第6話「おにーちゃん!おかえりなさい!」

いよいよ、待ちに待った夏休みが今日から始まった。

姉さんたちも1.2日前から夏休みに入っているそうなので、今日から一緒に住まうことになる。

ちなみに父さんたちは今朝早くに家を出て行った。

しかしまあ、夏休み前から学校が終わると毎日のように晩御飯を食べに行っていたから、「今日から暮らす」というような感覚はない。

終業式が終わると、僕はいつも帰る家ではなく、これから毎日を過ごしていく家に帰った。

脳内で「Sea,you&me」を流しながら。


「ただいま」


玄関に入ると、自然とそんな言葉が出た。

僕は思っている以上に新しい家族というものに適応しているのかもしれない。


「おにーちゃん!おかえりなさい!ちゃんと手洗いうがいをしてくださね?」


ドタバタと忙しなく音を立てて出迎えてくれたのは、次女の響佳きょうかだった。

僕は笑って靴を脱いでから洗面所へと向かい、手洗いうがいをして自分の部屋に荷物を置いた。

そしてベッドの上にどかっと座って、


「ふぅ……」


とため息をつく。

さて、これからどうしたものか。

夏期講習やら課題やらはあるものの、数は少ないから別に今日からやる必要もないだろう。


「……そうだ」


ふとあることを思い出してベッドから立ち上がって奏音の部屋へと向かう。

初めて会った日に「本の話をしよう」と約束してからというものの、果たせていなかった。

それは忘れていたというのもあるが、奏音は晩御飯を食べる時くらいしか顔を出さないしその上晩御飯はすぐに食べ終えて自分の部屋に戻ってしまうのが常だったからだ。

話をしようとは思ったが響佳がめちゃめちゃ甘えてくるのでしようにもできなかった。あと響佳可愛い。

僕は部屋の前に来るとドアを3回ノックする。

しばらく間を置いてからドアの向こうから、


「おにーさんですか?」


と奏音が聞いてくる。


「ああ、この間約束したろ?本の話しようって」

「そうでしたね、すっかり忘れてました。……入ってください」


ガチャリとドアが開かれ、僕は奏音の部屋へ入る。


「前来た時にも思ったけど、やっぱすごいなここ……」

「そうですか?」

「ああ、なんていうのかな、愛に溢れてる?ほんとにライトノベルとかアニメとかが好きなんだなって思うよ」

「はい、好きです。だから、目指してるんです」


奏音の声音が真剣なものに変わったのを感じて僕は身構えて奏音と向き合う。


「ワタシ、小説書いてるって、言いましたよね?あれ、ってことじゃないんです。んです。ラノベ作家を」


奏音は真剣な眼差しで僕を見つめる。


「あの時、『小説作りの手伝いをする』って約束もしたこと、忘れてませんよね?」


やばい忘れてたとか言えない。

とりあえずここは兄として、あと雰囲気的に「ああ」と頷いておこう。


「手伝いっていうのは、編集さんみたいなことをして欲しいんです」

「編集さん?」

「はい。具体的にいうと誤字脱字だったり、文法の間違い、キャラクターの言葉使いだったりですかね、を修正してください」

「わかったけど…ラノベとか素人なんだけど大丈夫なのか?」

「アナタの編集に文句があったらいうのでそこは心配しなくていいですよ。……てことで、早速ワタシがネットにあげているやつを印刷しておいたのでやってください」


それなりに厚みのある紙の束をはい、と渡される。


「……奏音は?」

「寝ます」


即答。


「おいおいまだ昼過ぎだぞ?」

「ワタシって夜行動するタイプなんです」


ベッドの上で布団を整えながら奏音は答える。

夜行動するタイプって……学校とかどうしてるんだろうか。僕だったら絶対に眠くなる自信があるぞ。

聞こうとした時にはもうすでに奏音は眠りについていた。

窓から入ってくる日差しに白い髪が照らされる。

そういえば奏音のこの白い髪はどうして白いんだろう。

少なくとも生まれつきじゃないだろう。母さんや響佳たちの髪色は黒い色だったり茶色だったりバラバラではあるものの、日本人ならよくあることのはずだ。

しかし奏音はどう見ても日本人の顔立ちなのにも関わらず白髪。

どれだけ悩んでも答えは出ないことに気づき、沸いた疑念は今は放っておく。

今度母さんに聞くか調べるかすればすぐにわかるだろうし。

とりあえずはこの渡された小説の誤字脱字とか諸々を済ませることが先決だ。

自分で言うのもなんだが僕は人より読み書きに集中することが得意だ。

うまく集中することができれば課題が気づいた時には片付いていたり、本をすぐに読み終えたりすることができる。僕の唯一の特技で、それがあるおかげもあり学校での成績もそれなりに良い。

ただまあ夏休みの課題とか提出日ギリギリだとか、焦っている時はうまく集中できないしむしろ余計に時間がかかるからそれほど特別な能力でもないかもしれない。


「さて、読むか」


僕は床に座り奏音の小説を読み始めた。

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