第14話 元医療従事者の心
お互いに身体強化をかけて、行きの倍以上の時間をかけて帰路に着く。
入山事務所まで最短距離で走り抜ける。
その途中、戦いの音が耳に入ってきた。
キンっ ガンっ ボフンっ ガンガンっ!
誰かが戦ってる音がする。
でも、知らん。頑張れ。
そのまま無視して帰路に着こうとすると、今度は声が聞こえてきてしまった。
ーーー死ぬなっ、生きろ!おい、***!***の止血を急げ!****、抱えて逃げろ!俺もそのあと追いかけるっ!ーーー
どうやら怪我をして瀕死の冒険者がいるみたいだ。
元医療従事者としては、けが人はほっとけない...。
急ブレーキをして、ネフィに確認する。
「助けに行こうと思うんだけど、いいかな?あと瀕死の人がいるみたいだ。
俺が光魔法で治してもいいんだが、そうすると乙女ゲーの主人公が聖女認定されないかも。俺の回復呪文規格外だから。
そうするとシナリオずれるが、ネフィまずいよな?」
「そうだね、助けに行くのはいいけど。
アレクが回復魔法使うのは避けた方がいいかな。聖男になるね、きっと。
ヒロインが聖女にならないと、私が婚約破棄されずに貴族の誰かと結婚することになるかも。それは嫌だ。」
「だよなぁ、貴族辞めたいんだもんな。
じゃあ、止血程度でいいからネフィが回復魔法してくれるか。その間、俺が解熱鎮痛剤作る。」
ネフィと俺だけなら気にせず回復魔法使えるから、今回解熱鎮痛剤もエド
とにかく行くか。
声がした方へ全力疾走する。
木々を素早く避けながらとにかく急いだ。
見えてきたのは、5人組の冒険者だ。
大柄の男がハルバードを振り回して応戦。
その横でロングソードの男が確実に1撃ずついれて魔獣を沈めている。
その後ろでは魔術師が、ちょこちょこ火魔法を放って威嚇している。
その後ろの木にもたれて座ってる女性が一人。
その横で止血を試みてる男が一人いるのが見えた。
冒険者たちを取り囲んでいるのは、アイスウルフの群れだ。
「ネフィ、止血を頼む!」
ネフィは、アイスウルフの上を軽々と飛び越え、回復魔法を発動した。
俺は、アイスウルフの群れを見て即座に魔術を行使する。
『龍火炎 ドラゴンフレイム!』
指先から魔力を放出して、燃え盛る龍をだす。指を動かし、うねらせながら1頭ずつ高速で狼をのみ込み、全てを消し炭にした。
「ネフィ、止血できたか!?」
「まだ、完全じゃない!」
ネフィは、女性の脇腹に手を当て回復魔法を試み中だ。
回復魔法は、魔力をめちゃくちゃ使うくせにゆっくり傷が塞がるのが難点だ。
俺は、生成の魔法陣を出し、魔力で化学式を描く。
『サリチル酸C7H6O3、無水酢酸C4H6O3結合...。アセチル基吸着..。46%..47%..(遅いっ!!もっと早く反応しろっ!)97%...98%...99%...エンド!!アセチルサリチル酸C9H8O4生合成完了!結晶化!』
薬瓶がないのでコップで代用。解熱鎮痛剤を作りおえた。
水を入れて薬を溶かし、女性の口に流し込もうとする。
「なんだ!?何を飲ませようとしてるんだ!」
周りの冒険者が抵抗を示す。
うるせぇ!離せ!
「俺は、薬師だっ!飲ませないと死ぬぞっ!!黙って見とけ!」
今まで生きてきた中でもあり得ないくらいの大声を出して一蹴した。
女性の顎を持ち上げ、口を開かせて薬を流し込む。
やっぱり飲む力がない....。
...口移しは嫌だなぁ。
仕方ない。
女性の鼻を摘んで、無理やり空気の流れを止める。
女性は苦しくなってむせこんだ。
ぐふぉっげふぉっ、ゴホゴホっ。
ゴクンっ!
ちょっと薬が喉に入った。これで飲めるはず。
少し口に薬を入れてやる。
こくん。
よし、後は全部ゆっくり飲ませれば大丈夫。
こくん、こくん、こくん。
完全に傷が塞がり、女性の呼吸が安定した。
「よいしょっと。
もう大丈夫です。僕たちの治療じゃ、傷を塞ぐことしかできません。
流れた血液は、補充されてないのでしばらくは安静にさせてください。
肉や卵など血になりやすい食べ物を食べさせてあげて。」と立ち上がって振り返り冒険者たちに説明した。
冒険者を見渡すと、キョトンとした顔をしたなんと入り口で会ったゴンザレスがいた。
「...。お前たちほんとにSランクだったんだな。すごい魔法だった。
俺たちが手こずったアイスウルフを一瞬だもんな。
ジェニーの傷も致命傷だと思っていたが、ありがとう。
信じられないほど早くて見たことない治療だったが、助かった。本当にありがとう。」
ゴンザレスは、驚きすぎて魂が抜けそうなくらい放心状態ながらも、何度もお礼を俺たちに言ってくれた。やはりいい奴だ。
「でも、魔剣士じゃなくて薬師だって??」
ははは、忘れてなかったか。
「本業は薬師なんです。
今回は、ネフィがアイスゴリラが見たいって言ってたので、観光がてら冒険者登録をしたんです。
魔剣士は、俺たちにも分からないので忘れてください。」
肩をすくめて、本意でないことを説明する。
「そうか、薬師か。観光がてらか.....。
とにかく助かった。俺たちもアイスウルフだけなら難なく討伐できるレベルなんだが、初っ端アイスゴリラにジェニーがやられてしまって...。
守りながらだと思うように討伐できなかった。」
やっぱりもう1体いたのか。
で、そいつはどこに行った?
「そのアイスゴリラは??」
「ここから西に10分くらい走ったところにいた。
俺たちはジェニーがやられて、抱えてとりあえず逃げたんだ。そしたら、ここでアイスウルフの群れに捕まった。」
西の方角を指差しながらゴンザレスは説明する。
指の動きを目で追うと、もう1体のアイスゴリラらしきものがものすごいスピードで向かってくるのが見えた。
「なっ、振り切ったはずなのにまた来た!
まずいぞ、ジェニー抱えて逃げるぞ。」
ゴンザレスたちは、ジェニーを抱えて走り出した。
「お、おいっ!早く来いっ!あいつは格が違いすぎるっ!」
走りながらゴンザレスがこっちに向かって叫ぶ。
問題ない。
さっきのやつで学習済みだ!
『雷電 サンダー』
どんなに素早い動きでも雷落下速度の光速よりは遅い。
雷がアイスゴリラに直撃して減速したところに拘束をかける。
『重力増加グラビティ3.5G!』
ドンっと対象が地面にひれ伏した。
今回は、一気に倒す。
研究済みだからな。
闇魔法で一撃でやればすぐだ。
俺の周りに魔法陣を広げ、腕にザクッと傷をつける。
痛ってぇ....。
多めに血液を流して魔法陣に定着させ、魔法陣の真ん中に、悪魔の名前を書く。
今回は強力な悪魔の力を借りて倒すので、贄の媒体の血が多めに必要だった。
『闇魔法ハーデス(悪魔王) ブラッティシャドウ・ディスペア...。』
俺の真下の魔法陣から何十本もの黒い手が這い出てきて渦のようにぐるぐる集まり一つの特大の手になる。
大きな手がアイスゴリラの上にゆっくりと近づき上から覆い被さった。
ギュアァァァぁぁぁぁっ!!!!
アイスゴリラの強烈な断末魔が、森に響き渡り反響する。
声が終息すると、干からびた対象物のみが残された。
根こそぎ生命エネルギーを、ハーデスに取り込まれたようだ。
自分に回復魔法をかける。
『ヒール』
ぽわっと、淡い光が腕にまとわって腕の傷を塞いだ。
振り向くと、冒険者たちが唖然としている。
規格外を見せて放心中だ。
よし。ここは、平常心で乗り切ろう!
「俺、Sランクだから問題なかった。街、帰る。」
ぐっとサムズアップした。
気にしな〜い、気にしな〜い
サクサク歩いて、ゴンザレスの横を通り抜けた。
しばらく放心状態から帰ってこないはずだからトンズラ一択だ。
ネフィ、逃げるぞ。
アイコンタクトをお互いにして身体強化をかけて猛烈ダッシュ!
そのまま下山報告をマッハでする。
そのままの勢いで、ギルドに討伐報告も慌ただしく駆け込んで終了させる。
.....報告して終了させたかった。
すぐに身を隠したかったが、無理だった....。
ギルドマスターに捕まった。帰してくださ〜い。
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