2021.12.31 現実頭皮

「来ちゃってるかもしんない」


「ああ、パパの髪の毛って細いもんね。一本一本に活力がないっていうか、死んでるっていうか」


「ブッ……嫁ちゃんはいいよね。髪の毛も精神も図太くて」


 年末商戦のストレスだと思うのだが、ここ最近、耳の上四センチあたりに痙攣がある。自律神経の問題か、痛みはないのだがピクピクと血管が脈打っているのだ。


「帽子が良くないんじゃない?」という嫁さんは絶対に帽子をかぶらない。西岸良平の描く女性キャラに似ていて、真円のお顔が大きいのを気にしているのだ。


「体温の七十%は頭部から逃げていくから、寒い日に帽子をかぶると体感温度が全然ちがうんだよね」


「へぇ……じゃあ、ハリウッドの何とか師匠って寒くないの!?」


「そうだよ。シャツ羽織ってる感覚だよ」


 七十%は嘘だけど、もっともらしい嘘なので黙っておこう。蒸れるのはたしかに良くないと思う。そもそもハゲには二種類ある。頭頂部から円形にハゲていくタイプとオデコから砂漠化していくタイプである。


 現在進行しているのは、オデコと緑地帯での紛争地域に国境が固定されていないのが問題のようで、条約の解釈を言い争っているうちに侵略されている状態である。歴史的事実を持ち出しても、この不法な占拠に歯止めはきかない。(国境=生え際)


 砂漠化の原因には二種類といわれている。おもに「気候的要因」と「人為的要因」の二種類だ。つまり、遺伝か環境かという問題でいえば遺伝の要素は否めない。親父も兄貴も薄毛なのだ。

 

 俺の場合は今まで脆弱な生態系に属して活動していたので、コロナ禍や仕事の精神的なストレスに原因を感じることも否めない。


 聞いたことがある――コロナのせいでハゲる。罹ってもいないのに(笑)


「年相応じゃないの、若ハゲじゃないんだから。散らかってる感じのハゲはかっこ悪いけど、男らしい感じならいいんじゃない?」


「おおっ、良いこというね」


 俺は男だ。男らしく生きたい。いや、かつての俺は男らしく生きていた。いつからこんなにも臆病で女々しくなってしまったのだろう。大学生のときは、持っている小物も男らしかった。


 無駄に重たいブーツや鞄、暖かくもないくせにかさばるコート。腕時計はZガンダムに出てきそうなデジタルカシオ。使う予定の無い十徳ナイフに、ウィスキーもバックに忍ばせて通っていた。何なんだろう、スキットルって。


 全然飲まないんだけど、何故に持ち歩いていたのだろうか。形状がかっこいいのと、誰かが怪我で出血したときに消毒薬代わりにビチャビチャとかけてやることを想像して持ち歩いていたのだった(笑)。


 男らしさって馬鹿なんか――。カッコよすぎてウケる。


 いらん物ばっかやないかい。そうか、消去法で不要なアイテムを消していった結果がハゲか、ハゲなのか。まさに今の俺がそうなのだ。早い段階で見切りをつけるのは大切なことだ。このご時世でも、昔にくらべたら取捨選択の自由は増してる。


 朝食バイキングでパンと味噌汁を取ってくるのは止めよう。薄毛は単なる個性だから、気にする必要はない。それが男らしさというものだ。


「タイムリミットが近いね」


「ああ、24のジャックバウアーの気分(笑)」


「ダイハードじゃない?」












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