2022.12.31 今年もお世話になりました

「ポケモン四ひき捕まえちゃったぜ」

「ポケモンて何匹いんの?」


「最初に一匹貰えるから五匹だぜ」

「じゃなくて全部で何匹いんの」


「四百匹以上いる」息子は遅くまでSwitchで遊んでいる。「図鑑コンプリートして育成レベルも99にするから」


「……ふうん、漢字ドリルとかワークをコンプリートしろや」


「自分でポケモン捕まえたら、嬉しくて鼻血でそうになる。興奮して(笑)」


 高一息子の冬休みはネトフリでハリーポッターが見れるようになったのと、ポケモンマスターを目指し頑張る決意だけで終わりそうだ。


 いや、マスターは目指していないらしい。大木戸博士のポジションを目指しているという謎すぎる返答だった。おもいっきり遊んで値落ちする生活が羨ましい。


 ともあれ9連休からの13連勤という地獄の日々が終わり、やっと休みが貰えた俺である。濃厚接触者の連休期間中には、後輩くんに色々と動いて貰ったので、少しは手伝ってやらないと不味かったのだが昨日――。


「石田、後輩くんが昨日と一昨日と会社でひとり11時まで残業していったって聞いてる?」と総務同僚は俺を呼んでいった。年内最終日に。「そんなに仕事を抱えるようだったら、同じ課でちゃんと仕事を割り振って残業させないようにしてよ」


 残業代なんて出ないが光熱費とセキュリティの問題はある。ほとんどの部署ではコロナ禍から誰も残業はしていない。


 数年前は普通に残業していたのに今の若者が多少の残業をするのにナーバスになる必要もないと思いたいが。


「昨日は聞いたけど、一昨日もっていうのは今知ったよ」


「あいつが仕事が遅いのは知ってるけど、暇そうなパート社員もいるんだから、うまくやってよ」


「うん。まだ仕事抱えてるみたいだから話しかけられる状況でもないんで、来年になったら考えるわ。はっきりいうと、毎朝30分でも早くきて仕事を溜めなければ余裕のはずなんだけどね」


「知ってて手伝わなかったの?」


「聞いてこないし報告してこないからね。それに関しては後悔も罪悪感もないよ。だって自業自得で、残業してるうえに書類が遅れて皆に迷惑かけちゃってる。残業しても何も終わってないっていうのがまた(笑)」


「だったら、尚更なんとかしないと」


 嫁さんには後遺症があった。コロナの発熱がひいても咳き込むし36°7〜37°位の微熱がときたま出るという。テレワークで日中は仕事をしているくせに夕飯を作るとなると発熱するシステムなのだ。


 四人分の食事と洗い物に洗濯。冬休みでも息子は6時起きで飯を食わせないとならないし、洗濯機は夜の10時からでも回さないと次の日の部活に乾かない。


 揚げ物と王将餃子、鍋物、おでん、鶏肉豚肉をライム胡椒で焼いたやつのローテーションしか作っていないが、休んでいないのは俺のほうだ。


「そういわれると、後悔も罪悪感もまったく無いことに対して罪悪感が芽生えてきたよ。俺って酷いのかな」


「ははは。じゃあ、来年でもいいから課のほうで話し合ってね」


 とまあ年内の仕事は終わった。実家にすこし顔を出すと、いよいよ電気屋は来年に廃業だと親父と兄貴がボヤいていた。


 兄貴は年齢から40度の炎天下でクーラーの取り付けなんて出来ないといい、80歳でも元気な親父はまだ働きたいらしい。


「おお、嫁さんの具合はよくなったか?」と親父。肺の切除という持病があるのでコロナになると苦しいだろうと心配していたが、なんとか無事に乗り切った。


「本当に発熱してるか証拠を抑えようと思ってるくらいに元気だよ」


「向こうの親に正月の挨拶くらい行くんだろ」


 娘ちゃんのセンター試験が間近なのと息子くんが年越しで遊びに行くというので、俺と嫁さんだけで挨拶だけはしてこようと思っている。大晦日に渋滞にならなきゃいいけど。


「なにがあっても、年末か年始には顔をみせてやらなきゃならないだろ。お互い無事だって意味で。こういったらなんだけど、親が子供より長生きするほどの悲劇はないからな」


「うん、俺もそう思う。はやく逝って欲しいって願ってるよ」


「「……あはははは」」


 なんてブラックな冗談がいってられるのも平和なうちだけかもしれない。へとへとで会社は赤字、実家も赤字、仕事の出来ない部下に、風当たりのきつい上司。家事をやらない嫁さんに、受験生とポケモン博士。


 今年もお世話になりました。俺の目下の悩みは足と口が臭いことだ。誰かにいっても解決しそうもないので、ゆっくり風呂でも入るつもりだ。勿論、風呂掃除をしながら――。





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