第6話 初戦闘
女神に送られた石の部屋で目が覚めた俺は、用を足してから顔を洗い朝食を済ませた。クロワッサンだけど。
それから階段を上り、外への出入り口があるホールへとやってきた。
そして少しだけ石扉を開いて外が明るいのを確認してすぐに閉じ、装備の点検を行った。
「ペングニルよし! アンドロメダスケールよし! カバンよし! 水筒よし! 防寒用ロングコートよし! 」
スケールはちゃんと外れないように腰に装着してあるな。カバンは肩からかけると邪魔なので、肩紐をいじって背中で背負えるモードにしたから動きを阻害することはないだろ。黒のコートと水筒はカバンの中に入ってるし、方位磁石もジャケットのポケットにある。
さて、いよいよか。ドキドキするな。
大丈夫だ。喧嘩みたいなもんだ。しかも相手は魔ってついてるだけの動物だ。ペングニルがあれば勝てるはず。
そして万が一複数相手でも大丈夫だ。それを想定した練習もしたし、こっちは親なし施設育ちってことで小・中学校といじめられてきたからな。ワンパンいれて逃げるのは得意だ。
そうだ、ビビるな! 俺ならイケる! 殺れる! 肉と快適な寝床のために!
俺は初めての命懸けの戦いを前に、震える足と頬を叩き気合を入れた。
そして気合が入っているうちに石扉を開け、神殿の外へと出ることにした。
外に出ると地球の太陽に比べ、やや大きくて赤い太陽が頭上にあるのが確認できた。反対方向の空には薄っすらと二つの月も見える。
「今は昼かな? あ、神殿の入り口って洞窟みたいになってたのか」
神殿を出て振り返るとそこにはやたら見上げるほど大きな岩山があり、その中央部分に洞窟の入口があった。
前は魔物らしき物の鳴き声にビビって見る余裕がなかったが……
「周囲は木に囲まれている中に、岩山がポツンと一つ……」
違和感ありまくりだろこれ。
この岩山は大昔に降ってきた隕石か何かか? その時の放射能かなんかで、だから岩山の正面付近だけ木が生えないのか?
「まあ異世界だしこういうのもあるんだろう」
俺はやたら浮いている神殿のある岩山の存在に、異世界なんだしと納得することにして洞窟の入口の横あたりを探した。
すると岩と岩の間に隠れるようにあった窪みを見つけた。そしてそこに手を入れると石扉が閉まっていった。
「よし、これで魔物が入ってくることはないだろう。まずは方角を確認してちゃんとここに戻ってこれるようにしないとな」
石扉が閉まったのを確認した俺は、まずは自分がいる位置を確認するためにジャケットのポケットから方位磁石を取り出した。
「えっと、北はあっちか。神殿のある洞窟が南ね。ならまずは北に向かって行くか……ん? なんだこれ? 」
方位磁石で方角を確認していると透明な盤面の端に赤い点が現れ、それがゆっくり動いていることに気が付いた。
なんだこれと思って見ていると、反対側の盤面にも赤い点が現れた。しかしこれは最初に現れた点に比べるとかなり大きく、しかもかなりの速さで盤面の中央に向かって動いていた。
「宝の位置ってわけじゃなさそうだよな。動いてるし。何かのマークなんだろうけど……」
ギャーギャー
「!? 」
俺が盤面を見ていると大きな赤い点が中央に差し掛かったところで、目の前の上空を翼の生えた茶色いトカゲが横切っていった。
「も、もしかしてこれは魔物レーダーか? 」
咄嗟に身を伏せながら方位磁石を見て、これは魔物の位置や強さがわかる道具なのではないかと察した。
ビビった……あれ飛竜とかいうやつじゃないか? あんなのが最初からいるのかよ。普通はもっと弱い魔物がいる場所からスタートなんじゃないのか? それでレベルアップして強い魔物と戦って行くみたいなのが王道だろ。
いや、飛行系は例外と見た方がいいだろう。空を自由に移動できるんだし。きっと森の中はある程度分かれてるはず。弱い魔物はより弱い魔物を狩るために、そして強い魔物に狩られないよう離れてるはずだ。
そう考えるとこれはかなり強力な神器だな。やっぱりただの方位磁石なんかじゃなかった。これがあれば強い魔物を避けながら戦える。
なるほどな。三種の神器は、必中の槍に自由自在に動く巻尺に魔物レーダーてことか。確かに戦闘に役立つ神器だ。わかりにくかったけど。
「よし、お前は竜を見つけたことを記念してドラゴンレー……は色々問題あるから、普通に『魔物探知機』と名付けよう。頼りにしてるぜ相棒」
手のひらに持った方位磁石にそう命名した俺は、前方と魔物探知機を見ながらゆっくりと森の中へと足を踏み入れた。
「んん? 白? 白ってなんだ? 」
魔物探知機を見ながら森を少し進んでいると、盤面の中央に白い点が現れた。
それは進む度に遠ざかって行き、戻ると近くなっていった。
「あっ! 神殿の場所のマークか! 良かった、これは助かるな」
白いマークが神殿の場所を示すマークだと分かった俺は、これで万が一帰り道がわからなくなってもなんとかなりそうだと胸を撫で下ろした。
それでもそれに過信することなく、森の木に神殿のある方へ矢印の傷をつけながら森の中を進むのだった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「いた……やっぱり兎だったか」
魔物探知機に映る反応を追いながら森を歩いて数分。
俺は額に一本の角と、長い耳が生えた中型犬ほどの大きさの茶色い兎を見つけた。
魔物探知機の端まで歩いてみたが、およそ100メートルってとこか。これが探知範囲ってことだな。さっきの飛竜とか相手ならあんまり意味ないが、森の中なら十分だろ。
俺は木に隠れながら、角で地面を掘って何かを探している兎の背後からゆっくりと近づいた。
しかし兎は俺が近づいていることに気が付いたのか、突然頭を上げて俺のいる方に顔を向けた。
気付かれたと思った俺は、すぐさまペングニルを振りかぶり兎の胴体に向けて投げつけた。
兎は飛んでくる槍に対し、咄嗟に横へ飛んで避けた。が、ペングニルは軌道を変え兎の胴体に吸い込まれていった。
《キュギッ! 》
ペングニルを胴体に受けた兎はそのまま倒れ込んだ。そして刺さっていたペングニルが数秒後に消えると、そこから大量の血が流れ出た。
「死んだ……よな? 」
俺は木の影からゆっくりと出て、戻ってきたペングニルをいつでも投げれるように振りかぶりながら近づいた。
「死んでるな……初めて動物を殺しちまったよ。悪いな。成仏してくれ」
生き物を殺したことへの罪悪感からなんとも言えない気持ちになり、軽く手を合わせてから兎の腹をペングニルのひし形の穂先で縦に割いた。
「うげっ! グロい……」
俺はグロい内臓に顔をしかめながらも、穂先とアンドロメダスケールで内臓をかき分けながら魔石を探した。
「小説なんかだと心臓の近く魔石があるってのがテンプレなんだけどな……ん? これか? 」
内蔵を潰さないようにスケールを使い丁寧に掻き出してると、心臓っぽい臓器の横から直径1センチほどの薄い黒色の歪な形をした小さな石が出てきた。
俺はその石を手に取り、木漏れ日にあてて透かしてみた。
「透けそうで透けないな。不思議な石だな。宝石って言えば安い宝石に見えなくもないな。でも多分見つかった場所的にもこれが魔石だろう」
この小石みたいなのを集めればいいってことか。魔物の強さ的に一番下のランクっぽいな。Eより下ってあるのかね? ありそうだよな……うーん、Eランクの魔物ってどれくらいのものを言うんだ? わからん。
とりあえずこの兎より強そうなのを探すか。一匹相手なら余裕ってのは分かったし。あっ、そうだ! 足をもらっていこう。太い足だし食べ応えがありそうだ。
俺は兎の両足をペングニルの穂先で切断し、周囲に生えていた大きな葉で包んだ。そして近くの木からぶら下がっていた蔦で縛り、血が抜けるようにカバンの肩紐に結びつけてぶら下げた。
歩いているうちに、かかとに血がつきそうだな。でも帰りに回収しようとしても無くなってそうだしな。毛皮も欲しいところだけど、日が暮れる前に倒せるだけ倒したい。帰りに残ってれば回収するか。
「よし、次はこっちだな。兎より大きい反応だ」
いい感じだ。やっぱり同じくらいの強さのが固まってる。
俺は魔物探知機の反応を見ながら、木の間や藪をかき分け森を進んだ。
そして十分ほど歩くと、岩の上で緑色の狼のような生き物が二匹ほど重なるように寝転がっているのが見えた。
その緑色の二匹の狼は俺の気配に気づき、鼻をひくつかせながらむくりと起き上がった。
やべっ! 二匹かよ! 重なってると魔物探知機には映らないってことか!
俺は焦りながらも手に持っていたペングニルを構え、最初に起き上がった緑狼の首を狙い投げつけた。
迫り来る槍を緑狼は横っ飛びでかわそうとしたが、軌道を変えたペングニルは首に突き刺さり緑狼はその場に力なく倒れ込んだ。
その光景を見た隣にいたもう一匹の緑狼は、岩から飛び降り左右にステップを踏みながら距離を詰めてきた。そして口を開け、その鋭い牙を剥き出しにしながら俺へと飛び掛かってきた。
「くっ……つ、『土壁』! 」
《ギャンッ! 》
俺は焦りながらも土壁を瞬時に発生させた。
咄嗟に発動したことで強度も何もないただの土の塊の壁だったが、緑狼の突進を止めるのには十分だったようだ。土壁に激突した緑狼は短い悲鳴を上げた後、地面にそのまま落ちていった。
イメージトレーニングでは、ここでアンドロメダスケールで緑狼を捕縛して槍を突き刺していた。しかし絶賛テンパり中の俺はそんな事は忘れ、土壁からバックステップで距離をとった。
そして土壁の影から、起きあがろうとする緑狼の尻が見えた瞬間。再びペングニルを無我夢中で投げつけた。
《ギャッ! 》
次に尻にペングニルが刺さり身動きができなくなった緑狼へ、土壁を解除して戻ってきたペングニルを首を狙い投げつけた。
それは緑狼の首へ真っすぐ突き刺さり、緑狼は大量の血を吹き出させながら倒れていった。
「ハァハァハァ……焦った……マジで怖かった」
俺は初めて身の危険を感じる戦闘をしたことで、俺は腰が抜けその場に座り込んだ。
やべえ、まだ心臓がバクバクいってるよ……あの緑狼が向かってきた時はマジで怖かった。不完全とはいえ、咄嗟に土壁を出せたのは練習した成果だろう。アンドロメダスケールなんて出す余裕がなかった。
これが実戦……これが命をかけた戦い。
これを俺は繰り返すのか……マジか……帰りてえ……俺をこんな危ない世界に飛ばしやがってクソ女神の野郎……ぜってぇ許さねえからな!
「マズイ……立たないと。仲間が来たら喰われる」
俺はペングニルを杖代わりにその場に立ち上がり、魔物探知機を確認した。
幸い緑狼の仲間は近くにいないようだ。
「仲間を探しにくるかもしれない。急いで魔石を取らないと……」
俺は緑狼に近づき、急いでその腹部を割って手を突っ込み魔石を探した。すると硬い石のような感触があり、それを掴んで取り出した。
「あの角兎より大きいな。2センチってとこか。色も違うな」
それは角兎の魔石よりも少し大きく、薄い茶色の魔石だった。
それから最初に倒した緑狼からも魔石を回収し、俺はその場から急いで離れた。
そしてその後は無理をせず神殿に戻り、複数匹相手の戦闘訓練を夜遅くまで行うのだった。
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