第44話 白の洞窟
行軍2日目が始まった。
昨日の道を使って、森の上から前回進んだところまで一行はあっさり戻ると、地面を沈下させ宵闇の森へ再びもぐった。
アレックスは、森に降り立つと、すぐさま防御壁を展開する。
今は、太陽光が上から降り注いでいるので、異形は近づいて来れないが、穴を塞げば周りを囲んでうねうねと異形がなだれ込んでくるだろう。
次いで、大穴を開けた森の天井を植物魔法で塞いで、元の森に戻した。
生態系の保全は大事だしな。
すると当然、辺りは真っ暗になり、夜になった。
各々が魔石を握り、辺りの視界を確保するために照らし、光源を確保するとようやく行軍開始だ。
淡々と、前日と同じ作業を続ける一行。
ひたすら浄化する魔術師と、ヘドロ状の手足を切り落としスピードを調整する騎士の連携には無駄がない。
危なげなく進んでいた。
順調である。
しばらくすると、一方向からやってくる異形の数が、昨日より明らかに増えてきていた。
どうやら、原因となるものがある場所に近づいているらしい。
やがて、
『全員っ、止まれ!!』
エバンズの掛け声で行軍が止まった。
前を見ると切り立った岩肌が見える。
行き止まりか?
『アレックス補佐っ!照らせ!』
「はっ!」と、了承すると、
『照射 イルミネイション!』と魔術を行使した。
擬似太陽を生み出し、その場をギラギラと照らす。
辺りがオレンジ色に染まり、目の前の岩肌の様子が見えるようになった。
岩壁は、どうやらかなり高い。
木々が鬱蒼としているので途中までしか見えないが、てっぺんは見渡す限り無い。
左右に意識を向けると、左側に岩壁の切れ目がある。
どうやら洞穴があるらしい。
そして、中の広さはわからないが、その穴からゆっくりと異形が列をなして出てきていた。
隙間なくぎゅうぎゅう詰めだ。
どうやらこの岩肌の中に原因となるものがあるみたいだ。
「あそこに入るしかないか....。」
エバンズが、うんざりした声で呟いた。
全く同感だ。うんざりする。
あそこに入るのは、一筋縄ではいかないだろう....。
大規模浄化をしてもいいならば、速攻で侵入できるが。
やりすぎ注意だと言われてるしなぁ。
よしっ、俺の出番じゃねぇな!
アレックスは、擬似太陽を浮かべながら防御壁を維持することだけに専念することにした。
すると、トコトコとネフィが近づいてきて話しかけてきた。
「アレク、この擬似太陽じゃ浄化できないんだね。」
「あー、モノホンの太陽じゃないからなぁ。ただの灯りだし?」
「そうだねぇ、ただの明るい丸い玉だねぇ...。
どころでさ?なんで、あの洞穴の入り口、あれ以上大きくならないんだろう?
虚無の口で普通、もっと開くもんじゃない?」
「あー確かに....。
ぎゅうぎゅう詰めだもんな。
なんだか、化け物なのにちょっと不憫に見えるな。
口が触れれば、普通入り口がもっと大きくなるよなぁ?
なんか入り口が狭くないといけない理由があって、口を壁につけないように歩いてんのか?」
「いやぁ、異形に意思疎通なんて出来ないよね?
あいつら、生きてる者にしか執着ってないじゃん?」
「だよなぁ...。じゃあこの岩が特殊なんじゃね?
砦の壁みたいに、浄化の効果があったりさ。」
淡々と状況を観察している2人だが、当然周りは討伐中だ。
ここの空間だけが、おかしい。
よって、ツッコミ担当のロウェルが小言を叫んできた。
「おーいっ!!アレックスとヴァンキュレイト隊長っ!
落ち着いて話してないで、浄化手伝えよっ!」
「「え〜....いま、きゅ〜け〜ちゅ〜....。
俺ら浄化ターンじゃないからなぁ。
がんばれ〜。」」
ザシュザシュと、異形の手足を削ぐロウェルに激励するアレックスたち。
その声は、他人事だ。
だが、一応サムズアップして最大限応援しといた。
『休憩しているなら、他の魔術師みたいに青白い顔して倒れてろっ!
ほんと、嫌だ、このカップル!!頭おかしいっ!変態だ!
バーケーモーノーカップールゥー!!』
叫びながら、また違う異形に向かっていくロウェル。
働き者だ。
いいやつと友達になったなぁっと、しみじみしたアレックスだった。
休憩中のアレックスは、気になったのでスタスタと岩肌まで歩いた。
そして、しげしげと岩を観察しだす。
手でコンコン叩いたり、採集ナイフを取り出しガリガリと岩肌を削り出した。
ん〜?削った感じは、硬いかな。
傷はつくけど、ボロボロと崩れるってことはないから、石灰岩とかではないか...。
まぁ、この辺海近くねぇし、火山岩ってとこか。
うーん、でもなんかこの白い岩なんか既視感があるんだよなぁ。
どっかで見たような?
アレックスは、削った岩の粒をぎゅっと握ると、錬金術の魔法陣を浮かべ、そこへ放り投げた。
「アレク、その魔法陣何?」
「これか?錬金術の魔法陣なんだよ。
成分を分離したりするのに便利なんだ。
薬草の部位によって、毒になる部分と薬になる部分が違うから、この魔法陣で分離して抽出するんだ。」
「へぇ〜、便利だね。でも、薬のことさっぱりわかんない私には、知ってても使わないなぁ。
で、なんかわかった??」
「まぁ見てろって。」
『水生成....攪拌。成分分離...。抽出。複製...維持。』
「なにこれ?キラキラ光ってるじゃん?
岩って光るの??この光って、何?」
「普通は光らないぞ。だが、うん、わかった。
見たことあると思ったら、この岩、神殿に使われてるやつだ。神殿の周りの白い壁がこれだ。」
「あー、魔物が入ってこないって言う眉唾物みたいなやつだね!
ん?そんなところにアンデッドがいるっておかしくない??」
「だからこそだろう。
異形がぎゅむぎゅむしながら出てくるのは、中が相当居心地悪いんじゃないか?
虚無で消えないのも、この岩自体に多少浄化作用が備わってるからなかなか触りたくない代物なんじゃねぇ?」
「なるほど、逃げるためにあいつら洞穴から急いで出て来てんのかぁ。
それでこの壁から逃げようとして街の方へ向かってるんだね。」
「まぁ、推測だけどな。」
そうこうしているうちに、あらかた浄化し終わり洞穴から出てくる異形のみ浄化すればいいだけになった。
あとは、エバンズの指示待ちである。
『浄化しながら聞けー!』
ようやくエバンズが作戦を話し出した。
「まず、聖女が洞穴に近づいて浄化を行うことにする。
穴の付近の異形がなくなり次第、洞窟の中に進軍を開始!
魔術師は、祝詞を短いものに変更!
入り口が狭いので最初は、騎士と魔術師のペアで2列で進む!
中が広くなれば散開しろ。
聖女は、常に2列目!変異種を目視したらすぐに浄化!
アレックス補佐は、真ん中で防御壁を展開し続けろ!
以上、作戦開始っ!」
なるほど、了解。真ん中で待機ね。
すぐに中が広くなるといいけどなぁ。
縦に長い隊列だと、前方と後方のフォロー出来ねぇし。
仲間が、怪我するのは嫌なもんだからな。
そして、毎度のことだが、マリーナが洞穴に近づくのを嫌がり始めた。
『いやぁぁぁ!真ん中に居ればいいって言ってたじゃないっ!!嘘つきィィ!
2列目も嫌だけど、穴に近づけなんて嫌ぁよぉぉぉ!
ヒィっ、手がっ、手がっ入ってきてる〜ぅ!!
エリオット、サンチェス、エドワードっ!!
わたくしを守りなさいっ!!
そしてネフェルティ・ヴァンキュレイトっ!
何するのよ!?
鞭を仕舞いなさいっ!
ちゃんと行くから、バシバシしないでっ!
なんて野蛮な女なの!?』
必死な形相で、マリーナはじりじりと入り口に近づいていく。
ネフィは、怖気付くマリーナに鞭をぎりぎり落として脅してからかっていた。
ネフィの玩具になっている.....不憫だ。
だが、ネフィは助け舟もだす。
優しいんだか、非道なんだか.....。
「じゃあ一瞬だけこいつら退けてあげるよ☆
特別だよ?マリーナ、いっくよー!」
ネフィは、ニコニコご機嫌に鞭を両手でキュッと握ると、呪文を紡ぐ。
『武器強化 ウェポンエンハンスメント!』
『身体強化 パワーライズ!』
「唸れっ、ブルウィップっ!!」
魔力を纏わせ真っ赤に染まった鞭を、目の前の異形らに対し、力任せに横に叩きつけた。
何体も折り重ねながら吹っ飛ばし、防御壁に入ろうとしていた異形を根こそぎ取っ払い洞穴までの道を確保した。
「今だよっ、マリーナ。前出て祈るっ!さあっ!」
「わかってるわよ!黙って見てなさい!」
マリーナは、意を決して洞穴に近づき、両手を組んで神に祈った。
パァーーーっと、浄化の光が広がり洞窟の中にも光の奔流が流れ込んでいった。
光を浴びた異形が消滅し、視界が晴れる。
しかし、奥の様子は見えなかった。
洞窟の先が、カーブになっていたからだ。
それでも入り口が開いたこの機会を逃すわけにはいかない。全貌が見えなくても、進むしか無い。
エバンズは、すぐに指示をだす。
『突入っ!!』
一行は、号令とともに隊列を組み、洞穴に急いで入った。
浄化の光が届いたところまでは、ダッシュで駆け抜ける。
すると、狭い道は呆気なく終わった。
カーブを曲がるとすぐに開けた場所に出たのだ。
アレックスは、擬似太陽を天井近くに移動させて全体を見渡せるように光を強くした。
白い岩肌に反射して、昼間のような明るさになり全貌を見ることができた。
洞窟の中は、城の大広間のように広々としていて、天井もかなり高い。
奥の方に何があるのかは、残念ながら見えなかった。
少し先から異形が大量に蠢き、壁のように連なっていたので見えなかった。
『魔術師っ!総員、浄化っ!活路を開けっ!』
エバンズの指示のもと、休憩組の魔術師も身体に鞭を打って浄化魔法を展開する。
アレックスも浄化に加わった。
『...万物を創りし尊崇そんすうなる数多あまたの神々よ...、
悪しきものを退ける力を我に...
我は、従順なる神のしもべなり
あやしの身なれど、浄化の力をいらしたまえ!』
ブワッと光が瞬き、青い炎で異形を焼く。
魔術師たちも、次々に祝詞を寿ぎ浄化をし続けた。
やがて、目の前に一本の道が薄らと出来始めた。
浄化のスピードを落とすとすぐに塞がるが、粘り強く浄化していくと奥に何があるのかようやく見えた。
『なんだ?あれは.....』
30mほど先に黒い池が見えた。
ぼこぼこと水面が泡立ち、まるで地獄の灼熱池のような悍ましさ....。
よく見てみると、池の淵からゆっくりと異形が這い出てきている。
「池が、異形を生み出している?」
ボソリと誰かが呟いた。
どうやら黒い池が原因だったみたいだ。
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