第33話 祝詞と祓詞
もうすぐ日が暮れるため、討伐員がわらわらと要塞から出てきた。
いよいよ掃討作戦が決行される。
今まで討伐していた神官や冒険者には、疲れがみられる。
今日から参加する騎士隊員には緊張の色が見られた。
「ジョッシュ。今日はよろしく頼む。
俺の祝詞が長いのか短いのかわかんないが、多分隙ができる。フォロー頼むな。
あと、俺のフォローは出ずっぱりになるはずだ。俺、今まで魔力が尽きたことがないんだ。
だから、いつでも限界が来たら笛を吹いて交代してもらえ。」
「わかりました。お力になれるように頑張ります。」
緊張した面持ちで、ジョッシュは答えた。
ネフィもロウェルと何か話しながら横をすり抜け歩いていった。
その際、アレックスは声をかけた。
「ネフィ、待ってくれ。
これ、俺の作った特級魔力回復薬だ。
あまり数がないから、お前以外には卸せなかった。内緒な。
お前には少し渡しとく。じゃあ、お互い頑張ろうぜ。」
「わぉ!アレクの?すごい即効性ありそうだね。
ありがたくもらっておくよ。ネフィちゃん、愛されてるぅ。
じゃあ、また翌朝に会おうね!」
アレックスとネフィは、効率よく掃討するために離れたところで、陣取ることにしていた。
要塞を間に挟んだ逆側だ。
視覚で捉えられない場所だった。
西の空には、赤い太陽が沈みかけもうすぐ闇夜がやってくる。
討伐隊が待機している更地には、所々火がいれられ松明から炎がゆらゆらと上がっていた。
「アレックスさんは、実戦経験ありますか?僕は、今日が初めてです。」
「ん〜、癖のある魔物とやりあうのは今回で3回目だな。
ドラゴンとアイスゴリラとは、対峙したことがあるからな。
あー、でも山賊とか、小物の魔物だったら結構こなしてるぞ。
俺、薬師じゃん?材料集めとか買い出しとかで遠出する時に遭遇するからな。
ははっ、そんな緊張するなよ。ジョッシュは、異形の手足を斬ることに専念してくれ。くれぐれも無理はしないでいい。」
「...はい。」
ジョッシュは、段々と顔色が白くなりカタカタと震え出していた。
アレックスは、その姿を見て大丈夫かなぁっと心配してさらに声をかけた。
「始まっちゃえば、きっとそんなに大したことないぞ。落ち着け。」
「.........コクン。」
ジョッシュは、もう声を出すことも辛くうなずくことしか出来なかった。
小さなチワワが震えてかわいそうになっている。
だが、ジョッシュを心配している場合じゃない。
「あー、来たぞ。構えろ!」
日が完全に落ちて、カクンっカクンっと身体を揺らし足を引きずったアンデット獣が森から這い出てきた。その数、推定することができない。
間隔も無く、ぎゅっとした状態でごっそりと出てきた。
もはやアンデット製の太い壁のようだ。
異形も、そんな中からのそりのそりと出てきた。2足歩行のものもいれば、無数の手をつかってムカデのように歩く異形もいる。
「これは、気持ちが悪いな。一体どのくらいいるんだか。終着地点が全然見えないな。」
ボソリと呟き、アレックスは呪文を唱える。
『龍火炎 ドラゴンフレイム!』
右手の指先に炎を灯し、燃え盛る龍を顕現させた。
そのまま指をちょこちょこと動かし、人間を上手く避けながらアンデットを燃やしていく。
ゴォォォっ!
勢いよく龍が口を開けて次々とアンデットを飲み込んでいった。
「す、す、凄いですね...。僕のところにやってくるアンデットが、全くいません。」
ジョッシュは、キョロキョロと周りを見渡す。
森から一歩でも出たアンデットは出てすぐにアレックスの炎で燃やし尽くされるので、こっちにくるアンデットは異形のみだ。
周りの冒険者も神官も、魔術師もポカーンとアレックスを見る。
あまりの驚異的な攻撃で、脳内処理がうまく出来ないみたいだ。
「ジョッシュ。
この炎は、俺の腕が疲れない限り夜明けまで出続けられるものだ。だから、お前は気楽に異形を切ってくれ。」
魔術師たちは、アレックスの圧倒的な火魔法を見て、すぐさま聖魔法に切り替えた。
見える範囲にいる異形だけを討伐対象にした。
周りでは、奇天烈な動きや発声をする魔術師がちらほら出てきた。
その姿を見てジョッシュは、ドン引いた。
「アレックスさん、第10騎士団の人たちは独特なんですね....?」
「ん?あー、あれか。そうだな。
ほら聖魔法は、あらゆるものに感謝を捧げて発動するのが前提だから。
跪いて赦しをこう奴もいれば、土下座する奴もいるんだ。オペラ歌手のように歌いながら愛情込めて祝詞を寿ぐやつもいるしな。」
「面白いだろう?」
アレックスは、右手から炎を出しながらくくくっと笑う。
「緊張してたら、勿体無いぞ。とにかく異形の口だけ気をつけろよ、ジョッシュ。」
そんな会話をしていたら徐々に周りの討伐員が移動を始めた。
アレックスがいるところには人員が必要がないと気づいたようだ。
「そろそろ俺も、祝詞を寿ぐ必要が出てきたな....。
なんだよ、聖魔法使えるやつもう少し残れよな。俺、過労死するぞ。」
アレックスは、その場にドサリと座って祝詞を寿ぎ出した。
その間も、右手からは炎を絶えず出しながらだ。
魔力が有り余ってるアレックスだからできる技だ。
『天上に
(天上にいる沢山の神々よ)
我が名は、アレックス。
(もしも色んな悪しきことや罪、)
(穢れがあるならば穢れを祓ってください)
(清めてください。とお願い申し上げる事を)
(お聞き届けくださいと、恐れ多くも申し上げます。)』
アレックスが、祝詞を奏上し始めると、アレックスの周りにぼやっとした光が溢れ出してきた。
祝詞が進むにつれ、どんどんどんどん光が強くなり大きくなる。
『恐みも白す』と最後の言葉を奏上した瞬間、あたり一帯がアレックスを中心にして光の奔流にのまれた。
宵闇の森の奥まで浄化の光が通過し、見えない範囲のアンデットもあらかた消失し神の御許に還って行った。
「あれ〜。こんなに広大に浄化されるのか?想定外だ。
ん〜、地球の
アレックスは、頭をガシガシしながら、ボソボソと呟いた。
「アーレークーっ!!」
遠くの方から、ネフィがものすごい勢いでで駆け込んできた。
わざわざ身体強化まで使ってる。
「アレク!私の方まで浄化の光が届いたんだけど!
何したの!?アレクの聖魔法って確かファイアーボールくらいの聖なる炎が出るやつだったよね!?
何がどうしてこうなった!?」
ネフィが、目をむいてアレックスに言い募る。
「あー。それでも良かったんだが、数が多かっただろう?
効率的な祝詞があったら、楽かなって思って。
いろいろ試しながらやろうと思ってたら、1発目で大当たりした。
地球の神社の祓詞を使ったら、こうなった。
ここの神様の心に響いたんじゃないか?
どこまで光届いたかな。どこまでだと思う?」
「はぁ....。アレク....。
言ってなかったのも悪かったけどさ。
実は、宵闇の森での原因解明も含まれてるんだ。
だから、あれほどの力をぶっ放すと原因ごと浄化されてしまうかもしれない。あれは、ちょっと控えて。
うーん、夜明けまでに追加のアンデットが出てくればいいけど...。
とりあえず、夜明けまでに新たなアンデットが確認されなければ始末書っ!
...私も書かなくちゃいけないけど....。」
がっくりと項垂れて、意気消沈するネフィ。
「あー、うん。今後はちまちま浄化する。
.....出てくればな。」
アレックスは、頼むから出てきてくれっと願った。
討伐して始末書って、理不尽じゃね!?
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