第41話 エリオット・テイラー 人生諦めていらー
聖女の能力値検証が終わり、ようやく浄化作業2日目が終わった。
結局、第一の近衛連中も聖女も、多少の怪我はしたが、アレックスの解熱鎮痛剤のおかげで無事無傷で要塞に戻って来れた。
だが、聖女一行は、アレックスたちが平然と帰還したのとは対称的に、ぐったりと生気が失われた様に帰還したのだった。
やはり普段の仕事と違い、人外な存在の討伐は、精神的にも肉体的にも過ぎた試練だったようだ。
しかし、そんな聖女たちも一度寝て起きると、不甲斐なかった記憶が薄れたようで、再び傲慢な態度に戻った。
図太い自信過剰集団である。
全くもって相容れない存在だと、アレックスたち地味メンは切々と思ったのだった。
作戦会議の時間になった。
アレックスとネフィが最後に会議室に入ると、その場は面倒くさい雰囲気が既に展開されていた。
会議に似つかわしくない、マリーナのキンキンした傲慢な声が、響いている。
どうやら、帰ると駄々をこねているらしい。
「私は、森になんて入らないわよっ!なぜ、原因究明に私がっ、同行しなきゃならないの!?」
「...いやしかし...」
「昨日だって、殿下に言われたから、仕方なくここに来て浄化したのよ?婚約を確実にするためにね。
もう頼まれたことは済んだわっ。
それなのに、なぜ、さらに奥に行く必要があるの!?もう、アンデットの数も減ったんだから、帰るわよ!それに私は、騎士ではないからそんな命令に従う謂れはないわっ!」
「ですが、帰られては困るっ!
たしかに、あなたは騎士の誓いもしてない女性ですが、聖国の民です!国のために尽くす義務がっ、」
「義務?義務なんてないわっ!
なんなの!?なぜ私が!?
国が、直接私に命をかけて尽くしてくれたことがあって?ないでしょう?!
それなのに、わたしには昨日の化け物や、さらにその原因に対して、命をかけて戦えって?死んだらどうするのよ!
まだ、王子妃になるとも決まってないのよ!一般市民なのよっ?!
どうしてもっていうなら、ジュリアンの婚約者にしなさいよっ!
ほんとにっ都合が良すぎるわ!
私は、帰るっ!帰るっ、帰るのよ〜っ!!」
エバンズ第10騎士団長が、必死に説得し落ち着かせようとしているが、マリーナはむずがる子供のように帰ろうとしている。
その周りのものたちは、そのやりとりを聞きながら、目を閉じ黙って座って待機していた。
ここにいるものたちは、国を守る覚悟がある騎士の誓いをした集団なので、マリーナの言い分にはちっとも同意出来なかったので、巻き込まれないようにひたすら無言を貫いていた。
面倒なことは、年長者にマルっと投げているようだ。
他力本願で騎士の風上にもおけねぇなと、若干アレックスは呆れた。
そんな中、ネフィは、いつも通り空気を読まずに喋りかけた。
ネフィも、図太い元令嬢だった。
「おっはよ〜!マリーナぁ。よく寝れた?朝から元気だねぇ〜。
それだけ元気なら、今日の行軍も平気そうじゃん。うんうん、よろしく〜!」
「そんなわけないでしょ!?私は、これから帰るって言ってるでしょうっ!」
「またまた〜ぁ。ははは、今帰っても箔がつかないよ??
それこそ、この1ヶ月踏ん張ってくれた冒険者や神官さんの方が功績を挙げてるよ?
ジュリアン王子のお相手には、まだまだ実績が足りないんじゃないかなぁ。」
「そ、それでもっ!
命を失っては意味がないじゃない!私は、死んでからもらう栄誉なんて要りませんわ!」
「うーん、それもそっかぁ。でも、エバンズ団長困ってるよ?お年寄りには、労りが大事だしぃ?」
こてんと、首を傾げてエバンズをおじいちゃん扱いするネフィ.....。
「第3騎士団大隊長ぉぉぉぉっ!
年寄り扱いするんじゃないっ!私はまだ50歳だ!」
ネフィの歯に衣着せぬ言い方に、クワッと目を見開いて言い返すエバンズ団長だった。
目を閉じてた周りの偉い人たちも、ネフィの失礼な発言にギョッとし、目を見開いた。
(うわぁ、みんな目が溢れんばかりに見開いててウケんな。
ネフィはバカだなぁ、普段からおじいちゃんって言ってるから、ポロッとそういう発言がでるんだよ....。)
その後もしばらくネフィとエバンズ団長とマリーナのくだらない応酬が続いたが、会話が切れたタイミングで、アレックスは徐に一歩前に出て口を開くことにした。
このままでは、拉致があかない。
いつまで経っても会議が始まらないので、補佐の身分だが、仕方なく介入することにした。
(俺は、早く帰りたいんだ。
薬を作りながら、だらだら生きたいのに、なんで過酷なスケジュールをこなさなきゃいけないんだろう...。
こんなえらい人だらけの場所にも居たくないし、胃が痛くなる。ちゃっちゃと始めて、速攻で内容を詰めて終わってほしい。フカフカの寝台でゆっくり寝たいなぁ。)
早速、アレックスは仲裁に入った。
「エバンズ団長、うちの隊長が失礼しました。
うちの大隊長は、上流階級育ちでしたので、言葉が若干失礼になることがありますが、本人には悪意は全くありません。
団長は歳を重ねた分の経験をお持ちですので、日々尊敬している気持ちが溢れすぎて、うちの大隊長なりの親愛を込めた言い方になってしまったのだと思います。(実際は、違うが。尊敬なんてちっともしてねぇ。)
たしかに、周りの団長から見ると一回り(実際は、二回りだが....)ほど歳が違いますので、言葉の言い回しを間違えてしまっただけだと思います。」
アレックスは、殊勝な態度で釈明をした。
フォローになってるのかわからないが、とりあえず雰囲気で丸め込もうとするアレックスだった。
次にアレックスは、聖女にも向き合い話しかける。
「マリーナさん、命をかける必要はありませんよ。
昨日は、マリーナさんの能力を検証するための人数でしたので、少しワタワタしましたが、後2人くらい魔術師がいれば余裕で浄化作業が出来たはずでした。
今度の行軍も、人数は絞ると思いますが、今度は危険な目にあわないと思います。
正直、騎士団員の数名は欠損する目に遭うかもしれませんがね。
あなたには、絶対に異形やアンデッドは近づくことはないでしょう。
変異種の場合は、確約できませんが、あなたを護衛する近衛がきちんと能力が有れば概ね大丈夫かと。
昨夜の第1のメンバーは、外した方がいいでしょうが、待機組の中で実力がある騎士が3人くらいいれば大丈夫ですよ。」
アレックスは、不安を与えないように言い含めるように淡々と喋った。
こっちも、雰囲気で丸め込む作戦だ。
それにもかかわらず、ネフィが元も子もないことを言う。全く空気が読めない残念な子だ....。
「いや....。アレク?第一の連中って、顔だけだから、護衛能力期待できないよ?」
「はっ?............。い、いるだろう?3人くらい。
ですよね?マリーナさん?」
「わからないわ。いるのかしら?
ねぇ、あなた。今回私に同行した人たちの中に剣術に秀でた、ちゃんとした騎士は居まして?」
マリーナは、すぐ横に随行していた第一騎士団の騎士に声をかけた。
すらりとした体躯に、足がひたすら長いイケメンだ。さすが、近衛である。
サラサラとした光沢のある白銀の髪と色白のきめの細かい肌も合わさって、白百合のような美しさと言えよう。
目が切長のせいで冷たい雪のような雰囲気もある大層な色男であった。
「そうですね。ふたりなら....。
いや、3人ならなんとか可能ですかね....?」
あまりに歯切れ悪く答えられて、アレックスは壮絶に不安になった。
(えっ?第1の連中、実力がある奴ギリギリ3人しかいないの?どういうこと?それは、隊と言っていいのだろうか?機能してるの?)
「えっと.....チェラスまで来るのに、3日ありましたよね?その道中は?
途中で、魔物が出てきましたよね?3人で対処したんですか?
えっ、血肉で剣が数本切れなくなってダメになった?そうですか、ひとりに対する比重が半端なかったんですね.......。
つーかっ、よく無事に来れたなっ!!」
アレックスは思わず敬語を取っ払って叫んでしまった。
イケメンの騎士は、片眉を少しピクリと持ち上げたが、怒ることもなくしみじみと喋り始めた。
「そうですねぇ。ほんとに、無事着いてよかったです。
メンバーを見たら、『あー、今回は過去最高の貧乏くじひいた』って感じでしたしね。
なので最悪、聖女さんだけを守って、役に立たない団員は見捨てる予定でした。
夜なんて最悪でしたよ。寝ずの警護ができる騎士がほとんどいなくて、3日間ほぼ不眠不休でして。
結果昨夜の討伐は疲れが溜まっていたので休ませていただきました。
マクガーニ家の新人騎士がいなければ、たどり着くのも無理だったかも?」
「いやいやいやいや...。何淡々としてるんですかっ!かなり理不尽じゃないですか?そこは、憤ったり苦虫を潰したような顔をするべきでは!?」
「あー、うちはいつもですから。今回は、特にひどかったですが、慣れてます。
なので、こんなことで感情を揺らすってことはないですね。
私の隊は、私と副隊長以外、使えない顔だけ貴族がほとんどなんですよ。
最悪、帯剣して壁に並んでいれば万事OKなボンクラの寄せ集めです。
昨夜はすまなかったですね、アイツら役に立たなかったでしょう?」
「まぁ、たしかに....。でも枝払い程度は役に立ったかと....。」
「そうか、アイツら剪定することならできたのか....。全くの無能じゃなかったのか。
では、さっきの顔だけ発言は訂正しよう。
今後、城の巡回ついでに木々の剪定でもさせたら、少しは世の中のためになるか...?ふむ、帰ったら検討してみよう。」
真面目な顔で、謝罪を述べられたが、何かちょっとずれている。
天然?いや、天然って感じじゃないな。
話が通じない?いや、言葉のキャッチボールはできている.....。
なんだ?めっちゃ独特な雰囲気な人だな。
..........。うん、考えるのはやめよう。
大筋、話が通じるなら問題ないし!
「エリオット・テイラー。
ところで、何故そんな編成で承諾したんだ?異議を申し立てればよかったじゃないか?」
エバンズが、心底理解できないという顔で尋ねた。
「申し立てても無駄だとわかってましたから。私と、副隊長の家門が支持するお方が失策しまして....。
対抗していた家から、ここぞとばかりに嫌がらせしてこられるのです。ですので、今回は仕方がないことでした。」
エバンズは、チラチラとネフィと聖女を窺いながら口を開いた。
「テイラー家とベイカー家か....。あー、なるほどな。そりゃ、不運だったな...。」
「あー。なるほど!第二王子推進派の家門ね。
なんか、悪かったですね。私のせいじゃないですが、当事者として面目ない。」
ネフィが、顔の前で手を合わせ、片目を瞑って謝罪をした。
その態度は、誠心誠意が全く感じられないものだった。
(ぶっちゃけ王族が情けなかったせいだもんなぁ。ご愁傷様としか言いようがない。
マクガーニ家の新人ってエド様?
あの人は、いつも苦労するな。ネフィといい聖女といい、女難の相でもでてるんじゃないだろうか?)
「では、そろそろエバンズ団長、会議をしませんか?私の隊の役立たず連中の様子が気になります。迷惑をかけてないかと、不安なので。」
エリオット・テイラーと呼ばれた騎士は、口を閉じると、すぐに椅子を引きマリーナを座らせた。
流れるようなエスコートで、普段から紳士な男なのだろう。
そして、エリオットは、スッと姿勢を正して斜め後ろに控えた。
どうやら、第1騎士団は会議には口を出さずに、終始聖女の護衛にあたる方針のようだ。
会議が始まり、作戦を練る。
懸念事項のマリーナの使い所とアレックスの可能領域の確認が主な議題であった。
途中、やはりマリーナがごねたが、変異種には浄化0秒発動が肝になることを説明し納得させ、渋々参加することに落ちついた。
行軍は、翌朝日が出てからということも決定して、行軍メンバーは半日休みになったのだった。
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