第7話 話しやすいは褒め言葉?
『らっしゃーせぇーぃ』
コンビニに到着。
やる気のないバイト店員の声を聞きながら、ドリンクコーナーへ。
「あった……5本くらいで良いかな。」
日曜は朝昼晩で3本は飲む。
月曜の朝晩も考えると……もうちょい買っとこう。
僕は10本の缶コーラをカゴに入れてレジに持って行った。
バイト店員が僕の顔とカゴを二度見する。
僕は特に反応せず普通に会計した。
マンションのエントランスで鍵を挿して扉を開ける。
中に入ってエレベーターのボタンを押した。
上の方にいっていたエレベーターが下りてくるのを待っていると、駐車場側の扉がガチャッと開かれた。
入ってきたのは我が校の誇るクールビューティー。
細身のデニムパンツに白Tシャツ、そして大きめのカーディガンを羽織っている。
ドルマンニットとかいうやつだろうか。
レザーのトートバッグを肩に掛け、手には紙袋とビニール袋を持った冴木先生であった。
先生はエレベーターを待っている僕の顔を見て、目を丸くした。
「…こんばんは。」
「こ、こんばんは長谷川君。」
なんだろう…何故か気まずい。
学校で目が合ったと思ったらそらされた記憶がフラッシュバック。
それを掻き消すように口を開いた。
「えっと……お出掛け帰りですか?」
何を聞いてるんだ。
見ればわかるだろ。
「えぇ、ちょっと買い物に。」
「そうですか…車ですか?」
駐車場の扉に目を向ける。
「そうよ。」
「そうですか。」
そうですか………
話終わったわ。
あ、ちょうどエレベーターきた。
エレベーター内に冴木先生と2人。
僕は8階、先生は9階。
長い沈黙だ。
「……っ…」
後ろから何か言おうとした気配を感じた。
チラッと後ろを見る。
先生がモゾモゾしながらこちらをチラチラ見ていた。
「あの、どうかしましたか?」
「え、あ、その……」
先生は小さく俯いた後、パッと顔を上げた。
「き、今日…冷たくしちゃって…ごめんなさい。」
「え……」
「学校だからあんまり話すと変だと思って……でも、ご馳走になった立場であの態度はあんまりだと…反省してるわ。」
クールなお顔がしょんぼりしている。
なにそれ、可愛い。
「い、いえ、僕は気にしてませんから。」
嘘です。
めちゃくちゃ気にしてました。
「というか、僕よりむしろ野口の方が……」
冷たくされてましたよね。
と言おうとしたが、これではまるで先生を責めてるみたいじゃないか。
何と言って良いかわからず、あーとかうーとか言っていると、その先を察した先生が苦笑いした。
「野口君って、長谷川君の前にいた子よね?」
「あ、はいそうです。」
「彼には、悪い事をしたわね。」
先生が弱々しく笑う。
「それは……まぁ、野口は先生と話せただけで嬉しそうでしたし。」
これは本当。
気持ち悪いくらいニヤニヤしてた。
というか気持ち悪かった。
「……私なんかと話しても何も楽しくないでしょうに。」
「え?」
「私は人と話すの苦手だし、愛想も悪いし、リアクションも薄いし、面白い事も言えないもの……だから、近付きすぎない方が良いのよ。」
……野口が嫌だから冷たくしてたわけじゃなかったんだ。
ただ一緒にいても楽しめないだろうと気を遣ってただけ?
だから食事を断った?
「でも先生、こうして話してる分には普通に話せてるじゃないですか。話すのが苦手とか愛想が悪いとか、僕は特に気になりませんけど。」
「長谷川君は……話しやすいから。」
なにそれ。
僕って癒し系だったの?
「えっと……褒められてます?」
「勿論よ。自慢じゃないけど、私がこうやって普通に話せる相手は数える程しかいないわ。」
本当に自慢じゃない。
何で胸張ってるんですか。
もっと張って下さい。
「それにほら、長谷川君って何だかちっちゃくて可愛いから……あっ」
「ぐっ……」
冴木先生ェ……人が気にしている事を……
いや、そこまで小さくないから。
これでも155cmは超えてるから。
高校卒業時には160cm突入してる予定だし。
「ご、ごめんなさい。気にしてたのね。」
「うっ……べ、別に良いです。」
「ま、まぁ…身長は抜きにしても、話しやすい雰囲気はあると思うわよ。じゃないと私がこんなに普通に話せるはずないもの。しかもまだ知り合ったばかりで。」
ふぅむ。
先生はそんなに人見知りだったのか。
というか学校でのクールな態度って人見知りしてたの?
そこからビックリなんだけど。
「そうなんですかねぇ……」
「今までにも同じような事言われた経験あるんじゃない?」
「いや、そんな事……ありました。」
何度かあったわ。
むしろ小中高と色んな人から言われ続けてる気がする。
「長谷川って小動物みたいで話しやすいよね。ほら、犬猫に悩み打ち明けちゃうみたいな。」って誰かに言われたなぁ。
……やっぱ小さいからなの。
よろしい ならば
怒りに燃えた僕なら真紅の吸血鬼だって5回くらい殺せるかもしれない。
あ、8階着いた。
「えっと……それじゃ先生、また……」
「ちょっと待って。」
冴木先生に袖を掴まれた。
「どうしました?」
「その……もうちょっと、話せないかしら…?」
えっ………可愛い。
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