島唄ガールズ ~絹縄の縁~

麓清

第1話

 十五年の人生で初めて、インタビューを受けた。

 地元新聞社の女性記者は、「おめでとうございます!」と人懐こい笑みを作って、マイクをむけた。

 矢継ぎ早に飛び出す質問にも「賞をもらってとても嬉しいです」「祖父の唄を聞いて習うようになりました」「島口や節回しが難しかったです」と、そつなく答えることができた。自分に二重マルをあげたい気分だ。


「この喜び、誰に伝えてあげたいですか?」

 最後にそう問われて、すこし考えてから李心りこは天真爛漫に笑った。


「天国の祖父と、一緒に唄ってくれた親友の沙織に、ありがとうって伝えたいです」


 訂正、花マルだ。


 奄美島唄グランプリはシマ唄コンテストの最高峰といわれている。

 李心はこの大会で中学生までが出場できる「ジュニア部門」にエントリーし、夏の予選を難なく通過。年末に開催された本選で見事、最優秀賞を受賞し、表彰式後の受賞者インタビューを受けていた。

 しかし、この日の主役は李心ではなかった。

 高校二年生にしてすべての部門の総合優勝「グランプリ」を勝ち取ったさと英梨奈えりなこそが、この日のヒロインだった。

 英梨奈のインタビューや写真撮影が終了し、李心の番がまわってくるまでに十五分以上は待たされた。それでも、受賞の喜びはそんなことさえ気にならないほどに、李心を高揚させていた。


 インタビューが終わると、李心は着物姿のまま舞台袖の重い扉を押し開けて、楽屋で待つ沙織のもとへと急いだ。出場者たちは三々五々に解散していて、楽屋前の廊下に人影はなかった。

 その楽屋から耳馴染みのある声が聞こえてきた。

 クラスメイトで、今日も相方としてお囃子をつけてくれた沙織の声だ。

 彼女は中で、別の誰かと話をしているらしかった。

 よし、彼女を驚かせるために「わっ」と大きな声を出して、登場してやろう。悪戯を思いついた子どものように、笑いを噛み殺しながら扉の影に身をひそめていると、沙織とは別の声が、口惜し気にいった。


「私、絶対に沙織の唄のほうが良かったと思う」

「ありがとう。やっぱりお祖父さんが偉大な唄者だと得だよね。しかも、半年前にみんなに惜しまれて亡くなって……」


 それは間違いなく沙織の声だった。一緒に唄った相方の声を聞き違えるはずなどない。

 確かに沙織もジュニア部門の出場者の一人だ。でも、彼女なら李心の受賞を一緒に喜んでくれる。そう思っていたのに、彼女は受賞は他界した祖父、清次郎のおかげなのだといったのだ。

 鼻の奥がつんと痛くなり、口の中にじわりと苦い味が広がった。不規則な鼓動が、背骨を伝って李心の脳髄を揺さぶる。

 李心は逃げるように楽屋を通り過ぎ、降り出した雨の中、傘もささずに母親が待つ車へと走った。雨が涙を洗い流してくれたことだけが救いだった。

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