病妻閑誤日記
KAZUMA
1日目
私は菊名祐天(きくなさちたか)と言います。これから私が言う話に、どうか最後までお付き合い下さいませ。
さて、私が最初の日に、経験したことというのは、妻の精神病を支える苦痛です。というのも、私の妻は精神病を患っておりまして、常に、その病に侵されながら生きております。そのため、私の妻は人一倍、生きづらい世の中で頑張っているのです。ですから、このまま頑張って生きてほしいと思うのですが……
私の妻は、私の切実な思いとは裏腹に、
「はぁ。死に体わ」ため息混じりに言うのです。はぁ。私のセリフですよ。それは。切実な思いが、その一言で台無しにされてしまう。これは、妻の裏切りですよ。言い過ぎかもしれませんが、これぐらい言わないと、私の中では、気が済まないのです。もう、ここまで来てしまうと、私、妻のことをのちに見捨てることになるのでしょうか。そういうことにはなってほしくないです。言い過ぎた私ですけど、妻と長く生活していれば、妻が精神病を患っていようとも、私は妻を愛したいと思うからです。
そんな私はお昼の時間に、妻に「何が食べたい」と言いました。そしたら、妻は、お寿司、ラーメン、パスタではなく、こう言ったのです。「中村彝なら何を食べるかな。」
……え?私は驚きました。目の前で、妻が自殺してしまう夢を見た時のように。実際に、その夢を見たことがあります。あの夢がもし、現実と一致してしまったら、私は妻の後を追うと思います。
すみません。話が脱線してしまいましたね。えーっと、あ。そうそう。あの話でしたね。
その続きを話すのですが、私が驚いたことは事実です。ですが、中村彝を知っている私は、その驚きをすぐに消えたことに気づきました。
そのあと、私は妻に、「きっと、頭蓋骨じゃないかな?」と言いました。中村彝は日本の洋画家で、『頭蓋骨を持てる自画像』という作品を書きました。それ以外もありますが。
私が言った言葉は、その自画像から考えた言葉です。その言葉に犯悩した妻は、「頭蓋骨
ねぇ〜それは良いわね。私も、頭蓋骨が食べたいわ」興味津々に言いました。私は、「え?正気か」驚きましたが、妻のことですから、それは本当なのだろうと解釈しました。
ですが、頭蓋骨なんて食べれませんから、私は現実的に考えて、デリバリーを頼むことにしました。今はまさに、コロナ時代ですから、外に出れません。そのため、仕方なくこの方法で昼食を食べます。
デリバリーのお兄さんが配達してくれたうどんを食べるのですが、妻は、うどんの麺を箸で掴み、「ねぇ、頭蓋骨色してるわね。ふふふ。私もうすぐ、この色になるのかしら」不気味な笑みを浮かべて言います。私は、
「ちょ、ちょっと待って。死んでほしくないと思っているんだ。こっちは」僅かながらに反抗しました。すると、妻は驚いた目付きをして、「あら。そうなの?てっきり、早く死んでほしいと思っているんだと思っていたわ」……え?そんなことを思っていたのか?
私は、また驚きました。ですが、私は、すぐに我に返って、「ああ。そうだ。できれば、ずっと一緒に遺体と思っている」即答しました。
私と妻のうどんが殼になったあと、私は、
うどんのお皿を二埋、玄関の外に置きました。そのついでに私は、玄関掃除をするのですが、その時、妻が現れました。「いつか、私は死んでしまうかもしれないわ。なのに慟して?」きっと、食事中の会話のことが頭の中に残っているのでしょう。私からしたら、あれで、話はてっきり終わっていると
思っていましたが。
玄関を吐きながら、私は妻に、「死んでしまうまでの愛駄なら、可能のはずだけど?」即答しました。妻が適当に返されたと思ってしまったなら、こちら側としては殺ってしまったと絞解するのですが、妻は、「そうね。その通りだわ。ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインのメッセージは正しいわね」怪文書的なことを言いました。しかし、これは、そんなに難しく亡いです。
ここで、中村彝のように説明したいと思いますが、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインという人物は洋画家ではなく、オーストリア生まれの哲学者で、彼の本が『論理哲学論考』というものです。
それで、妻が言ったことは、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの「語りえぬものにつては、沈黙しなければならない」という言葉から来ています。
話を戻しますけど、妻に私は、「ああ。だから、言いたいことというのは、そういうこと。ずっと愛してるから」優しく言いました。そしたら妻は、「蟻蛾とう」そう言い残して、私のそばから去っていきました。きっと、二階へ逝ったのでしょう。妻の後ろ姿を見た私になら、分かります。きっと、私の言葉を無駄にするはずです。ええ。自殺ですよ。
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