07
幾重にも立ち上る水泡に、今自分がいる場所が海だと気が付くと、すぐに腕を伸ばし、水面へ顔を出す。
見上げた先には、崩れた崖の跡。
「ダイア!!」
聞き馴染んだ声に目を向ければ、そこには先程海に落ちたはずのバーバリィが、見覚えのある人魚の背中の上にいた。
「バーバリィ様……! それに」
「良かった! 無事だった……!」
「無事じゃねぇんだけど!!」
バーバリィの言葉を否定するのは、疲れた表情のコーラルを背中に乗せた目の前の人魚によく似た顔の人魚。
「フフ、バーバリィさんがダイアさんを助けると仰ったので。
なにしろ、王様の命令ですから。逆らえなかったんですよ」
「ぜってー楽しんでんじゃん!」
クリソとアレクだ。
「お前ら、人魚の姿になると、尚更見分けがつきにくいな……匂いもしにくいし」
驚くことはない。人間の姿の時から、人魚独特の匂いがしていた。
変身能力がある人魚が存在することは知っていたし、その特徴である帽子を被っているところも何度も見ている。
ひとつ気になったことといえば、変身能力の持つ人魚が、人間の魔術師の従者であることだけだ。
人魚もまた、人間と戦い、敗北に近い形で終戦協定を結んだ種族だ。
「この人魚さんが助けてくれたんだ」
「あ、あぁ、そういうことか」
クリソがあの後どこに行ったのかは答えられなかったが、この崖が指定されていたのを見て、この事態を想定して、クリソを崖の下に待機させていたのだろう。
「乗りますか? ぜひ、王子のシートベルト代わりに」
「悪いな」
好奇心旺盛なバーバリィは、初めて見た人魚に興奮しているのか、ところかまわず触っている。
クリソの背中に乗れば、思っていた以上の大きさに気が付く。
獣人の中でも、大きな体格であるダイアですら、優に超える大きさ。
「でも、よかった。ダイアが無事で」
「バーバリィ様のおかげですよ。助けていただき、ありがとうございます」
あの時の咆哮は、バーバリィのものだ。
さすがは獣人の王ともいえる破壊力だ。
「え、俺許してねーんだけど」
「おやおや、根に持つ男は嫌われますよ」
言い争う双子は聞き流し、振り返る。
海面から数人が顔を出しているが、こちらを見て青い顔をしている。
当たり前だ。水中で人魚と戦うなんて、自殺行為にも近い。水中に引きずり込まれて終わりだ。
「放っておきなさい。うまく浜辺に辿り着ければ助かるし、無理でも狼煙を上げれば、助けは来るわよ」
張り付く髪を鬱陶しそうに払いながら、コーラルがダイアに注意すれば、ダイアも前を向く。
「それで首尾は?」
「上々です」
クリソはにっこりと微笑んだ。
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