後悔日誌 GENESIS

石田宏暁

2020.12.5 領域展開

 この物語はうだつの上がらない俺と、仕事はよくするが、家事の苦手な嫁、私が産まれて来なければ誰に愛されるつもりだったのかと俺を問い詰める娘と、脳筋だけど心優しい息子の物語である。というか日記とエッセイです、すみません。



 夕飯に限らず、いつも家族で一番に食べ終わるのは俺であった。すぐに横になりたいからである。昔から食べ終わるとすぐに、テーブルから離れたくなる体質だった。


 どんなレストランで外食しようとも、食べ終わると同時に「ねえ、車に行って休んでいていい?」と、聞きたくなるのだ。


 嫁さんはこの度に、「出たよ、せっかちの血筋が」とか、「ドリンクバーは二度と頼むなよ」とか言うのだ。まあ、分かるけど、血筋を否定するのはやめてあげて。子供にも入ってるからね。


 恐らく消化する胃が弱いのだろう。調べる気はない。何故なら頭痛持ちだし、煙草は吸うし駄菓子やファーストフードも大好きだから、今さら生活スタイルは変わらないからだ。


 今夜もいち早く麻婆豆腐と煮物を食べ終わってしまった俺は箸を置いた。立ち上がろうとする俺の腕は、となりで食事中の娘に捕まれた。


「もっとゆっくりしなさいよ」


「ああ……そうだね。ママちゃん、なんかデザーティステックな物が食いたい」


「柿の種あるよ」


 俺の間食はストックしてある柿の種と即席ラーメンだけと決まっている。他に手を付けたら夜中に買いに行かされることもあるのだ。


「そうじゃなくて、苺味のヨーグルト買いだめしてたよね。ソフィール祭りしていい? ほら、みんなで食べようよ」


「だめ、あれはふうちゃんのだから」


 娘は何も言わず頷く。あげないという強い意思は伝わった。いつもシャトレーゼまで車を出しているのは父だぞ。


 満を持したように夕飯を食べ終えた弟くんが牛乳を飲み干す。こいつは一日に一パックは牛乳を飲むボーイである。ミルクボーイはコップを置いて、皆を睨み付けた。俺は成長した息子の言葉に期待した。


「間違ってるよ、みんな。ソフールだよ? ソフィと混ざってるじゃん。ソッフィ~♪ 肌思い~♪」


「……」


 凍りつく食卓で、嫁さんと娘を見た。首を動かさず視線だけを動かして。そんな俺を気にもせず、高校一年の娘は恥じらいもなく言う。


「バカだなっ、食事中に生理用品のCMソング歌っちゃう中学二年。こっぱずかしいわ」


「……」


 そうちゃんを見て気付いた。あ、こいつ分かってないな、生理用品の意味すら。俺はそう思って助け船をだそうか迷った。


 しかしどうやって、思春期真っ只中の子供たちに、そんな話題をふる? 下ネタは非常にまずい。明るく愉快に、ウイットをきかせてこの場を乗り切らなければならない。俺は重たい口を開いた。


そうちゃん、領域を越えては駄目だぞ。そっちの話題のときは男は知らん顔しとけばよいのよ」


「……」


 最近は鬼滅の刃が落ち着いて『呪術迴戦』なるアニメにはまっている弟くん。いきなり、意味不明な指の動きをして、姉に叫んだ。


「領域展開!! ハダオモーイ!!」


「……ぶっ」


 笑いをこらえようと必死な楓ちゃんと俺を、嫁さんだけは冷静に呆れた顔で見ていた。五条先生に謝りなさい。


「おれ、領域を支配するから!」


「うんうん……大丈夫か、お前」


 領域展開とは術式を付与した生得領域を呪力で具現化する技だそうです。指は中指を人差し指にかけ、昭和女子が使うバリアの形になります。ぎりぎり下ネタではありません。

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