試験勉強

弱腰ペンギン

試験勉強


「で、こことここを足すと」

「わかった!」

 なぜ、こんなことになったのか。

 俺は今、高校生になった幼馴染に試験勉強を教えている。

「で、次なんだけど」

「うん……」

 高校生の、試験だよな?

「1+1が2になることを証明しろっていうんだけど」

 どこまで?

 え、証明の範囲ってどこまで?

 リンゴとリンゴを足したら二つって、そういう範囲だよね?

「試験に出すから、覚えて来いって」

 だからどこまで?

 え、これ分厚い辞書でも勝てないくらいの厚みがあるって聞いたことある奴なんだけど。

 試験に出すの?

「いや……そういうのはちょっと」

 わかるか!

「そっか。じゃあ次の問題だね」

 なんだ。フェルマーの最終定理とか出てくんのか。無理だぞ。俺だってまだ高校生になったばかりなんだから!

 そういうのは日本で一番の大学に入ったやつとかがやる問題だろ!

「隆君はプリンを買いに行きました」

「問題の落差!」

 なんだこの問題。っていうかこの高校。プリン! 隆君のプリン!

「だ、大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ問題ない」

 少し取り乱したけどな。

「隆君はプリンを買いに行きました。家で待っている身重の彼女のためです」

「まてまてまてまて」

「どうしたの?」

「こっちのセリフだ。なんだ身重の彼女って」

「それはこれから——」

「そういうことじゃあない。違うんだ。試験だろ? 試験にこう、いろいろと余計な情報とか入れなくていいじゃないか。うん。そうだよね。そのはずなんだよ」

 もしかして俺の高校だけおかしいのか?

 世間の高校生はこういう問題を解いているのか?

「だ、大丈夫? 疲れてるの?」

「いや、うん。かろうじて大丈夫」

 何とか受け入れられると思います。

「そっか。じゃあ続きね。彼女は高校卒業すると同時に結婚を——」

「重い! 設定が重い!」

 まだ隆君高校生だった!

 彼女も高校生だった!

 ナニコレ!

「夕貴、ほんとに大丈夫? 休まなくて平気?」

「あぁうん。もう平気。そういうことにしておく」

「そ、そう。じゃあ続きね? 結婚を考えていました。しかし隆君はモテまくります。彼女を何人も作っています」

「隆クズじゃねえか!」

 愛する人一人守れない奴が子供の面倒まで見切れるかぁ!

「ク、クズじゃないよう。愛がいっぱいあるだけだよう」

「そんな浮気者の理屈なんて……!」

「と、とにかく次いくからね? もう止めないでね?」

「ど、努力する」

 隆君のアクティブさが怖いんだけど。

「でも隆君は『高校卒業したら君だけを愛するよ』と言ってくれています。もちろん認知をしてくれるそうです。買ってきたプリンを食べながらテレビを眺めている隆くんのそばにいられるだけで、彼女は幸せでした」

「……身重の彼女に買ってきた奴じゃなかったのか?」

「『ねえ隆。次の検診なんだけど』という彼女に『ん、あぁ』と、隆君は生返事を続けていました。そんな調子ですから彼女もつい口を滑らしてしまいます。『隆。あなたは本当にこのどもの父親になるっていう自覚はあるの?』」

 隆、クズが過ぎるぞ。

「『あぁ? あるよ』そう言いながらスマホを弄っている彼の顔には、めんどくさそうな表情が張り付いていました。ついに彼女ははじけてしまいます。『ねえ、隆。私本当に産んでいいの?』彼女が聞きたかったのは、本当は何だったでしょうか?」

 ほんと隆クズだなぁ。

 こいつ誰かをダメにするタイプの人間だよ。ホント許せない奴だな。

「っていう問題なんだけど」

「え?」

 え、問題?

「聞いてなかったの? 彼女が本当に聞きたかったのは何でしょうかっていう問題」

「あ、問いがあったの!? へぇー、えぇ。ああうん。そっか。そうなんだ。へぇー」

 前半の下り要る? とか思ったけど要るなこれ。うん。でもそうだな。これはぁ、高校というか学校でやる問題なのかな?

 いや、むしろ高校でやるべき問題なのかもしれないけど少なくとも。

「試験でやる勉強じゃ、なくない?」

「そうだねー。これは僕たちの問題だもんね」

「あー。うん。俺はいいんだよ。だってお前の子供、産みたいし」

「夕貴……。ようやく女子高生になれたってはしゃいでたじゃない」

「お前の子供を産めるからな」

「だからって……」

「黙って認知しろよ? パパ」

「……もう!」



 

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