第9話「遠い昔の夢を見た。」
side・勝
遠い昔の夢を見た。
子供のころ、どんどん仲たがいしていく両親に対して何もできず、ただただ家族がバラバラになっていく様を指をくわえてみているだけだった。
当時7歳、小学2年生になる僕なんかそっちのけで会えば喧嘩する毎日。
原因はわかりきっていた。
僕の成績が悪いからだ。
悪いといっても、単元テストではだいたい80点で、母さんが申し込んですることになった通ってもない塾のテストでは60点。
だからまあ別に特段悪いというわけではないと自分では思う。
けれど母さんはそれを許さなかった。
単元テストでは100点を求められ、塾のテストでは80点を求められた。
それに対する親父の、
「別に中学受験をする予定もないんだからいいんじゃないか」
という意見に母さんは納得せず、
「今のうちから頑張っておかないと中学生、ひいては高校生になってから苦労する」
と言っていた。
もちろん、自分の成績をあげようと努力をしなかったわけじゃない。
でも僕は正直なところ、勉強するのは嫌で友達たちと遊んでいたいなと思っていたので親父になついた。
それがまたよくなかったのかもしれない。
母さんはより勉強に対して口うるさくなり、それを擁護する親父への当たり方も強くなり、やがて離婚することになった。
ここでまたちょっと揉めた。それは僕の引き取り手だ。
母さんが「この子は私が責任をもって育てていずれは東大に通わせます!」と言って譲らなかった。
だけどそれは僕が嫌がったこと、親父が僕に賛同してくれたこともあり、どうにか親父が引き取ってくれることになった。
この一件は僕にとってかなりのトラウマになった。
家族崩壊の中心にいるにもかかわらず、僕は何もできない。
ただ親父につらい顔をさせて。
ただ母さんに厳しい顔をさせて。
何もできない。
僕はその激しい無力感を感じながら、目を覚ました――。
side・奏音
遠い昔の夢を見た。
ワタシが生まれた時にはお母さんはお父さんと離婚していて、ワタシはお父さんの顔を知らない。
それが原因で小学生の頃はよくいじめられていた。
ワタシが何かをしたわけではないのに。
小学生3年生になる頃にはすっかり足は学校に向かなくなってしまい、不登校になった。
けどほんの少しだけ感謝している部分もあるのだ。
それはこの不登校期間にワタシはワタシの原点たるものに出会えたから。
ワタシは不登校で家にいる時間を使いアニメをよく見るようになった。
最初はなんとなく、時間を潰すために見ていたけれど、段々アニメの面白さにハマっていき、そしてライトノベルを知った。
そして、ワタシにとって運命と言えるライトノベルと出会った。
それは、ただただなんの得意なものがない、それどころか成績も危うく、留年ギリギリな主人公が、足掻いて足掻いて足掻いて足掻いて、「夢」を叶える物語。
ワタシはその主人公の泥臭さに、執念に憧れを抱いた。
そして、ワタシは「ライトノベル作家になりたい」という夢ができた。
これが、ワタシの夢の原点、始まり。
だけどこれはただの夢の始まりじゃなかった。
ワタシは学校に行っていない間、全力でひたすら小説を書いた。
しばらくするとアイデアが出なくなった。
ワタシはこの原因は自分の経験不足にあると感じて学校に通うようになった。
休みの日や空いた時間があれば部屋に閉じこもって小説を書いた。
けど、小説を書けば書くほど、部屋に閉じこもれば閉じこもるほど、何か大切なものがなくなっていく感じがした。
ご飯も少食になり、睡眠時間も減ってしまい、その生活バランスの乱れからか、気づいたときには髪は黒色から白髪になった。
そのせいで学校でのいじめはお父さんがいないことから、白髪に関することに変化した。
その上、家族たちと関わる機会が減り、妙な距離感が生まれてしまった。
髪の毛のことはともかく、家族のことは今でも少し後悔している。
もし、昔のように戻れるのだったら、戻りたいと、強く思う。
でも戻ったところで何かが変わる気がしているわけでもない。
ワタシは、小学3年生のころからずっと、過去に囚われ続けている。
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