第48話 魂の色は?

「結構、コイツ強いから頑張って!」と、謎の激励をジャルジャルートにされたアレックス達は、ポカーンっと口を開けて停止した。


(何が??戦いに、頑張るも何も無くねぇ?敵に激励されるって何??

つーか、ジャルジャルート。一方的に喋って居なくなった....。

近所のおばさんか?満足したら、急に帰るパン屋のおばちゃんみたいな奴だった。)


「.....。」「......。」


「なぁ、今のうちに攻撃するか....。」

「そうだね....。」


目の前のジェ・スーは、表情がないまま微動だにしていない。

チャンスだと思うんだが、何故か攻撃する気にならない。


でも、とりあえず....拘束だな。

ネフィと目で会話する。それだけで、作戦は伝わる。

伊達に、一緒に長年戦ってきてない。


ネフィは、シュッと鞭をふるってジェ・スーの体をぐるぐるっと拘束して地面に転がす。

同時にアレックスの魔法陣を広げて魔術を行使した。


『重力増加グラビティ!』


ドンッと、上から重力で押さえ込む。

足りなければ、重ねがけだ。


地面がひび割れ、陥没し、クレーターのように穴があいた。

確実に重力がかかってる筈であるが、ジェ・スーの体は潰れてもいなければ、苦痛の表情も浮かべていない。

無表情のまま、そこでただ転がっているように見える。


「効いてるのか....?ちゃんと、拘束できたのか?」

アレックスは、目に見える効果がなくて不安になった。


「ねぇ、アレク。とりあえず、悪魔だって言うんだから浄化でもしてみる?」

「うーーん。でも、さっきマリーナさんの浄化の光が当たったと思うけど、消滅しなかったぞ?」

「あっ、そっか。そうだね。

地球の悪魔と違うのかな?

十字架と聖なる光に、魔除けのニンニクってイメージだったけど。」

「それ、吸血鬼だろ?違くね?」

「悪魔と吸血鬼は仲間でしょう?」


「........。そうだったか?

とりあえず、悪魔と契約したから人間じゃなくなったんだろう?

だったら、その契約を解除させたらいいんじゃないか??

そしたら、人間に戻るんじゃないかと俺は思うんだけど。

ネフィ、契約解除の魔法陣知らないか?」


努めて、真顔のままネフィに聞くアレックス。


目は合わせられない。ジェ・スーに固定だ。

なぜなら今、俺は今後の人生を賭けた大勝負中なんだっ!

『俺とネフィの死の契約魔法陣も、うまくいったら解除できるかもっ!!』と、ムフフな展開を期待している!


心の中では、小躍り中のアレックスだった。


「何?何か言った?(契約解除の魔法陣って、アレクが前から知りたがってる奴じゃない?もしかして......。)

もう一回言って?」

こてんと、首を傾げてトボケるネフィ。


「だから、契約解除をしたら良いと思うから、魔法陣知っ....、「目を見て言って♪」」


(っ!?絶対聞いてるだろぉぉ。)

アレックスは渋々目を合わせて、もう一度言った。


「知らないよ?知ってたら、今使ってる。(ふふん、目の奥に動揺が見られるよ?長い付き合いの私には、わかるっ。)」


たしかに、ある意味嘘ではない。

ネフィは存在は知ってたが、魔法陣の解析が難しくて理解できていなかった。


「(知ってそうだったんだが、...。)じゃあ、仕方ない。

元人間を殺すのは、気が乗らないが、覚悟を決めるしかないな。」

「そうだね......。いつもは、悪い奴らは、捕らえるだけで済んでたけど。今回ばかりは...。」


モヤモヤと、なんとも言えない苦い気持ちになるふたり.....。


「仕方ない、いつものように効く魔術を一つ一つ調べていこう...。やるか...。」


『燃焼 カンバッション!』 パァーッン!

『氷魔法 フローズンランス』 パァーッン!

『風鎌 ウィンドビースト』 パァーッン!


次々と、魔術を繰り出すアレックスたち。

しかし、その全てがパァーッンと弾かれ霧散する。

まるで、ジェ・スーの周りに見えない障壁があるみたいだ。


「...効かない?手強いって、こういうことか?

絶対防御的な??」

「なるほど....、これは手強いね。」


うーむと、しばらく悩んでいたが、アレックスが「なぁ。」と提案してきた。

意味もない作戦、ただ急に思い浮かんだだけのくだらないモンを言ってみただけだ。

ネフィもそれに乗る。

ちょっとした現実逃避だ。


「これは、アレだな!封印するしか無いな!

魔封派マフーバだなっ。」

「あー、そうだね!ドラゴン○ールの禁じ手が必要だね。」

「亀仙人から壺とお札貰ってこないといけないな!」

「じゃ、色仕掛けは任せて!

私の魅惑のおっぱいで、パフパフさせて、貰ってくるわ。」

「よし。そうと決まれば、きんと雲に乗って出発だ!」


キャッキャ、ウフフと楽しそうに掛け合いをしていた2人だったが、急にスンッと大人しくなった。

2人とも顔から喜怒哀楽が抜け落ち、チベスナ顔で止まった。


「...ヤベェ、ネフィ。ツッコミ役がいないと話の収拾がつかない....。

結構、面白い話題だったと思うんだが、気分が乗り切れない。」

「そうだね、アレク。

こんな時になんの話してるんだよってツッコむ役が必要だよ....。」


チラリと後ろを見て、ロウェルを確認した。

まだ地面に潰れている。

威圧に絶賛ヤラレテいて、動けない騎士その2だ。

使えない。


だが、後ろを振り返ったことでアレックスはある違和感に気づいた。

周りの騎士たちが、ほとんど潰れていることに気づいたのだ。


「なぁ、ネフィ。おかしくね?」

「何が?」

「さっき、ジェ・スーに戻るって言ってたけど、威圧が強すぎるだろう。

戻っていれば、騎士連中なら立ち上がることくらいはできるだろう?」

「言われてみれば.....、じゃあこれジェ・スーじゃなくてジャルジャルート?」

「多分....。」


アレックスはスーッと大きく息を吸うと、「ジャルジャルートぉぉ!!」と叫んだ。


すると、悪魔が、グラビティがかかってるのにも関わらず、ムクリと平然と立ちあがった。

次いで、パァーッン!!っと大きな破裂音がして、アレックスの重力魔術が完全に無効化されてしまった。


コキコキと首が動いて、口を開く。

「はは。バレちゃったかぁ。うん、まだ俺でした☆」


アレックスは呆れながら、話しかける。

「やっぱりな....。

まだ、しゃべり足りなかったのか?

お前は、悪魔のくせに人間の世話焼きおばちゃんみたいだな。

もう、帰れよ.....。」

「そうだ!帰れぇ!

お前がいると、ツッコミ役が不能だ。

邪魔だ、ハウスっ!」

ネフィもアレックスも、悪魔に対峙しているのにも関わらず、随分な態度である。


そして邪魔扱いされたジャルジャルートも、怒りもせずに喋り続ける。

「だって、君たちに悪魔の威圧が効かない理由も知りたかったし?どんな攻撃をするのかも知りたかったからね。

それにしても、人間にしてはなかなか魔術の精度がいいね。相殺するにも、精密な解析が必要だったよ?

素晴らしい、マーベラスだ!

まぁ、それは今となってはどうでもいいんだけどね。」

相変わらず無表情であるが、どこか声だけは愉しそうで嬉しそうだ。


そして、この短い時間である事を確信したようだ。

ジャルジャルートは、否は言わせないという風に、声を一段落としてから「君たち、我が弟と同郷だね?」と、問いかけてきた。


(っ!?)


アレックス達は、衝撃を受けた。


この場合の同郷っていうのは、確実に地球人の記憶を持ってることを指しているだろう。

でも、なぜわかったんだ?


「.....ドラゴン○ール。」

ボソッとジャルジャルートが呟いた。


(ドラゴン○ールを知ってる!?)

アレックス達は、絶句した。


「君たちが、弟と同郷なら説明がつくんだ。

悪魔の威圧が効かない説明がね。


そもそも我が国の魔王っていうのは、1番の強者が魔王になる定めになっていて、今代は、弟だ。

詳しいことはわからんが、昔から魔王になると全ての悪魔の威圧が無効になるんだ。


そして悪魔には、魂の色っていうのがあって、悪魔の中でも数人は一緒の色を持つんだ。つまり、魔王と同じ色の者にも威圧が効かなくなる。

どうやら魂の色で威圧が無効になるかどうかを判断してると言われている。

だが、弟のヴェルディエントは少々特殊な身でね。」


「特殊??魂の色?」


「本来、魔王の側近は、魂の色が同じ者がなるんだ。

違う者だと近くにいるだけで、膝をつかなくてはいけなくなり不便だろう?

だから魔王が世代交代した時、大々的に謁見するんだ。

それで、弟は全悪魔と対面したが、全員が全員、会うなり膝をついてしまった。

つまり、今代魔王の魂の色と同じやつが1人も居なかったわけ。

異例中の異例でね。

そこで弟を調べたら前世の記憶があったんだ。そんなこと今まで聞いたことがない。

そもそも悪魔は、神なんだから、最初に生まれた存在だと思われていたからね。

そういった事情があったから、魂の色が普通じゃないと考えている。」


「で、何が言いたいんだ?そんな悪魔の事情なんて俺たちには関係ないだろう。」


「だからね、弟は孤独なんだ。

四六時中そばにいてくれるものがいなくてね。

だから弟は、同じ魂を持つものを探していた。

ここまでいいかな?

そして君たちは我々の威圧に耐えられる。

つまり、魔王と同じ魂の色なんじゃないかって思ったわけ。

でも、君たち人間だからね。

慎重に吟味していたら、『“アニメ”』の話題が出たから確信した。」


「なるほど。ヴェルディエントは、だから石版の文字をアルファベットで書いたんだな。」


「アレも読めたのかっ!?やはり、君たちは『“オ タ ク”』という人種だな!?」


興奮した声で、詰め寄るジャルジャルートだったが、あいも変わらず無表情だ。


そんなジャルジャルートに、アレックス達はバッサリと否定する。


「はぁ?違ぇよ(違うよ。)」


ジャルジャルートは、息をのみ絶句する。

そんなジャルジャルートに気にせず、しゃべり続けるアレックス。


「まず、声を大にしていうが、オタクじゃねぇ!

オタクが悪いってわけじゃ無いが否定させろ。

俺は、普通で平凡な一般人だったし。

ネフィに関しては、オタクみたいな平和な奴じゃねぇ。嗜虐趣味のSM女王様だ。」


「『“オタク“』じゃない??女の方は、前世王族だったのか!?」


明後日な勘違いをするジャルジャルートだったが、アレックスは放置して進む。


「あー....。そうだな、SとMの世界では王族だ。間違い無いな。」


ひらひらと手を振りながら、適当なことを教えるアレックス。

ちょっと悪魔が可哀想だ。


「SとMの世界?君たちの世界は、少なくても二つに分かれていたんだな?それは、弟から聞いたことはなかった。

しかも、その中で2つも同時に統治するとは、女の方は高貴な優秀な人物だったんだなっ!?」


「そうそう、めっちゃくちゃ私高貴な身分だったの!凄いでしょう?大人がみんな裸でひれ伏すの!そして、ありがとうございますって啼きながらお礼を言われるの♪」


「すごい文化だな....。裸で王族に謁見するのか。

しかも、泣きながらお礼を言わないと不敬になるのか。」


「そうそう♪」

ネフィもノリノリで、勘違いを誇張させる。


「そして、人種という点でも違うな。

俺たちゃ、少数民族黄色人種だ。

多分、ヴェルディエントは白色人種だ。」


「なんだってっ!?色が違うじゃないか!

黄色と白??なぜだ、君たちは威圧が効かないから同じはず.....。」


ジャルジャルートはどうやら混乱しているようで、ぶつぶつと『なぜだ』と繰り返している。

アレックス達は、小声でこれからのことを相談中だ。


「どうするよ、ネフィ。

ジャルジャルートだと魔術が効かないぞ?無効化されるっぽい。

俺、剣使えねぇ。武闘派じゃねぇし。」

「そうだね、残念魔剣士さんだもんね♪」

「なっ、まだそれを言うか!?恥ずい....。」

「プププ♪でも悪魔をどうにかしないと任務が終わらないし、団員達も動けないね。」

「まいったな...、ジャルジャルートに帰ってもらわないと、何にも作戦が浮かばない。それとも、ネフィがやるか?」

「うーん....。私の装備、魔術ありきの武器なんだよね。レイピアと鞭じゃ、対人戦は無理だよ....。」


作戦らしき作戦が決まらず、アレックスたちが話しこんでいたが、ジャルジャルートが混乱から帰ってきた。


「よしっ。悩んでも仕方ないな。

君たちを魔界に招待するよ!

弟に会えば、なんとかなるだろう!

そうと決まれば、行くよ!」


「「はぁっ!?」」


いくってどうやって?と、思っていたら見たこともない文字が羅列した魔法陣がアレックス達を覆った。

パァーッと輝いたと思ったら、暗転したのだった......。




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