私の彼は会計責任者 細かすぎてちょっと困ります
間宮翔(Mamiya Kakeru)
第1話 怖い会計責任者
「綾瀬さん、ちょっと来てもらえるかな」
私のデスクにある固定電話が鳴った。液晶に表示される内線番号を見た瞬間、呼び出される事は予想できた。
「はい、すぐに伺います」
電話を掛けてきたのは会計課の
「
私に声をかけてきたのは同僚の
「先輩、きっとまた怒られます」
「ご愁傷様。さっさと行って死んでおいで」
うう。怖いよ。今日は何を怒られるんだろう。
重い足取りで、私が所属する営業部の部屋を出て、財務部会計課のある2階への階段を登る。毎回、この階段が処刑台への階段の様に感じてしまう。
「失礼しまーす」
恐る恐る会計課のドアを開けると、ご愁傷様という顔で他の社員の方々が出迎えてくれた。
会計課の奥にある西園寺課長の席へ向かう。
「西園寺課長、参りました」
「綾瀬さん、お待ちしておりました。お呼びしたのは他でもありません。貴方が先日作成された、この『立替払請求書』の件です」
ああ、これですか。
これは先日、豊田営業部長から渡された。営業先の接待料金を部長が立て替えて支払ったので、その接待料金を請求するものだ。
簡単に言うと部長個人から会社への請求書だ。
私も渡された領収書を見て、これは不味いなと思った。
恐らく部長自身もこうなる事が分かっていたから私に作成を頼んだのだろう。
部長に頼まれた以上、仕事なので作成したが、やはり西園寺課長の壁は突破出来なかった様だ。
ベルリンの壁よりも遥かに厚いこの壁は……。
「あ、あの、これは豊田部長に作成する様に言われた書類でして……」
「そうですね。それは書類を見れば分かります。
私が言いたいのは2点ですね。
まず、立替払いの規定料金を超えています。上限は10万円まで。当然、知ってますよね」
私は頷くしかない。規定に定められているから、当然知っている。
「次に規定で定められている提出期限を過ぎてます。接待後1週間以内が原則です。
よって、この請求は受理できません。部長にお返しください」
そう言って、請求書を返してくる。これを受け取ってしまうと私が部長に叱られてしまう。
私は書類を受け取りたくない。
課長は早く受け取れと鋭い眼光でこちらを睨んでくる。
怖すぎる。堅気の人の目じゃない。何人かやってる人の目だ。
怖くてぷるぷると震えていると、助け船を出してくれる人がいた。
会計課の宮澤さんだ。頼れるお兄さんって感じのちょっとふくよかな男性だ。
「課長、綾瀬さんに言っても解決しませんよ。豊田部長に直接言わないと。綾瀬さんがかわいそうですよ」
そうそう。宮澤さん、よく言ってくれました。私はコクコクと頷く。
「それも、そうだな。この件は私が直接、豊田部長へ突き返すとしよう」
課長が恐ろしい提案をしてくる。
「や、やめてください。そんな事をしたら、大参事になります」
只でさえ、会計課と営業部の仲は最悪だ。まあ、会計課と仲のいい部署なんてないけど……。
西園寺課長が乗り込んできて、部長とやりあったら、それはそれは恐ろしいことになってしまう。
う、うう。私は、涙目になりながらも、課長から書類を奪い取った。
「これは私が何とかしますから、営業部へは絶対に来ないでください。それでは失礼します」
西園寺課長へ一礼し、部屋を出る。
ほぇー。怖かった。何で私と3つしか違わないのに、どうすればあの様な威圧感を出せるんだろう。
私の3年後を想像してみる――全く出てないな。オーラ。
そもそも一般採用の私とキャリア採用の課長を比べるのもおこがましい。
西園寺課長は有名大学を卒業後、外資系金融機関に就職。3年勤めた後、営業担当先であった我社の社長にスカウトされ、2年前にこの会社に入った。現在27歳。彼女あり。同棲中。結婚予定は不明。
西園寺課長とお付き合い出来るなんて、きっと菩薩の様な女性に違いないわ。っていうのは冗談で、実際の彼女は至って平凡で、これまでの交際人数一人の普通女子です。
えっ。やけに詳しいって。それはそうよ。
私がその彼女だもの。
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