第12話 彼の思惑
僕の彼女はちょっと変わっている。どの辺りが変わっているかというと、まずは僕の彼女になってくれた点だと思う。
自分で言うのも何だけど、僕は典型的なA型だ。きれい好きでこだわりがあって、細かい。この性格のせいで友人も少なく、会社での人間関係は半分崩壊している。理解してくれている人たちが数人いるから、まだ仕事として成立しているレベルだ。
そんな僕とお付き合いしてくれている時点でちょっと変わっていると言えるだろう。
学生時代に付き合った子は僕が料理したり、洗濯したりすると怒り出す子達ばかりだった。しかし、彼女は僕が家事をすると喜ぶ。最近では僕が家事を始めると部屋の隅っこにポツンと座って、本を読み出すようになった。
大抵の子はもっとかまえとか、私がするから触らないでとか言ってきたのだが、彼女は待てをするワンコの様に大人しく待っているのだ。
彼女は僕の3つしたの25歳、学歴は高卒だと言っていたが、そうとは思えないくらい頭の回転は早い。なぜ、大学に行かなかったのだろうか。その辺りは聞いてほしくなさそうな気配がするので、聞いていない。
彼女は不思議なのだ。過去の彼女が全くわからない。まるで存在しないかのように何も情報がない。写真もなければ、親、兄妹、親戚もいない。当然、学生時代の友達とかも聞いたことがない。
一時は何処かの国のスパイではないのと思ったが、けっこうドジで天然も入っているのでそれはなさそうだ。僕が雇う側であれば、彼女をスパイとしては雇えない。
ではなぜ、彼女には過去が存在しないのか。それは彼女が隠しているからとしか思えない。隠しているということは知られたくないことだろう。だから僕は聞かない。彼女の過去に興味が無いわけではない。彼女は今、僕のそばに居てくれている。それだけでいいのだ。
彼女が変わっている点がもう一つある。彼女は毎朝メイクをするが、敢えてなのか、たまたまメイクが下手くそなのか分からないが地味になるようにメイクしている。家に帰ってきて、お風呂あがりの彼女は凄く可愛いのだ。綺麗というわけではない。可愛いのだ。
すっぴんの方が可愛いのだ。これで本気で化粧をしたら、その辺のアイドルには負けないのでは無いかと思っている。秘めた彼女を知っているのが会社で僕だけという優越感を覚えているほどだ。
だが、先程昼休みの男性用トイレで聞き捨てならない事を聞いてしまったのだ。僕は大小に関わらず個室を使う。飛び散るのが嫌だからだ。備え付けの消毒ジェルで便座を拭き、きちんと座って用を足す。立ったままする奴がいたらぶん殴ってやりたくなる。掃除する人のことを考えろと言いたくなるのだ。
話を元に戻すが、昼休みに個室に入っていると次の様な会話が聞こえてきたのだ。
「劣化綾瀬はるかの奴、会計課に移動になったらしいな」
「ああ、あの子な悪い子ではないんだけど、見た目がな。地味すぎるだろ」
「そうだよな。地味すぎて逆にあのフロアではういてたもんな」
「会計課だったら丁度いいんじゃないか。あの子には」
「そうだな。営業と広報には要らないよな」
と、こんな感じだ。これを聞いたときにこいつ等を殴らなかった僕を褒めて欲しいくらいだ。だが、声から大体の目星は付けたから、こいつらの資料は徹底的に粗探しをすると決めた。許すことはないぞ。覚悟するがいい。
それはそれとして、気になったのは、彼女が劣化綾瀬はるかとバカにされている点だ。本当の彼女は綾瀬はるかよりも遥かに可愛いと僕は思う。主観によるものだから、万人がそう思うかどうかは分からないが、僕はそう思っている。
本当の彼女を知らしめてやりたい。僕の彼女は可愛いんだと教えてやりたい。どうすれば良いだろうか。
化粧をさせずに出勤させればいい。ではどうやろうか。そうだな、遅刻ギリギリまで起こさず、化粧をする時間を与えなければいいんだ。よし、そうと決まれば早速行動を開始しよう。
彼女をバカにしている奴らめ、度肝を抜かれるがいい。
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