第19話 彼の一日

神 =

そうかね。少女は、己を取り戻し始めたのかね。

閻魔=

はい、その通りでございます。

神 =

同居を始めたのじゃな? では少年の親は、さぞ驚いたことじゃろうて。

閻魔=

いえそれが……。

神 =

うん、なんじゃ?

閻魔=

別棟なのでございます。庭先に六畳のプレハブを置きまして、そこで少年ひとり寝泊りしております。毎週末に幾ばくかの金員を渡し、それで生活させているようでございます。

神 =

何じゃと! それは育児放棄ではないか! なんという親か! 許せんぞ!

閻魔=

いえいえ、それも致し方のないことかと……

神 =

どういうことじゃ?

閻魔=

暴力、でございます、少年の。父親は単身赴任で、母子家庭の如きものでございます。では、改めてお話しを。


 彼の一日は、お昼からということでございます。

 起きると同時に、例のマネキンの元に出かけます。人混みがいやなせいでございましょうか、自転車を走らせております。眉間にしわを寄せてまたがるのでございますが、ペダルに足をかけると同時に、どうしたことか柔和な表情になるのでございます。そして30分ほどをかけるのでございます。それが毎日でございまして、大雨でない限りは出かけます。帰りは夕方前には部屋に戻っております。


 食事は夜の1食だけでございます。

 無論おやつは欠かせません。テレビゲームに興じている折以外は、何かしらのスナック系を口に運んでおります。時折母親がフルーツを差し入れるのでございますが、大体は黙って受け取っております。しかしゲームでの内容によっては口汚く罵ることもございます。それでも母親は無表情なまま、無言で立ち去ります。


 少女が転がり込んで三日ほど経った時、母親が少女の存在に気付きました。

「*$%#&‘{;=!%?」

 母親の問いかけに、少年は異国語を聞いたような表情を示します。しつこく問い質す母親に、「べつに……」と、答えております。で、その言葉を聞いた母親は、それ以上問いただすことを止めました。その後、キレるからでございました。


 少年と少女の奇妙な同居生活が始まりました。朝の起床は、決まって午前7時になりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る