第6話 悪魔が帰ってきました。


「アレク!ただいまぁ。解熱鎮痛剤ができたんだって?それもすごい効果の。すごいじゃん!」とネフィが近づいてきた。


が、なんか鞭の先に何かが引きずられてる...。

心なしか、動いてる??

もがもが聞こえる....。


「ネ、ネフィ。おかえり...。その麻袋動いてるし、『もゴォもゴォ』って聞こえるけど、何それ?」と恐る恐る俺は尋ねた。


魔獣か?魔獣なのか?生け捕りか?


「これ、アレクにお土産!」とニコニコとネフィが答えた。


「それ、だから何っ?!」


「え?アレク薬屋になったんでしょ?だから必要なもの持ってきた。」


「えっと、熊か牛かな?昔から胆のうが漢方に使われてるから。

でも、俺化学式から薬作り出せるようになったから材料は要らないから返してきていいよ...。」と若干引きながら答えた。


「違う違う!アレクが解熱鎮痛剤作ったって聞いたから、実験体を持ってきた。

訓練で、相手をした奴みんなミミズ腫れをこさえさせちゃうんだ。だから、そいつらに使わせてみようと思って。

ほら、手紙に炎症を抑えるって書いてあっただろう?見ための炎症ももしかしたら治るかもしれないだろう?」と言っていそいそと麻袋を開いた。


人間が出てきた....。俺はドン引きだ....。


「コイツ、私の友のエドワードだ。エドと呼べ!コイツは数発攻撃が当たっても気絶しない唯一の男だ。だから、至る所にミミズ腫れができてるんだ。薬の実験に役に立つだろう?」と得意顔でネフィが俺にエドワード様を渡してきた。


「えっと、エド様こんにちは。薬師のアレクです。平民ですが、訳あってネフィと仲良くやってます。どうしましょうか?薬試して見ますか?」と念のため確認してみた。※アドヒアランス大事!

(※アドヒアランスとはコンプライアンスと同じようにきちんと薬を飲むこと。ただし、患者自身が能動的に薬を飲むと納得していることが前提)


ネフィが猿ぐつわをベリッと剥がした。

乱暴だよ、ネフィ....。


「こんにちは...。アレクくん。」

..グスっグスンと男がメソメソ泣きながら挨拶してくれた。

エド様可哀想に..。


「僕は、エドワードだよ。エドと呼んで。

僕はいつもネフィと3人組で行動してるんだ。もう一人は逃げられて僕だけなんだけど、よければ薬をくれるかな。

僕ね、鞭で叩かれるわ、縛られるわで身体中ミミズ腫れができてるんだ。

ネフィの武器はレイピアなのに突かないで柄で打撃されて、あちこち打撲状態なんだ..。」と腕をまくってミミズ腫れを、腹をまくって青あざを見せてくれた。


うわぁ、これは鬼畜な所業だよ、ネフィ...。


「では、アスピリンを飲んでみてください。怪我の痛みに効きます。腰痛持ちのお年寄りにも重宝されてるので安心してひとさじ分飲んでください。」と1回分を渡した。


エド様は、それを怪しまずにすぐに飲んでくれた。


ごっくん。

「わっ、ジクジクした痛みもジンジンした痛みも消えたっ!?えっ、すごい!!」とエド様は目を白黒させた。


体も見てみると、驚くことにお腹のあざがみるみる消えてきた。


はぁっ?!なんだこりゃ!


「...比較的新しい怪我の痕には効果が発揮できそうですね。...失礼します、エド様。腕も見てみますね。ミミズ腫れも少し薄くなってますが、だいぶ時間が経っているのかここまでが限界みたいですね。よければ塗り薬を試して見てもいいでしょうか?」と提案してみたところ、同意が得られたので早速薬作りに取り掛かることにした。


その間、ネフィとエド様は訓練という名の鬼ごっこだ。

ネフィの鞭の音が遠くで聞こえる....。

「ぎゃぁぁぁぁっ、ネフィ!やめてよぉぉ、やっと痛みが治ったんだから、休ませてよ!痛みのない生活は久しぶりなんだ。鞭ぃぃ、しまってぇぇ!」と遠くでエド様の断末魔が聞こえた。


ご愁傷様です....


うーん、塗り薬かぁ。基剤は何にしようかな。どろっとした薬草に粉薬を混ぜてみるかな。

あ、こないだカリナさんから買った月の水で効果を上げてみるといいかも。

なんの薬草にしようかな。

オトギリソウを使ってみようかな。飲むと毒になるけど、塗ると傷にいいんだよね。止血作用もあるし騎士にはいいかもな。

今は夏だからちょうど群生している。

よし、久しぶりに錬金術だ。


「おおーい!ネフィ!

俺、原っぱに出かけてくるからぁ!薬草採取してくるな。もしエド様が怪我して痛がったら、薬ひとさじ飲ませてな。多分痛くならないけどー。

あ、エド様ぁ!

言い忘れましたが、どうも解熱鎮痛剤3日くらい効果あるみたいなんで、今日は気絶できないかもですー!気をつけてくださーい!」と報告も忘れずにした。


エド様が遠くで絶叫していた。

すぐに薬作ります!待っててください。



よし、オトギリソウの葉っぱを収穫して、錬金術で処理ッと。

『乾燥。...大体50度。粉砕。月の水追加...薬効定着。乾燥...瓶封入。防腐...完了』


瓶にオトギリソウの薬効を上げるために月の水も入れてから保存をした。


「あ〜、でもこれじゃどろっとしない....。こまった...。

薬効が落ちちゃうけど、乾燥させないオトギリソウも混ぜる?生の葉っぱ汁でも傷には効くし。

でもこれじゃ、治療師が作る薬とあんまり変わんないな。これに解熱鎮痛剤混ぜるとしても、見た目がいまいちだな。

うーん、どうしようかな。油脂製剤にするとしてグリセリンでも作る?

でもこれも粉になりそうだなぁ。

うーん、そうなると魔獣を狩ってラードを煮詰めて加水分解?

めんどくさいなぁ。一応やってみるか。

ダメ元で化学式で合成!」とやってみた。


『C3H8O3生成!...?』


生成の魔法陣の上で液体の塊がブヨブヨしている...。粉になってない。なぜ?

グリセリンの結晶化ってかなり過酷な状況にしないと起きないから?

まぁ何にせよ油脂性基剤ができたからよしとしよう。


『瓶封入。...防腐...完了』


あれ、最初からオトギリソウじゃなくてステロイド作ればよかった?

あーでもステロイド骨格に性ホルモンの付け方がわからない...。詰み。


とりあえず、解熱鎮痛剤の粉薬とオトギリソウの粉薬を使った3種類の塗り薬を、エド様に試してみよう。

エド様無事かなぁ。




ネフィの屋敷に戻ると、エド様は意識を保ったまま地面に平伏していた....。

「エド様大丈夫ですかぁ?これ塗り薬です。3種類あるので、試してみましょう。」と淡々と説明して塗布しようとすると、エド様は胡乱げにこちらをみた。


「アレクは、この状態を見ても取り乱さないんだね...。僕ね、意識を失わずに動けなくなったの初めてなんだけど。

痛みは確かにないよ。でも体が動かない。これ、ひどい拷問だよ。」とシクシク訴えてきた。


「体力回復する薬はないのでスイマセン。うちのネフィが加虐趣味でスイマセン。」と言うしかなかった。ほんとにスイマセン。


とりあえず塗り塗り。

ぬりぬり。ぬりぬり。ぬりぬり....。ひたすらぬりぬり。


結果エド様、全身てっかてかのボディビルダーみたいになった。...何これ、キモい。


オトギリソウとグリセリンを混ぜたものは、傷が消えるのに時間がかかったが、痕がきれいに消えた。

解熱鎮痛剤とグリセリン混合薬は、すぐに効き始めたが痕が少しが残った。

結局全部混ぜた薬が一番効果的だと分かった。


「ネフィ、耳貸して。」

なになに?とネフィが近づいてきた。


「ねえ、ネフィ。筋肉ムキムキのがたいのいいイケメンが全身テッカテカでメソメソ泣いてるの、生理的に無理。馬車でおうちに帰して。」とネフィにささやいた。


するとネフィは、

「このアンバランスな感じがゾクゾクするんじゃないか!いじめ甲斐がある!」と意気揚々と力説し出した。

さすが元SM嬢だ...。


結局、エド様はドナドナのように馬車に突っ込まれて帰っていった。


「ところで、アレク。なんでエドにヒールをかけてあげなかったの?魔力有り余ってるんだからかけてあげればよかったじゃない?」


はっ!!最近薬師として活動しすぎて魔術を使うの忘れてた!!

疲労回復させる薬が作れないって、こないだ凹んでたから、失念してた。

ファンタジーのポーションは化学式がないから諦めたばかりだったのだ。

エド様スイマセン....。



「アレク!明後日から出かけるよ。大体2週間くらい野営ができる準備しといて!」とネフィがいきなり提案という名の命令をしてきた。


「は?何をしにいくんだ?」

俺は嫌な予感がひしひしと感じられ、とっさに身構えた。


「北の山脈に竜を見にいくよ!今ね繁殖期で、いっぱい竜が集まってきてるんだって。雄同士が、メスを巡ってすごい争いが見られるらしい。この世界に生まれたからには竜見たくない?」


 いやいや、何言ってんだ!?ちょっとそこまで散歩に行こうってノリで何言ってんの?!

2週間もかけて竜見にいくってバカなの?

馬鹿なんだな、お前。


「竜って、ちょっとでかいトカゲじゃないんだぞ。特撮映画ゴ○ラvsキングギ○ラ並みの竜だぞ!俺、死ぬわ!」


「大丈夫だって。ちょっと防御壁の魔法陣敷いて、昼食を食べながら観察するだけだって。その有り余る魔力を使えば、余裕だよ!」


「はぁ、ランチを食うって?俺が防御壁ごと竜に喰われるわ!馬鹿.....うわぁ!!!!」

鞭がバシンと飛んできたっ!ついでにレイピアも飛ばされて地面に刺さった....。本気で死ぬわ....。


「....アレク。誓ったよね?

このまま私一人で行って、竜に喰われたらどうなると思う。アレクが防御壁を展開してくれてたら私は死ななかったかもしれない。

だとすると、これは裏切りって行為にならないかな。私がアレクに助けを求めたのに、アレクが拒否したってことになるよね?味方って言える??

定義が曖昧だけど、もしかしたらアレクも死んじゃうかもね...。残念だけど、1週間後いきなりアレクは死ぬんだね。竜も見ずに...。」


脅されてる!?俺、こんな理由で死ぬ可能性あるの?

え?ネフィの要求を承認しなければ死ぬの!?

えっ、俺すでに下僕じゃね??


「わかった....2日後に出発する準備をする。...嫌だけど...。

竜に地面ごと食べられないように特大の布に魔法陣描くわ....。材料費よこせ。

はぁ、俺の平和な日常がなくなった...。」

とほほ...。

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