第25話「吸血鬼姉妹ですか」


「私の名前はエマ・ロステリア・ヒーテリッきゅ・アルカにゃ・カタルしゅ・・・しゅし・・・」


「自分の名前で噛む奴初めて見たわ」


「仕方ないじゃない。世界は残酷なんだから」


「勝手に世界のせいにしないでください。あとパクリもやめましょう」


「確かに、あれは世界悪くないわよね」


「そうですよ」


「あれは誠が悪(ry」



本日は晴天なり(現実逃避)。



「そうそう。秋斗にこれをあげるわ」

そう言い、机の引き出しから封筒を取り出す。


「なんですか?」



受け取って触った感じ、何枚かの紙が入っているのは確認できた。


これが仕事に関することというのは、何となく予想はつくのだが。



「お金よ」


「ぐはぁ・・・」



吐血しました。



「なんで!?」


「いや、エマは他人にお金をあげるような人じゃないと思ってたから」


「そんなことないわよ!? でもほら、少しは持ってないとね? 国王の側近としても」


「そ、そうですね」



確かに、この世界に転生してきて、俺は一銭も持ち合わせていなかった。


生活もかなり板についてきたし、ここいらで何か足りないものでも買い足したいところ・・・。



「では、遠慮なく貰いますね」



封筒を開けると、結構な量の紙幣が入っていた。


見るからに、この紙幣は『円』ではないな。


まぁ、ここの国王がドイツを異常に推しているのは知っている。

なので、通貨は恐らくユーロもしくはドイツマルク(ユーロ以前のドイツの通貨)というのは、何となく予想ができるが。



「あれ?」



紙幣を確認すると、ユーロでもドイツマルクでもないものが入っていた。



「フランよ」


「フラン!?」



思わず復唱してしまう。


いやだって、驚くでしょ?


なんでここにきてフランスの通貨が出てくるんだよ(なお、現在フランスの通貨はユーロである)。



「何ならレミリアでもいいのよ?」


「吸血鬼姉妹ですか」



まぁでも、フランスフランなんて滅多にお目にかかれない代物だし、これはこれで面白いのかもしれないな。



「あ、それフランスフランじゃないから注意ね」


「違うのかよ。ってか、それじゃあ何なんだよこれ」


「カリホルニウム フランよ。みんなめんどいからフランって呼んでるけど」


「そんな、スイスフランじゃないんだから」



と言いつつ、手ではしっかりお金を数えている。そこのところ抜かりないですぜ。


エマじゃないけど、俺もお金は大好きだからな。


えっと、一、二、三・・・。



「全部で・・・4000フラン?」



100と書かれたお札が四十枚あったので、単純計算で4000フランだ。


だが、そんなこと言われても分からないことがある。



「それってどんくらいなんだ?」



円換算しないと、全く価値が理解できない。



「5フランぐらいで、自販機の飲み物が買えるわ」



自販機の飲み物と言っても、百円ぽっきりで買えちゃうものから、二百円を超すものまであるし、一概にこのぐらいの値段とは言えないよね。



「うーん・・・ユーロあたりに換算してくれないか?」


「それは為替レートを見なさい」



ということで、検索してみました。


フランスフランの場合、レートは固定されていて、1ユーロが6.55957フランらしい。


だが、これはどこからどう見てもフランスフランであるが、実はカリホルニウムフランらしい。



「1ユーロ、5フラン?」



カリホルニウムフランは、1ユーロおおよそ5フランでした。


1ユーロを125円あたりと考えると・・・あるぇ?



「待って百万円にならないか?」



確認しよう。


俺が貰ったのは4000フラン。


1ユーロが5フランと考えて、4000フランは、800ユーロ。


そして、1ユーロが125円としたとき、その800倍でちょうど百万円。



「この国の平均年収を教えてクレメンス」



もしかしたら、この国の物価がスイス並みに高くて、円換算したら百万円だけど、日本での百万円とでは価値観が全く違うのでは? という疑問を解決すべく、平均年収を聞いてみたのだが。



「何で私が?」



あーはいはい。検索しますよ自分で。


平均年収は216000フランらしいです。



「あーーーもう、円に変換するのめんどくせぇ」



540万円でした。


給料だけを見ると、日本とそこまで大差ないように見える。


むしろちょっと多いぐらいか?



「とにかく、早くフランに慣れなさい」


「というか、この前の鉄道建設のとき思いっきり円使ってませんでした?」



主に建設費用や税金のところで。



「まぁ、あれは夢ということで」


「夢じゃないよね? 現実だよね!?」


「MABOROSI☆DA」


「現実です」


「しょうがないわね。種明かしをしてあげるわよ。アーヘンが」


「はい? アーヘンさん?」



その瞬間、ドアが勢いよく開かれて、そこに立っていたのが。



「呼ばれた気がしました」



アーヘンでした。



「さっきから部屋の前でウロウロしている気配を感じてたのよね」


「いやー、バレてましたか」



いや待て、そんな気配感じられるって、エマさんどういう頭してるんですか。


地味に特殊能力みたいなものを披露するのやめてもらえません?


そしてアーヘンは何のためにウロウロしていたんですか。まさかスタンバってたわけじゃないよね?



「秋斗様、ご説明いたします」


「あ、はい」


「まぁ要するに、円もフランもユーロも、この国では出回ってるんですよー」



軽いなおい。



「ということで、私はこれで失礼しまーす」



そんな感じで、そそくさと退室していきました。


アーヘンはなにがしたかったんだ?


んでも、三つの通貨があるのか。



「一つの通貨で変にデフレやインフレが発生しても、他の通貨でどうにかこうにかできるようにしているのよ!」


「それ、ダブルアタック食らったらひとたまりもないと思うのだが」


「実際、トリプルできたこともあるわ」



ダメじゃねーか。


「まぁでも、フランが圧倒的に流通量は多いわ」


「なるほど・・・そういえばなんですが、なんでこのタイミングで俺にお金なんかくれたんですか?」


「なんでって、近いうちにアーヘンと どっか行くんでしょ?」


「あぁ。知ってたんだな」


「まぁそりゃ、あんなに気持ち悪い顔をしてるアーヘンを見たら、何かあると思うわよ」


「え、それ具合悪いんじゃ」



さっき見たときはそんな感じはしなかったけど・・・。



「違うわ。そういう気持ち悪いじゃなくて、なんというか、すっごい幸せそうな笑みを浮かべていたから」



なるほどな。


というか、そんなに楽しみにしてくれているのか。


こりゃ、俺も出来る限りのことはしないとダメだな。



「ありがとな、エマ」



そのためにお金を用意してくれるなんて、エマにも結構優しいところあるんだな。

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