第9話 お友達になりましょう

暫く僕と冴木先生は互いの事を話し合い、親交を深めた。

僕が学校でどんな風に過ごしているか、仲の良い友達は誰か、好きな科目は何か、得意料理は何か、恋人はいるのか。


学校では普通に友達と駄弁ったりたまに図書室で本を読んだりしている。

仲が良いかどうかはともかく、1番話すのは野口。

好きな科目は日本史。

得意料理はもつ鍋ともつ煮込み。

恋人はおらず、中学時代に1人だけ付き合った事がある。


先生に聞かれるままに答え、先生にも質問をした。

家でどんな風に過ごしているか、プライベートで会う友達はいるのか、好きな料理は何か、恋人や好きな相手はいるのか。


先生は全て正直に答えてくれた。

家ではだらしなくのんびり生活しており、日課は風呂上がりのストレッチ。

同性の友達が数人ほどで、たまに会ってはショッピングをしたりしている。

好きな料理はポテトサラダと餅。

恋人はおらず、高校と大学で1人ずつ付き合ったらしい。

しかしどちらも長続きせず破局したそうで、まともな交際経験はないとの事。

恥ずかしそうに言ってたけどむしろご褒美ですありがとうございます。




「引き止めてしまって悪かったわね。もうこんな時間なのね。」


帰り際、靴を履いた僕に先生がそう言った。


「いえいえ、本当に気にしないで下さい。凄く楽しかったですから。」


「私も楽しかったわ。こんなに話したのはいつ振りかしら……それも生徒相手なんて。」


「まぁ、誰かに知られたら面倒でしょうけど。」


「そう、よね……」


冴木先生の表情がちょっとだけ暗くなる。

僕との時間を惜しんでくれている。

それだけで僕の心は踊った。



「でも、僕はもっと先生と話したいです。先生の事を知って、先生と仲良くなって、先生に僕を知って欲しいです。」


「は、長谷川君……」


先生が頬を染める。

はたから見れば完全に口説いてたな。


「だから、これからも僕とこうしてお話しませんか?」


「で、でも…私と長谷川君は先生と生徒で……」


「冴木先生…こんな事言ったらなんですが、もう今更ですよ。」


苦笑してそう言うと、先生は赤く染まった顔を手で覆った。


「あぅ……そ、そうよね…」


「知られなければ良いとは思いませんか?同じマンションでたった1つ階層が違うだけ、しかも互いに一人暮らしです。家を行き来するくらいなら、誰にもわかりませんよ。」


「そう、かしら?」


「学校では僕もただの生徒の1人として接します。ですから、僕と友達になってくれませんか?」


「友達……」


「ちょっと歳の離れた友達くらい普通ですよ。それがたまたま教師と生徒だったというだけです。」


自分で言っておきながら、まるで悪魔の囁きのようだなと感じた。

耳心地の良い言葉ばかり並べて、まるで詐欺師のようだと自嘲する。



「冴木先生、僕と友達になって下さい。」


微笑み、片手を差し出す。


「あ、ぅ………よ、よろしくお願いします…」


先生は恥ずかしそうに俯きながら、その手を取ったのであった。

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