたみたいですね」
「ククク、リョウスケにはギフトの攻撃は効かないのにな。長老たちの
俺の呟きに一緒に見送りに来ていたシュンランとミレイア。そしてクロースが続いた。三人ともホッとしたような。それでいて楽しそうな表情を浮かべている。
「奇襲が成功したことも大きいな。まさか高い外壁があるのに街の外に潜伏しているとは思わなかったんだろうな」
貴族軍の中には探知系のギフト持ちもいたんだろうが、そういったギフトの効果範囲はせいぜい50メートルほどだ。今回はその範囲より外に潜伏させ、攻城戦に夢中になっている所で背後から急襲する作戦だったのだがうまくいった。
「勝ったのはいいが、リーゼロットの報告を聞いた王国はどう動くのだろうな」
「王命に背いたうえに、王女であるサーシャに弓を引いた訳だからな。サーシャが言うには反逆罪で家の取り潰しは確実らしい。うちとしてはまあ、賠償金で収めるつもりだ」
リーゼロットには王国を脅すようには言ったが、王国に報復するつもりなんてさらさらない。というか報復しようにも数の差で間違いなく負ける。俺は勇者みたいにAランクのドラゴンを使役なんかしていないからな。
ただ、王妃は俺が勇者と同じ存在だと信じてくれているから、今回のようなことが二度と起こらないよう貴族たちを厳しく処罰をしてくれるだろう。俺を敵に回せば精霊に誓った宰相を筆頭に、エルフが王国から離れるかもしれないわけだし。
今回の戦いで死者も出なかったし、俺は賠償金をもらえれば矛を収めるつもりだ。マンションを建てるのには膨大な量の魔石が必要だからな。報復なんかより賠償金で魔石を買い集めてマンションをどんどん建て、バージョンアップさせた方が街の防衛にとってもいい。
「そうだな。確かに王国と揉めるよりはその方がいいな」
「ですがまた今回のようなことが起こらないとも限りません。街道の見回りをすべきだと思います」
「ああ、その辺はスーリオンたちに頼むつもりだ」
心配そうなミレイアにそう言って頷いた。
今回はハンターたちによって南街だけを監視していたことから防ぐことはできなかった。今後はスーリオンたちに南街とフジワラの街との間を巡回してもらい、早期発見に努めてもらう。数日掛かりの見回りになるが、早く見つけることさえできれば今回の倍の軍がやってきてもなんとかなる。
しかしそうなるとダークエルフの人数を増やさないとな。移住希望のダークエルフの里をもう一つ受け入れた方がいいかもしれない。
そんなことを話し合いながら俺たちは街へと戻り、その夜は街をあげての祝勝会を開いた。
戦闘に参加したハンターたちは依頼料を受け取り皆ホクホク顔だった。それとは対照的に狩りに出ていて参加できなかった多くのハンターたちは、参加した者たちの武勇伝と暖かくなった懐具合に悔しそうだった。攻めてきた貴族の家の名前を聞いて、参加できなかった者たちが俺が殺したかったって叫んでたよ。
どうもノアノッタ侯爵一行は評判が悪いらしい。
そんな彼らを見てサーシャは申し訳なさそうにしていたが、ハンターたちは姫は関係ないからって慌ててフォローしていた。サーシャは弁当姫って呼ばれるくらい人気だしな。サーシャたちが戻って来た時なんて、ハンターたち主催の歓迎会を催していたくらいだ。
そんな賑やかな祝勝会の翌日。俺は取り急ぎスーリオンたちに南街までの街道の巡回を頼み、他の貴族たちがやってこないか警戒してもらった。
そして一週間ほど経った頃。リーゼロットに連れられ再び王妃と宰相がこの街へとやってきた。
「ゆ、勇者様! この度は誠に申し訳無く……」
「いやいやいや、頭を上げてください。さあ、とりあえずソファーに」
正門にある守衛所の休憩室に入るなり床に膝をついて頭を下げる王妃と宰相に、俺は慌てて立つように言ってソファーへと腰掛けさせた。
ソファーに座った二人の顔は青ざめており、俺は王妃たちの隣に立っていたリーゼロットに内心でどんだけ脅したんだよと思いながら視線を向けた。
俺の気持ちが伝わったのか、リーゼロットは肩を軽くすくめ舌をぺろっと出していた。
そんな彼女の姿に俺はため息を吐き、王妃たちと戦後賠償の話を始めた。
王妃の話では今回王命に背いただけではなく、王女にまで弓を引いた貴族たちの家は全て取り潰しとなったそうだ。当主は既に縛り首となっており、全ての財産を王家に差し出すことで一族全員の連座だけは許された。それでもわずかな金だけ持たされて平民となったんだ。高位の貴族の一族だった者がこの先生きていくのは大変だと思う。
反逆罪ということもあり、周囲の貴族たちは誰も異議を唱えなかった。恐らくサーシャがこの街にいなければ、周囲の貴族から温情をという声が上がっていたのかもしれない。
王妃も万が一貴族が来た時のために抑止力として置いていったサーシャに対し、貴族が弓を引くとは考えていなかったようだ。
ノアノッタ侯爵の嫡男が率いる貴族たちは今回最悪の選択をし、その結果本家まで取り潰しとなった訳だ。
そのことを俺たちに報告した後、王妃は今後王国の貴族が滅びの森へ入ることを禁止したこと。教会と帝国の監視をし、逐一俺へと報告をすること。そしてもしも帝国と俺が事を構えることになった際は、王国が帝国からこの街を守るので今回のことはどうかお許しいただきたいと言ってテーブルに白金貨千枚。日本円にすると10億円が入っているという袋を置いて頭を下げた。
それに対し俺は、内心でこんなにもらっていいの? などと思いつつも貴族を処罰したならそれでいいと。二度とこんなことがないようにお願いしますと言って矛を収めた。ただ、帝国が攻めてきた際の助力だけは断った。王妃たちは驚いていたが、この街が元で戦争になるのだけは避けたいと伝えた。
ここは王国と帝国が主張している領土だ。その領土を王国が守ろうとすれば、帝国は王国に宣戦布告するだろう。俺が原因で王国と帝国という大国が戦争なんて起こして欲しくはない。これは帝国の西に隣接している魔国だって同じだ。俺を武力で守ろうとすれば、魔国も帝国と戦争になるだろう。
それを防ぐためには俺が帝国と単独で戦わないといけないが、地の利はこちらにある。できるところまでやるつもりだ。もちろんどうしようもなくなった時のために、獣王国へ話をつけておく。戦争に参加してもらうのではなく、俺とうちの従業員たちの亡命先としてだ。
獣王国なら帝国に隣接していないから安全だし、帝国との間で大きな戦争にはならないはずだ。ほとぼりが覚めた頃に、今度は滅びの森の東で宿屋を再開すればいい。
本当は勇者と同じ存在であることを公表し、魔国と王国と獣王国を連携させ帝国に相対すればいくら帝国でも動けないとは思う。しかし獣人と人族は過去に奴隷とその主人であり、人族と魔族は過去に何百年にも渡り戦争をしてきた間柄だ。そんな人たちが本当に協力体制を敷けるのか怪しいものだ。
何より問題なのは、教会を初め民衆が俺を滅びの森の侵食から人類を救う救世主だと祭り上げるだろうということだ。そうなったら王国の王族も教会や民衆の声には逆らえないと思う。
帝国も旧領を復活させるためにその波に乗るはずだ。その結果、俺は望む望まないに関係なく晴れて人類の希望となり、滅びの森で勇者という名の人類の奴隷になってしまう。そんな人生はお断りだ。
それを避けるために俺は独立した勢力で居続ける必要がある。帝国からちょっかいをかけられたとしても、王国や魔国の手を借りることなく独力で跳ね返さなければいけない。なに、帝国だって大軍をここに送り込むことはできないはず。俺が作った街道以外はどこも細い道ばかりだ。せいぜい数千の兵を送るのがやっとだろう。それなら勝機はある。
以上のことを王妃に伝え、宰相にもエルフの助力は不要だと告げた。リーゼロットだけいればいいと。
二人とも苦い顔をしながらも頷いて頭を下げていた。王国が大々的に味方につくと、俺が危惧している展開になると思ったらしい。ただ、俺が女神の使命を果たす際に金銭が必要な時は、是非声をかけて欲しいと言ってくれたので、そこはその際は願いしますと言っておいた。タワーマンションを建てるのにお金は必要だしな。
そんな感じで今回の謝罪と賠償の話は終わり、王妃に捕虜を引き渡した。さすがに南街経由で連れ帰られても目立ってしまい困るので、王妃に同行していた騎士数人と、護衛として滞在中の王国と獣人のハンターにギルド経由で王国から護衛依頼を出してもらった。そうして集まった者たちにより、東街と獣王国経由で王国へと護送することになった。
まあ捕虜になった騎士や兵たちに、仕えていた貴族の家がもう取り潰されたことを王妃によって伝えられたし、彼らは命令されただけだからと俺が助命を願い出て、王妃がそれを了承したことも伝えられたから逆恨みによる報復には来ないだろう。
こうしてフジワラの街に攻めてきた貴族軍との後始末を終えることができた。
そして13月も半ばとなり、かねてより新規リニューアルを告知していた通り、滞在していたハンターたちは全員マンションを退去していった。そこにはギルドの従業員やショッピングモールの人たち。そして鍛冶工房の人たちも入っている。
彼らとは年が明けるまでしばしのお別れだ。
みんなマンションがどう変わるのか楽しみにしてるって言って出ていったよ。
こうして俺のギフトを知っている者たちだけが残った。
「いよいよタワーマンションへの第一歩を踏み出せるな」
俺は入居者がいなくなり静かになった神殿マンションの入口で、間取り図のギフトを発動しながらそう呟いた。
「フフフ、本物のマンションか。どんな物ができるのか楽しみだな」
「エレベーターというものに早く乗ってみたいです」
「新しい私とリョウスケの愛の巣を建てるのだな。あっ! 子供部屋を忘れないようにな! 」
「ま、まだ必要ないと思う」
俺はクロースの言葉に頷くシュンランとミレイアの姿に、若干引きつりつつヘヤツクの画面を開いた。
そして以前作成した5階建てのマンションの募集図面を開き、右上に表示されている魔石の数を見てニンマリとした。
そこにはDランク魔石3万8千個と表示されていたからだ。
マンションを建てるのに必要な魔石は1万5千個だから、余裕で2棟建てられるほどの魔石がある。
以前から貯めていた物と竜王からの賠償金で買い貯めていた物。そして王国からの賠償金で、フジワラの街のギルド経由で東街のギルドから買い取った物。それら全てを合わせてこの数になった。
しかもまだまだ資金には余裕がある。そして王国という融資してくれる銀行もある。頼めば魔国いや獣王国も融資してくれるだろう。
こりゃタワーマンションは思ったより早くできるかもな。やっぱ世の中金だよなぁ。
俺は明るい未来に期待しつつ、募集図面の右下にある実行ボタンを押すのだった。
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