第十八話「特殊スキル」

 大陸暦1119年3月28日。

 初めての狩りから3日目の午後、日課となっている戦闘訓練を行っている。いつもよりラングレーさんが厳しく、青あざがいくつもできた。

 その都度、ディアナさんが治してくれるのだが、そのディアナさんもなぜか笑みを浮かべており、いつもと違う感じだ。


 休憩中にそのことをローザに聞いてみたが、いつもはっきりとものをいう彼女にしてはあやふやなことしか言わなかった。


「い、いつも通りだ……と、お、思うのだが……」


 あからさまに動揺しているが、それを聞く雰囲気でもないため、話題を変える。


「そういえば、一緒に戦うっていう話はどうなった?」


「……条件付きだが、認めてもらえた」


 認めてもらえた割りには嬉しそうな表情でない。


「条件が厳しいとか?」


「うむ……それがしの刀術の極意をレベル3に上げねばならぬのだ。レベル3になれば、18歳になる前でも山でも迷宮でも入ってよいと言われておる」


「刀術の極意をレベル3に! それって……」


 僕にはとても可能なこととは思えず、言葉を失う。

 “極意”というのは“心得”の上位スキルで、レベル300を超える魔銀級ミスリルランク探索者シーカーでも持っている人は少ない。実際、レベル380のアーヴィングさんですら、長弓の極意レベル3だ。


 ちなみに“極意”のスキルを取得すると、剣聖や弓聖と言った称号を得る。この称号を持っている人は尊敬の対象となるほどで、まだ17歳にもなっていないローザは今でも異常なほど高いスキルを持っていることになる。


「某も厳しいことは分かっている。だが、ライル殿に置いていかれぬようにするには人の何倍もの努力が必要なのだ。それを成し得て初めて貴殿の横に立てると思っている」


 僕に対する評価がおかしい。

 僕は魔銃を手に入れて、ようやく戦える手段を得た。それも遠距離からの狙撃だけだし、撃てる弾の数も少ないから、並の弓術士より役に立たないと自覚している


「僕の横に立つ……それは逆だよ。僕がローザと一緒にいることの方が難しいと思っているのに……」


「そのようなことはない! 某が18になるのは1年以上先だ。その頃、ライル殿がどれほど先に行っているのか……それが不安なのだ」


「そんなことはないと思うけど……」


 そこまで話したところで休憩時間が終わった。


 翌日から一週間ほどはアーヴィングさんと一緒に山に入った。

 狩りの場所はクライブさんに教えてもらったところの他に、2ヶ所似たようなところを見つけている。


 アルセニ山地は1000メートル級の山々が連なっているが、グリステート付近はそこまで高い山はない。それでも50メートルくらいの崖はいくつもあり、狩場を見つけるのは簡単だった。


 そして重要なことは、こういった切り立った崖近くで活動する魔物狩人ハンターがいないことだ。


 ベテランハンターのクライブさんに聞いた話だが、ハンターには縄張りのようなものがあるそうだ。新参者がそこで狩りを続けるとトラブルになりやすく、新人は競合しない場所を見つけるだけで何日もかかるらしい。


 その点、僕は全く競合しないから、獲物の数も多いし、トラブルになる恐れもない。

 懸念はアーヴィングさんが付いてきてくれなくなった後のことだ。1人で山に入ることになるから、運悪く魔物に出会ったら1人で対処しなくてはならない。


 ただし、この点も大きな問題ではないと思っている。

 僕が行く場所は町から5キロ以内と比較的近く、途中までは他のハンターが通る道を使う。そのため、魔物が出る可能性は低く、今までも途中で魔物を見かけたことは1度しかなかったし、相手は雑魚である灰色猟犬グレイハウンドだった。

 もっともグレイハウンドもレベル40くらいあるので、僕より遥かに高いレベルだが、一撃で倒せている。



 山に入り始めて1ヶ月半ほど過ぎた5月10日。

 今日、ようやくレベル50に到達した。


 今では1日に倒せる魔物の数は15匹ほどになっている。

 しかし、レベルが上がるにつれ、数をこなしてもレベルの上昇は遅く、最近では1日に1レベルしか上がっていない。


 レベルに関してはゆっくりとした上がり方だが、収入の方は凄い伸びになっている。

 1日の収入は平均で5000ソル(日本円で50万円)ほど。雨の日は山に入っていないので、1ヶ月の実働は20日強だが、貯金は15万ソルを超えている。


 ちなみに税金だが、ハンターギルドでの換金時に2割取られており、それを差し引いても月に10万ソルというのはミスリルランクのシーカーより効率がいいらしい。


 そのため、ハンターたちから誘いの声が掛かっていたが、そのすべてを断っている。

 時にはしつこい人もいたが、僕がローザと組む予定だと伝えると、ほとんどの人は大人しく引き下がってくれた。


 そのことをモーゼスさんに言うと、


「ラングレーさんが認めた相手に喧嘩を売るような者はこの町にはいないよ。ローザ君が絡むと何をするか分からないと思われているから」


 最後の方は思い出し笑いをしていたので、何かあったのだろう。どんな話なのか聞いてみたが、教えてくれなかった。


 そのローザだが、毎日顔は合わせているが、前のように一緒に訓練を行うことは少なくなった。ウイングフィールド家のメイド、アメリアさんと模擬戦をやっていることが多く、僕が入るようなレベルではないためだ。


 一緒にいる時間が減るのは残念だが、彼女は大きな目標を見つけたのだ。だから、僕は応援することにした。



 僕の話に戻すが、レベルアップと共にさまざまな“特殊スキル”を得ている。

 最初に気づいたのが、“限界突破”というスキルだ。

 一人で山に入り、魔物を狩った後に魔力MPを確認しようとパーソナルカードを開いた時に記載されていることに気づいた。


 これについて、ベテランのアーヴィングさんやラングレーさんに聞いてみたが、初めて見たようでどんな意味があるのかは分かっていない。


 優秀な鑑定士に見てもらえば分かるらしいが、王宮にいるような超一流の鑑定士でないと詳しいことは分からないらしい。


 この他にも一撃必殺、疾風迅雷、百戦錬磨、百発百中、魔弾射手、勇猛果敢という特殊スキルを得ている。


 このうち、効果が分かっているのは魔弾射手だけだ。この特殊スキルは魔力を纏わせた射撃による攻撃を百回行い、成功させると得られるもので、MP消費量を20パーセント低減させる効果と命中率を若干上げる効果がある。


 魔弾射手はエルフの弓術士なら比較的多く取得しているものらしく、アーヴィングさんも持っていたので取得条件と効果が分かった。


 他の特殊スキルについてはあまり分かっていない。ただ、敏捷性と精神力が急に上がったので、いずれかの効果らしいことだけは分かっている。


 特に精神力が上がった効果は大きく、魔力MP総量が3500を超えている。これに魔弾射手の効果を合わせて、1日に撃てる弾数がM4カービンで27発、M82ライフルで11発となった。


 この他にも僕にとって、とてもありがたい能力を得た。

 それは標的に向かう“予測線”が見えるようになったことだ。これは動いている敵に対して照準を合わせると、銃口から白い線が見え、それを目印に撃てば確実に命中するというものだ。


 この能力のお陰で、鳥型の魔物である切裂隼リッパーファルコンに襲われた際にも1発で撃ち落とすことに成功している。


 特殊スキル以外にも斥候スカウトであるアーヴィングさんに教えてもらったスキルのお陰でずいぶんと楽に狩りができている。特に察知系と隠密系のスキルは役に立ち、ほぼ確実に先制攻撃を行えている。


 このことをモーゼスさんに話したら、


「ライル君が地球の軍隊にいたら、伝説の狙撃手スナイパーと呼ばれただろうね」と言って笑っていた。


 特殊スキルの効果もあり、僕の銃の心得のレベルは一気に6に上がっている。僅か1ヶ月半で2つもレベルが上がることは前代未聞だと、ベテランのラングレーさんたちも驚いていた。


 その一方でローザは「また引き離されてしまった……」と言って、少し気落ちした表情を見せていた。

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