第5話「今日はカレーかな?」

下へ降りると香ばしいスパイスの匂いがした。

その匂いを嗅いだせいか、僕と奏音のお腹がグーっと鳴く。

僕らはそして二人で「あははっ」と笑った。


「お腹空いてきましたね」

「ああ、匂いからして今日はカレーっぽいよね」

「ワタシ、カレー大好きです」


嬉しそうに奏音は笑う。

親父も僕もカレーは好きだ。

もしかしたら母さんはそれを知って今日はカレーにしたのかもしれない。

リビングに出ると既にテーブルの上にはカレーとスプーンが置いてあった。

そばには福神漬けも置いてある。

そして先程話をしていた位置と同じところに親父たちは座って待っている。


「お、きたか勝……って、もう奏音ちゃんと仲良くなったのか?」


親父が僕の後ろを刺して言ってから気がついた。

奏音がなんだか恥ずかしそうに僕の後ろに隠れながら顔をひょこっと出している。

あといつの間にかシャツの端っこを掴まれていた。


「えっと……奏音?」

「あっ、すみません、なんとなく……」

「いや、いいよ、なんか『お兄ちゃん』って感じがするし」

「ずるーい!アタシもお兄ちゃんに甘えたいー!!」


響佳が僕らの側まで寄ってきて奏音がいるのとは逆方向から僕のシャツを掴んでぐわんぐわんとゆする。


「あ、あはは……」


僕は困ってしまって苦笑いをして母さんに助けを求める目線を送る。


「こらこら、お兄ちゃんが困ってるでしょ。それにご飯も冷めちゃうから甘えるのは後になさい?」

「わかった!おにーちゃん!早く食べてねアタシも早く食べ終えるから!!!」


そう言ってから響佳は自分の席に戻る。


「あ、あの、ワタシも甘えたい、です…いいですか?」


奏音はシャツの端をより強くぐっと掴み申し訳なさそうに上目遣いで僕をみてくる。かわいい。


「もちろん、ほら、早く席に着きな?」

「あ、ありがとうございますっ……!!」


奏音はパッと顔を明るくして自分の席についた。

その後僕も席について、みんなで一緒に「いただきます」といってカレーを食べ始める。

久しぶりに親父と僕以外の人と一緒にご飯を食べた気がする。……学校では一人だし。

大人数で食べるカレーはとてもおいしかった。

普段食べている辛さより少し辛かったのもなんだか新鮮に感じた。

それと辛いカレーに親父はむせた。

その様子をみんなで笑った。

僕と奏音たちが話をしている時はむすっとしている時はムスッとしていた軽音も、同じように明るく笑っていた。

親父がむせたのは、まあ、「カレーはア〇パ〇ンカレーより少し辛いくらいがちょうどいい」ってなんか昔言ってたし、仕方ないのかもしれない。

カレーを食べてから9時を少し過ぎるくらいの時間になってから、僕と親父は家に帰った。


「どうだ?新しい家族は。仲良くやっていけそうか?」

「うん、妹たちはいい子だし、母さんは優しいし。……姉さんとはほとんど話さなかったけど、これから仲良くなっていきたいなって思う」


10時ごろ、二人とも風呂に入ってから、自分の家のリビングで親父と僕はテーブルに麦茶を置いてそんな話を少しした。

別に特別なことではなく、普段から風呂に入ってからは二人で何かを飲みながら話をするのが日課になっている。

時計の針が12時になる頃、僕はベッドに潜り込んだ。



☆ ☆ ☆ ☆



『新しい家族が増えた。

正直まだ慣れないけれど、それは普通のことだと思う。

少し意外だったのは、あの奏音が兄である勝さんにすぐに心を開いたことだった。

あの子は家族とすらどこか距離感を感じる。でも彼にはベッタリだ。

何があったのかすごく不思議に思う。

そして同時に彼に少しばかり期待の念が湧く。


「もしかしたら彼は、私を変えてくれるかもしれない、救ってくれるかもしれない」と。


そんな柄にもないことにそんなふうに思った。

そのことはここに書き綴ってから胸にしまっておくことにする』


「――」


私は『毎日の記録』と書いたノートを閉じて引き出しに入れ、鍵を掛けた。

時計の針は、10の数字を指していた。

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