第10話 ポップな猫のコンビニ飯
日曜の朝、僕は起きてすぐに枕元のスマホを手に取った。
某SNSアプリを開く。
新着ニュースの通知がきていたがそれを確認する事もなく、友だち一覧を見た。
それほど多く登録されているわけでもなく、ちょっとスライドしたらその名前はすぐに見つかった。
「あった。」
"冴木冬華"
「良かった…夢じゃなかった。」
昨夜、正式に?友達となった僕と冴木先生は、連絡先を交換したのだ。
友達なら当たり前です、とゴリ押しした。
昨夜の僕、よく頑張ったと自分を褒めたい気分だ。
……ただ連絡先を知ったくらいでどうして僕はこんなに嬉しいのだろう。
僕は先生の事が女性として好きなのだろうか。
まだ知り合って間もないというのに。
先生と話すようになってたった数日の間に、数え切れないほど自分に問いかけた質問である。
……やめよう。
朝っぱらからこんな事を考えても頭が痛くなるだけだ。
これから先生と仲良くなれば、自ずと答えも出るだろう。
その機会は手に入れた。
今はそれで十分だよ。
「…これで終わりっと…ふぅ……確認しよ。」
午前中は、昨夜作業の途中だった動画の編集をした。
「……よし、とりあえず問題なさそうかな。事務所に送って……」
編集した動画を確認し、特に問題なければ所属している事務所に送って最終確認をしてもらう。
それで問題なしと返ってきたものを投稿する。
中には事務所に確認してもらわない人もいるそうだけど、僕はまだ子どもで、気付かないうちにアウトな発言とかしてるかもしれないからね。
「お疲れ様です、セイです。……はい、1本編集終えたので送りますね。……あ、前のやつですか?はい…わかりました、ありがとうございます。それじゃ投稿しますね。」
事務所のマネージャー的な人と電話で連絡を取る。
たったいま編集を終えたものを送ると伝えるためだ。
するとちょうど以前撮ったものの最終確認が終わったと言われた。
電話を切ってパソコンに向き合う。
そして確認終了した動画を投稿した。
これは1週間ほど前に撮影していた動画で、作った料理は天ぷらだ。
うど、ふきのとう、たらの芽などの春野菜を中心としたネタを天ぷらにした。
僕のチャンネルで揚げ物シリーズは人気がある為、再生数もそこそこ期待できるはず。
揚げている時に油が体に跳ねて「あっつぅ!?」みたいになるのが好きな視聴者が多いようだ。
感想欄を覗くと、大抵「いや、服着ろ。」や「エプロンを避ける油有能。」などのコメントが多く書かれる。
「よし、投稿完了っと。」
一息ついて卓上の缶コーラを手に取る。
残り半分以下のそれをグイッと飲み干した。
「くっ…はぁ…!!」
至高の一時だ。
金曜の夜にビールを呷る大人はこんな気分なのだろうか。
……どうでも良いや。
それよりいつの間にか昼過ぎになってる。
お昼ご飯作ろう。
「…うん、我ながらなかなか上手くできたな。」
皿に盛ったばかりで芳ばしい香りを放つオムライスを見て、ドヤ顔で頷く。
僕はケチャップではなくデミグラスソースを使ったオムライスが好きだ。
ソースがない時はケチャップを使ったりもするけど、今回は2週間前に作って保存しておいたデミグラスソースを使った。
市販でなく手製のデミグラスソースはあまり保存のきくものではない。
冷蔵なら数日、冷凍でも1ヶ月以内くらいには使ってしまった方が良い。
使い忘れる前に消費してしまおうと考えた。
栄養のバランスを考えると付け合わせにサラダやスープも欲しいところだけど、面倒なので今日はオムライスだけだ。
夕飯ならもうちょっと考えるけど、お昼だからね。
「さてさて、いただきま……ん?」
合掌したその時、卓上のスマホが通知音を鳴らした。
友達かSNSのニュースか、あるいはアプリの通知か。
とりあえず何の通知かだけ確認しようとスマホに手を伸ばす。
友達からの連絡でも急用でなければ後で返信すれば良い、と未読無視を前提に考えていた。
「え、先生?あっ……」
何とメッセージを送ってきていたのは冴木先生であった。
思わずタップしてトーク画面を開いてしまう。
既読ついちゃったよ。
「まぁ良いか。……動画?」
先生が送ってきたのは10秒ほどの動画。
開いてみると、テレビ画面を録画したものだった。
テレビではお昼のバラエティー番組が流れており、芸能人がどこぞのペットショップで猫の赤ちゃん数匹と戯れていた。
そして先生からの一言。
『かわいい』
「可愛いのは貴女だ。」
思わずスマホに突っ込む。
なにこれ、まさかの初トークがこれ?
テレビに可愛い猫ちゃんが映ってたからわざわざ録画して送ってくれたのかよ。
可愛すぎるんですけど。
『可愛いですね。いまテレビ見てるんですか。』
とにかく返信する。
目の前のオムライスより可愛い先生を優先してしまうのは仕方ないと思うんだ。
『そうよ』
そんな返信と共にポップな猫が「うむ!」と頷いているスタンプが送られてきた。
僕を萌え殺す気か。
『長谷川君は何をしているの?』
『ちょっと遅めのお昼を食べるところです。』
折角だからとまだ温かいオムライスを撮って送る。
『ズルい』
一瞬で返信がきた。
いや、ズルいと言われましても。
『先生はもう食べたんですか?』
『食べたわ』
『何を食べたんですか?』
そういえば料理が苦手とは聞いたけど、普段何を食べているんだろう。
そう思って質問をしたが、既読がついて数秒の間。
そんなに答えにくい質問だったかと不思議に思ったその時、猫が「ズーン…」と落ち込んでいるスタンプと共に一言送られてきた。
『コンビニ弁当』
『夜ご飯、一緒に食べませんか。作りますよ。』
僕は一瞬でそう返していた。
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