第27話 ネフィとお茶会
「さて。何から話そっか?」
荷物を全部2階の部屋にしまい終わったので、キッチンに移動してお茶にすることにした。
ネフィの買ってきてくれたケーキを皿に乗せて、アレックスは紅茶をいれはじめた。
まず、わざわざ井戸から水を汲んできて、ちょうど2人分320mlの井戸水をメスシリンダーで測る。
茶葉も分銅測りで2人分6gをきっちり測って用意する。
紅茶を淹れるには、理系男子としては知的な雰囲気が大事なんだそうだ。
ちょっと厨二病爆発させてアレックスは、実験っぽく紅茶を淹れ始めた。
「ネフィ。紅茶入れるから、カップを温風で温めといてくれ。」
生成の魔法陣を頭上に浮かべて、メスシリンダーの水を投入する。
『....水投入。Ca・Mg調整、硬度60未満。...CO2(2酸化炭素)溶解、撹拌...炭酸水生成。....加熱100度。茶葉投入。4分放置。』
砂時計をカタンとひっくり返し、しっかり時間を測る。
頭上には、茶葉がふわふわと踊っているウォーターボールが浮かんでいる。
「...アレク〜。紅茶入れるだけなのに、錬金術使うの?」
「普通に入れるの、つまらないだろう??
それに、水に二酸化炭素がたくさん入ってる方がうまいんだぞ。
ミルクティーにするなら酸素を多めにすると美味いんだ。
あと水の硬度も大事なんだぞ。
硬度(mg/Lまたはppm)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1
で計算して、60未満に調整する。
日本みたいに海まで近い地理だと軟水が多くなるんだが、聖国は大陸の真ん中だから海に雨水が流れるまでの距離が長い。
だから鉱物のミネラルが雨水に溶けだしたのが留まりやすくて硬水になってるんだ。
硬水だと、茶が濁って香りも出ない。色がついた渋い水を飲むなんて俺は耐えられない。
だから、硬度の調整は必須事項なんだ。
それに、お湯を沸かすのに鍋を使うと鉄分が水に溶け出して、茶葉のタンニンと結合する。
結果、渋くなって不味くなる。
だから錬金術で紅茶を淹れるのは、理にかなってるんだぞ。
あと、蒸らしてる間も茶葉がジャンピングする様に調整できるから、最もうまい紅茶が淹れられるんだ!」
「....ふーん。こだわるんだね、よくわかんないけど美味しい紅茶楽しみだよ...。
アレク、私だから気にしないけど、そのこだわり一定の女子は引く案件だから気をつけなよ。
細かい男は、嫌われるのが世の摂理だからね。」
「な!?せっかく飲むならうまい方がいいだろう??これが理解されないのか....。マジか....。」
砂時計の砂が全て落ちたので、アレックスは一度ウォーターボールをグルンっと回して濃度を均一にした。
『..回転。濃度均一。...茶葉摘出。...カップ注入。』
「さぁ、俺の渾身の紅茶を飲んでくれ。」
「うん....ありがとう。なんか話を聞いただけでお腹いっぱいだけど頂くね。....ん、美味しいよ。」
「そうだろう!?」
うんうんと、頷いて満足そうに紅茶を飲むアレックスだった。
※紅茶小説ではありません(笑)
「さて。何から話そっか?」
ネフィがカップをそっと置いてアレックスを見た。
「...ん。まず、俺の進退が気になるからそこから話してくれ。」
アレックスも、紅茶を一口飲んでネフィを見た。
「うん、とりあえず隣国には行かない。傭兵ルートは無くなった。」
「そうか。....ん?じゃあ、王子妃になるのか?」
「ならない。」
ネフィは、すぐさま否定した。
「ん?んん??じゃあ、どのルートだ?聞いてたルートのどれでもなさそうだが?あ、サイコパス魔術師の嫁か?」
「それも違うね。結論から言うと、乙女ゲームのシナリオ通りなら王子妃になるか隣国へ追放か、2ルートあったんだけど、どれも当てはまらなかったの。」
「あー、そうなのか。.....。なぜ?断罪イベントはどうした?それがなきゃ、おかしいだろう??」
「うん。断罪イベントなかったんだ。」
「じゃあ、やっぱり王子妃だろう?
こんなとこで男と2人きりになるな!俺、斬首されるだろう!?」
アレックスは、思いっきり動揺して立ち上がったり座ったりを繰り返す。
「大丈夫っ、大丈夫っ!落ち着いて。
王子妃にもならないから!私、平民になったから!」
「.....????.....へっ?平民?」
「そう、平民。」
「「..................。」」
しばらく2人は、ただひたすら見つめあって沈黙が支配した。
アレックスは、いつまで経っても続きを喋らないネフィに対して痺れを切らした。
「いや、喋ろよっ!何、説明終わったみたいな顔してるんだ!貴族の爵位どこに捨ててきた!?その経緯は、どうした?!」
アレックスは、ガタンっと立ち上がって大声で捲し立てた。
「爵位?王様に返したに決まってるじゃん。ノブレスオブリージュを、丸めてポイっとね!身軽になったよ〜。」
「だから、経緯を話せ!!結果だけしかさっきから言ってねぇ。...はぁ、つかれる....。」
はぁっとため息をついて、アレックスはどかっと椅子に座り直した。
「うーん、話すと長くなるから結果だけで良くない?」
ネフィは、きゅるんっと可愛く振る舞って明るく同意を促す。
「は・な・せ!!経緯を、は・な・せ!
うちになんで住むのか、平民に何故なったのか経緯を話さないと、要らん面倒ごとを回避できるものも出来なくなる。」
「は〜ぁい。わかったよう。
えーっと、まずじゃあ1年前ね。私が、第二王子の婚約者になったとこからかな。
なったはいいけど、やっぱりヒロインと王子はラブラブでね。愛がない、婚約者という肩書きがあるだけの間柄になったの。
で、断罪されるために動こうとしたんだけど、サイコパスが毎日毎日魔術勝負を仕掛けてきたり、エドワードが泣きながら逃げるから面白くて追い回したりしてたら、王子の存在を忘れてて。
向こうも、最初に会ってから接触してこなかったからさ。
ヒロインのことも視界に入らなかったから虐める用事がなくてねぇ。」
「あー、その辺は噂で知ってる。」
「あ、やっぱり噂伝わった?よかった〜。
で、夏の感謝祭があったじゃん?めっちゃ着飾ったら、私美人だから王子にちょっと好意を持たれてね。うざったい状態になったの。
ヒロインが、私につっかかってきて。
平民が、貴族につっかかってくるって、どんだけ〜って感じだったんだけど。
まあ、鞭でバチんとして速攻脅したら帰ってくれて....。
なんていうか、虐めるってどうやったらいいかわかんなくて放置してたんだよね。
もう、王子妃になるならそれでもいっかって思ってさ。」
「え?王子妃になってもいいと思ったのか?」
アレックスは、なんだがモヤっとした。
「うん、だって騎士団に席を置いていいって言ってたし。愛がないなら、夜の営みもないし?そこは、ヒロインが愛妾にでもなって子孫増やせばいいし?ね!」
「でも、王子は感謝祭でお前に好意を持ったんだろう?無理矢理、世継ぎ作らされるかもしれないじゃないか!」
なんだかわからないが、アレックスはいらだった。
「はは、あり得ないよ!私を愛さないって、言質も取ってたし、無理矢理?それこそ無理だね!力でも魔術でも私には敵わないしね。
衆人環視で最高峰の魔術師が20人くらいいれば拘束できるかもしれないけど、そんな情緒がない営みをボンクラ王子がするはずがないから。」
「でも、100%あり得なくはないだろう?」
「何?すごい食いつくね。たらればを、今言っても仕方ないよ?
結局、私は王子妃にならなかったんだから。
この仮定話はお・し・ま・い。お〜け〜ぃ?」
アレックスは、釈然としなかったが頷いた。
「で、結構諦めモードで卒業パーティーに参加したら婚約破棄イベントじゃなくて、婚約解消イベントになったの。」
「は?解消?それぞれの親が出てきて解消するって宣言したのか?」
「ううん、違う。ボンクラが、私を愛せないから申し訳ないから解消させて欲しいって。」
「いや、ちょっと待て。自分の一存で解消できないよな?」
「そう。そこが、ボンクラなの。王がいいと言えば従うって伝えたら、その場で王に直訴しちゃったの!」
「........。それで?」
「そしたら、私に瑕疵がないから無理って言われたんだけどさ。」
「そりゃ、そうだ。それで?」
「うん。私の暴力的な振る舞いが王子妃に相応しくないって言い出して。」
「うん。今更だな。それで?」
「認められた。」
「...............。マジか?王様、大丈夫か?」
「うん、治世に不安を覚えるよねぇ。」
「で、ヒロインはハッピーエンドになったのか?」
「それが、ならなかった?いや、現在進行形で審議中だからハッピーエンドになるかも?
とりあえず、ボンクラの婚約は白紙になったの。再度、婚約者の選出からするって。」
「じゃあ、またお前の名前が上がるかもしれないんじゃないのか?」
「ふふ、それはない♪平民になったから!」
「ちょっと待て、今の話でお前が平民になる要素がどこにもないぞ。どうしてなった?」
「王様がね。ボンクラから言い出した解消だから慰謝料がわりに何かお願い聞いてくれるって言うから、平民になりたいってお願いしたの。」
「それが、罷り通ったのか?嘘だろう?」
「一応、理由を言ったよ。幸せな結婚がしたいのに婚約解消の傷がついた自分では誰も娶ってくれないでしょうって。だから、市井で探したいって伝えたら、オッケイ出た!
で、今に至る♪」
ネフィは、話し終えたと言わんばかりにケーキをむしゃむしゃ食べ出した。
「で、お前は俺が好きなのか?」
「へっ?なんで?」
ネフィは、心底わからないって顔で首をかしげた。
「市井で結婚相手を探すって言って、平民になって、のこのこ男の家に来たらそう言うことかと思うんだが違うのか?」
アレックスは、すごく真面目な顔で問いかけた。
「あー、そういうことか。
違うよ!平民になったから、ケジメとして屋敷を出たの。
親はね、貴族じゃなくなっても娘だからそのまま居ていいって言ってくれたんだけどさ。
ノブレスオブリージュを放棄しときながら、贅沢するのは違うかなって思ってね。
それで行くとこがとりあえずアレクのところしかなかっただけ!ゴメンね、期待させちゃった?」
「.....。いや....そんな雰囲気全然なかったからそれでいい。」
アレックスは、そうだよなぁっと独りごちた。
「それで、俺はこれからどうしたら死ななくて済む?」
「あー、それね!私、平民になる条件があってね。
隣国に渡るの禁止と騎士団に入るって条件があるの。私は騎士になることが決定してる。
しかも、いきなり隊長の役目をいただきました♪
第何騎士団かわかんないけど、隊長ですよ!出世コースです。
それで、これが私の任命書ね。で、こっちがアレクの任命書!」
ネフィは懐から2枚の書類を取り出してアレックスに見せた。
「え?俺の任命書??」
アレックスは、訳がわからないというようにフリーズした。
「そ♪
えっとね〜、アレックス殿。
任命書。聖国騎士団の入隊を許可する。かつネフェルティ・ヴァンキュレイト隊長の直属の部下になることを任命する。聖国騎士団長カリーニ・トラバルト」
ネフィは、意気揚々とアレックスの任命書を読み上げた。
「う、嘘だろう?俺、騎士団入団試験受けてないぞ。それに、ネフィの直属の部下?
どんな交渉をしたらそうなるんだ!?」
「秘密〜ぅ♪
まあ、アレクの入団自体は二つ返事でオッケイ出たよ。たくさん勧誘されてたんでしょ?
直属にするのは、骨が折れたけどね。
ふふ、私の後方支援をしてくれるって約束したもんね。7歳の時だから11年も前かぁ。懐かしいね!」
ネフィは、手をパチンと合わせて思い出を美化させて嬉しそうに語った。
それに対してアレックスは、
「.....約束はしてないぞ。ネフィが、一方的にバフをかけて下僕になれって言っただけだ....。俺は同意してない。断固として否定する。」と、反論した。
「よく覚えてるじゃん!アレクもやっぱりあの日のことは忘れられないよね!うんうん♪」
「はぁー。黒歴史だから忘れられねぇよ....。」
アレックスは、がっくりと項垂れた。
「ちなみに、騎士になるってことは騎士宿舎に入るんだろう?この店どうするんだ?」
「あー、安息日が週2日あるから帰って来れるよ。王都の隣だから、ちょうどよかったよねぇ。
あっ!でも馬が1匹支給されるんだけど、馬丁さんと馬小屋を契約しないとね!近くにあるかなぁ?」
「町外れにあるからそれは大丈夫だ。いつから勤務だ?」
「来月!」
「ん、わかった。そのつもりで店の客にも伝えないとな...。なあ、休みの日は俺たち一緒なのか?」
「あー、わかんないね。契約しに行くときに聞いとこう。」
「じゃあ、ネフィ鍵渡しておく。自由に風呂でも台所でも使え。
だが、薬や薬草はいじるなよ!
ぜったーーーい、弄るなよっ!
すっごく高い材料が今この家にめちゃくちゃあるからな!
風呂は、湯船しかないからな。
魔法で温水出して自作シャワーにしてくれ。風呂に浸かりたければ湯をはってくれ。水回りのものをいっさい作ってないから。」
「わかった!ふふ、水回り作らないの?そっかぁ♪」
ニヤニヤとネフィがしているのでアレックスは「?」となった。
「水回り作らないってことは、奥さんは私くらいしか務まらないね!魔力有り余ってる平民ってほぼ皆無だよ、ふふふ。」
「なーに、言ってんだよ。
一緒に入るなり、工事するなり引っ越せばいいんだ。必要がないから、今は水回りがないだけだ。」
アレックスは呆れて言った。
「なーんだ、チぇ〜。」
ネフィは、自分と暮らすことしかアレックスは考えてないんだと思ってたのが外れて、なんと無く面白くなかった。
結局、今日も2人は単なる幼なじみであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます