第2話 悪役令嬢の目覚め
私はローズ・アディール。侯爵家の長女だ。好きなものはキラキラ・フワフワ・サクサクである。
突然だが、私には大大大好きな婚約者がいる。
それは我が国の第三王子であるリヒト様だ。
キラキラ好きの私の心を掴んで離さない。リヒト様は王家特有の金髪碧眼で、国中の乙女たちを虜にするほどの美形なのだ。
私たちの婚約は、偶然にも同じような時期に産まれたということで王家と我が家の間で何かしら政治的なバランスを鑑みて決まったものだ。私はこの偶然と幸運に感謝した。だって、幼い頃からお傍にいても見飽きないほどの美形……つまり好みの方と結婚できるなんて、親に結婚相手を決められる貴族令嬢としては非常に、類まれなる幸運の賜物であるのだから。
しかも『幼いころは美形だったが成長すると輝きを失う』なんて話もよく聞くが、私の大大大好きな婚約者であるリヒト様はなんと成長しても神に愛されし美形であった! もしかしたら神に愛されているのは私の方なのでは? と思いあがりそうになるほどの幸運に感謝を捧げた。
と
それは本当に思いあがりだったのだと気付いたのは、私たちが王立学園に通い始めた、あの運命の日だった。
──私の王子様は、別の女性と恋に落ちてしまったのだから。
私はリヒト様の顔が良い所に惚れ込んでいるのだと思っていた。でも、わかってしまったのだ。リヒト様が恋に落ちた瞬間を。
リヒト様が自覚するより先に。
それほど、私はリヒト様のことをよく見ていたし、お慕いしていたのだ。自分の本当の気持ちに気付くと同時に失恋するなんて、自分の間抜け加減に笑いさえこみ上げてくる。
思い出せば、お相手のご令嬢も運命の糸に導かれるようにリヒト様を見つめ返していた。それはそうよ。だってリヒト様はなんたって顔が良いし……お優しいし、とても素敵な方なのだから。
あの恋に落ちたお二人の間を邪魔しようなんて、私には少しも出来そうになかった。
そんなことをするのは、今巷で人気の演目の中の”悪役令嬢”ぐらいなものだろう。
その演目の要である”悪役令嬢”も、かわいそうな役どころである。今の立場になってみて、視点が変わってしまった。愛する婚約者に心を寄せる相手が出来て、婚約者を振り向かせようと、愛を取り戻そうとすればするほど愛する婚約者との間に溝が出来てしまうのだから。
今までヒロイン側の視点で、恋路の障害となる”悪役令嬢”を邪魔に思っていたけれど、今では私も笑えない。私こそが、今まさに悪役令嬢の立場なのだから。
──そう、例えば私が悪役令嬢の立場ならば、どうするだろうか。
黙って身を引く?
いいえ、これは王家が決めた婚約よ。政治的なバランスも絡んでいるものだ。リヒト様が恋に落ちた彼女はどうやら低位貴族のようだった。私が黙って身を引いたところで、我が家と同じような家格の令嬢が空席に収まるだけだわ。
このままでは彼女がリヒト様と婚約を結ぶことはかなり険しい道になる。
私に出来ることと言えば、お二人の心と状況の準備が整うまでリヒト様の婚約者の席に居座り続けることと。あと何か力になれることはあるだろうか。悪役令嬢として、二人の恋を応援できることは何か──いいえ、恋する二人に部外者が何をしても邪魔なのよ。どの物語でも主役の二人は山あり谷あり障害にぶつかりながらも愛を深めあって絆を強くするのだわ。
そう、山あり……谷ありで……
愛を取り戻そうとすればするほど行動が裏目に出て、反対に距離を縮める二人を見ることになる悪役令嬢……!
では、悪役令嬢の最大の応援って邪魔して、立ちはだかることじゃない? そうじゃない?
──殿下。今までありがとうございました。
わたくしローズは殿下に相応しい、史上最高の悪役令嬢となりますわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます