【ZAW1期】ZurAnderenWelt -始まりの物語-

風詠溜歌(かざよみるぅか)

一章 異世界ツーランデレンヴェルト

ディクライット王国編

プロローグ

燃えるように赤い髪に引き込まれてしまいそうな深い紫色の瞳。

元気のよさそうな少年が私の目の前に立っていた。

この子は一体誰? 何故私に笑顔を向けてくるの?

もう少し、もう少しで思い出せそうな気がする……。


耳をつんざくようなアラーム音。

少し悪態をついて止めた時計の画面には夜中をあらわす数字。なんでこんな時間に、と思いながら自分の突っ伏していた机の上に目をやると、書きかけの原稿が広がっていた。

どうやら書きながら寝てしまっていたみたいだ。

私は小説家の斎藤結衣菜。今書いていたのは仕事ではなく、私の体験した不思議な話についてだ。

本当はこんな夜中に書くようなものじゃないけれど……。

話は九年前に遡る。それは、私がまだ十四歳の頃──




あたしは、自身が通う中高一貫校の裏山に位置する高台に足を運んでいた。

少し開けたところにあるフェンスに持たれて景色を眺める。

よくある木造りの茶色いベンチと錆びついた有料の望遠鏡が置かれており、その全てが斜陽に照らされてオレンジに染まってゆく。

──綺麗だな。

風が吹き、おさげにしたあたしの長い髪が少し揺れ、無意識に首にかけていたペンダントに触れていたことに気がついた。

それは少し歪な竜の形をして、目の部分に緑色の石がはめ込まれたペンダント。

薬草に関する研究者であるため、山菜の研究をするといったきり行方しれずとなった父があたしに残したものだ。

それ以来、これを常に触るのが癖になってしまっている。

父は一体どこに行ってしまったのだろうか。

湧き出るように頭を埋めていく嫌な考えを振り払うようにあたしはフルフルと首をふると、もう一度ペンダントに手をかけた。

その瞬間、鎖がちぎれる音と共にそれが宙を舞った。

驚いたあたしが加速しながら落下して行くそれを掴もうと手を伸ばした時、錆び付いた金属がひしゃげる音と共に身体を支えていたフェンスが折れた。

──落ちる!

と、あたしの視界を緑色の光が覆い尽くした。

ああ、これはペンダントの……。



意識が遠のいた。

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