肆場 五

青瓢箪あおびょうたん。誰かが強くしてくれるなんて甘えるな。機会は俺が与えてやる。後はお前が掴み取れ!わかったな!! 」


吉右衛門は自身の脇差を義経に投げ渡して指示を出す。


「しかし、刀など使った事が無い」


「そんな事は知らん。あいつらはお前の事情を察してはくれんぞ。お前、筆はどっちの手で持つ?」


右手を上げる義経。


「よし、なら左手の薬指と小指で束のお尻をしっかり握れ、残りは女人の胸をもむように……いや、柔らかく添えろ。それから右手の親指と人差し指をつばにあてて上からかぶせろ。切るときはテコの原理だ。右手を支点に一気に引け。だが、こんな説明ですぐにできるとは思っていない。とにかく振り回せ! 相手に攻撃の隙を与えなければいい」


「わかった」


「お前らよく聞け! 攻め手は大鎧を着こんでくる。ありゃぁ、騎乗の一騎打ち用だ。そんなもの一騎打ちをしない限り邪魔なだけだ! とにかく動け。打ち込んで逃げろ! 体力が切れて動きが遅くなったら、首の横を狙え! 来るぞ!!」


大鎧から黒い霧を出す武者が塀を登って現れた。全部で五体だ。三体はそのまま庭に下りて残りの二体は塀の上で弓をつがえている。


「弁慶、指揮を取れ。義経はあの体型から察すると俊敏に動ける。前に出して敵の目標を散らさせろ! 俺は後衛で霞の支援をする」


「相分かった。御曹司、まずは塀の上の二体ををかく乱願いたい。出来る様ならそのまま倒していただいて結構!」


弁慶が義経を前線の奥にいる後衛の二体の殲滅を指示する。


「霞、奴らの反応は捉えたか?」


後ろに下がっていた霞に声を掛ける。


「捕まえたわよ。全部で七体、残りは屋敷の後ろから回り込んでいるの。あと少しでここに来るわ」


「霞、少しはダメだ。あと何メートルであと何秒で何時の方向だ。いいな。」


「わかった。残り100m。二体とも六時の同じ方向から近づいてあと20秒で屋敷内よ」


「よく出来た」


頭を撫でる吉右衛門。


「ちょっと血だらけの手で触らないでよ!」


「あぁ、そこは靜華と同じなんだな……」


「霞、こいつらは普通に人間を止める様にはいかないんだ。反応を掴んだ時と同じだ。弁慶の九時にいるあいつ止められるか?」


目をつぶって集中する霞が一瞬光った。


「どう?」


「お!止まってる。成功だ!! いいぞ! それじゃあ、弁慶の正面と三時。同時に出来るか?」


「やってみる」


目をつぶり同じように集中し、何かに閃いた様に目を見開くと


「どう?」


同時に止まった。目の前の三体の動きが全部止まり弁慶がそのまま難なく斬り伏せた。


「凄いな! 筋がいいぞ!!」


霞の頭を撫でながら


「だから、触らないでって言ってるでしょう!」


「お! すまんすまん」


「後ろの二体の動きを弁慶に教えてやってくれ」


「弁慶! 後ろから二体屋敷内に侵入よ。今、ちょうど屋敷の屋根の上」


と言って霞が屋根を指さしている。上を見上げる弁慶が太刀で矢を掃った。


「霞、あいつらの目的を探れ」


「う~ん、真っ黒でわからないわ」


「そうか、気にするな。よし、それじゃあ今、四体いる。お前はこの戦場を俯瞰して見ろ。何をすべきか考えて動け。しくじってもたいしたことは無い弁慶と義経が死ぬだけだ。俺がいればお前は殺させはしない。でもな、あの二人を殺すのはお前が判断を誤るときだ。行け!」


霞の背中を押して戦場に投げ込んだ。

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