壱場 二
吉右衛門は部屋の端でお辞儀をしている。
「藤原顕季ですよね? お好きなの?」
美郷が伏し目がちに吉右衛門に問えば、
「? え? あ! ああ。えええ、そうです。そうです。顕季ですよね。私、不調法ですので歌は作れませんが、読むことは得意でして、えぇと。その、今の、そう! 今の私の気持ちそのものでございます」
歌集を買いあさって適当に詰め込んだ知識だ。誰の歌かも正直わからない吉右衛門が話を合わせることだけを主眼に返しをして、本音では”しまった”の一言も出そうなところではあったが、
「まぁ。」
美郷は頬を赤くして俯いた。
安堵した吉右衛門は、ぼろが出ないうちにと……
「でわ……美郷様、いざ……」
美郷のそばににじり寄り、肩を抱きしめた。
「まぁ。せっかちさんなのですね」
せっかちさんはそのまま美郷のぽってりした唇を奪い、流れるように首筋にはわせる。
「んんっ……あっ……あ~」
美郷の切ない吐息が行燈で照らされる部屋に響き渡った……
「……美郷様……それでは、参ります……」
吉右衛門は上気する三郷を頃合いとばかりに見定め、本願成就の態勢に導こうとしている。
「お待ち……に……なって…く……ださい。んっん……あっ……吉右衛門様……お…話しが……」
上気した美郷が荒い息を整えるように時折言葉に詰まりながら話かけてくる。
「話しですか? 後でよろしいでしょ」
吉右衛門が焦れながら言うと、隣の男が
「大滝様、お願いしたい事がございます」
「!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます