第三話「試射」
僕は“魔銃”と呼ばれる武器を初めて知った。
魔導具店で聞いた話では、一般的な魔銃は
しかし、僕が見た“コルトガバメント”と呼ばれる魔銃は持ち主の魔力を使って弾丸を撃ち出すタイプの銃で、弾丸のコストもそれほどかからないと教えてもらった。
その魔銃の試射をするため、店員であるボビーさんと共にシャンドゥの北にある農地に向かっている。
歩いて10分ほどで目的地に到着した。麦畑らしく、既に刈り取られているため、茶色い土がむき出しになっている。
周囲には誰もおらず、「ここでいいだろう」と言って、ボビーさんは持っていた長さ1メートル、幅30センチ、厚さ2センチほどの木の板を畑の中に立てた。
10メートルほど離れたところに立ち、説明を始める。
「こいつは
そう言って魔銃を右手で握り、まっすぐに腕を伸ばす。
「まずはこうやって上の部分、
説明しながらスライドを手前に引いた。
カシャッという音と共に、グリップの上部に直径5センチほどの緑色の魔法陣が浮かび上がる。
「こんな風に魔法陣が浮き上がるから、グリップに魔力を注ぎ込むんだ。魔力が溜まったら魔法陣が消えるから、それで準備完了だ。後は狙いを付けて引き金を引く。分かったか?」
そう言っている間に魔法陣が消えた。時間にして5秒ほど。
「それじゃ撃つぞ。少しだけ音がするから驚くなよ」
そう言ってから、僕が身構える前に引き金を引いた。
その直後、パン!と乾いた軽い音が響き、木の板が回転しながら倒れていく。
一瞬のことで何が起きたのか分からなかった。
「何とか当たったみたいだな」と言いながら、ボビーさんは倒れた木の板を見にいった。僕も彼に続き、倒れた木の板を覗き込む。
「相変わらず下手くそだな、俺は……真ん中に当てるつもりだったんだが、こんな端にしか当たっていない」
彼が示した場所は板の上辺の右端で、強い衝撃を受けて板の一部が割れていた。
「真ん中に当たれば、貫通かきれいに割れるんだが、まあこんなもんだろう」
その声を聴きながら、僕はその威力に驚きを隠せなかった。
この厚みの板が貫通できるならオークを一撃で倒せるというのは事実だろう。オークはレベル150を超える魔物で、駆け出しを卒業した中堅どころの
その武器を扱えるなら、僕にもレベルを上げることができる。問題は撃てるのかということだ。
そんなことを考えていると、木の板を立て終えたボビーさんが声を掛けてきた。
「今ので
その言葉を聞き、僕は安堵した。
今のMP保有量は1700を超えている。つまり、撃てることは確実だ。
「やってみます」と力強く言うと、ボビーさんが銃身を持って、僕にグリップを向ける。
それを受け取ると、思った以上の重さに目を見開く。
「こいつの重さは1キロ以上あったはずだ」
武骨な造りだが何となく安心する。無意識に合っていると感じているのかもしれない。
5秒ほど銃を眺めた後、彼がやったように右手を伸ばして構えてみる。
「筒の先にある出っ張りと握りの上にある凹みを合わせた先に弾が飛んでいく。まあ、外れても誰にも迷惑を掛けないから適当に撃ってくれればいいぞ」
言われた通りに照準を合わせる。
呼吸を整えてスライドを引くと、緑色の魔法陣が浮かび上がった。
魔力を注入し始めるが、魔法陣は弱々しく点滅するだけでなかなか消えない。10秒、20秒と時間が過ぎていき、腕がだるくなった。仕方なく、腕を下ろして魔力を注入していく。
ボビーさんの時は5秒ほどで消えた。
その事実が焦りにつながる。
知らず知らずのうちに汗が噴き出してくる。
1分ほど経ってもまだ魔法陣は消えず、更に30秒ほど経ってようやく魔法陣は消えた。
「これで準備完了だが、魔力は大丈夫か?」
そう言われて右手の甲に念を送り、パーソナルカードを浮かび上がらせた。パーソナルカードは銀色の小さなカードで、ステータスが書かれている。
確認すると、MPの残量は700ほど。ボビーさんが言った通り、1000近く持っていかれたようだ。
問題ないことを確認した後、再び魔銃を構える。
「発射の時に反動があるから、不安なら左手を添えてもいいぞ」
言われた通り、右手に左手を添えて照準を合わせ、一呼吸おいてから引き金を引いた。
パンという音が響き、思ったより強い反動を感じる。
この感触はいい。
標的の木の板が倒れていることに気づき、「あ、当たった!」と今更ながらに驚く。
「いきなり当てるとはな」と感心している。
木の板を見ると、中心部分に当たっており、きれいに半分に割れていた。
「俺より上手いんじゃないか。で、魔力は大丈夫なんだろうな」
「ええ、一応700くらいは残っています。もう一発はきついですが、倒れるようなことはありません」
「その歳で魔力が1700とは驚きだな。しかし、撃つまでに時間が掛かったな。あれはどういうことなんだ?」
「僕は先天的に魔力の放出量が少ないんです。だから、魔法陣に魔力を送り込む量がボビーさんより少なくて、時間が掛かったんだと思います」
「先天的に魔力の放出量が少ないだと……そんなことがあるんだな。いずれにせよ、賭けはお前さんの勝ちだ。店に戻るぞ」
そう言ってボビーさんは歩き始めた。
町に戻る途中、魔銃を買うか悩んでいた。
確かに撃てた。しかもあの威力なら魔物を倒すことができる。それに撃った時の感触もいい。
しかし、今のMP総量では一発しか撃てない。それ以前に撃つまでに1分半も掛かるのでは、実戦で使えない。
欲しいと言えば欲しいが、半額と言っても5千ソルもする。
店に戻ると、老婆が待っていた。
「気絶しておらんということは撃てたのか?」
老婆の言葉にボビーさんが頷く。
「ああ、撃てたことは俺が確認した。だから、賭けはこいつの勝ちだ」
「なら半額で持っていくがいい。どうせ、誰も買わん不良在庫じゃしな」
「いいえ。一応撃てましたが、1発しか撃てませんし、撃つまでの時間もものすごく長かったので実戦では使えません」
そう言って断ると、老婆は「時間が掛かったじゃと?」と首を傾げる。
そこで僕は魔力放出量が少ないことを正直に話した。
老婆はその話を聞き、考え込む。
これで用はなくなったと思い、店を出ようと思った。
「では、お騒がせしました。僕はこれで」
「待つんじゃ」と言って老婆が引き留める。
「なんですか?」と言って立ち止まると、
「魔力は足りたのじゃな。ならば、何とかなるかもしれん」
「どういうことでしょうか?」
「こいつを設計したのはブラウニングという流れ人での。変わった魔導具をいろいろと世に送り出しておる。この魔銃もその一つじゃが、奴ならば、お前の弱点を補う方法を思いつくかもしれん」
流れ人とは異世界から突然現れる人々のことをいい、様々な技術をもたらす存在だ。
「流れ人ですか……」
「そうじゃ。知っておると思うが、流れ人は独特の技術や考えを持っておる。少ない魔力を有効に使う方法を知っておるかもしれん」
老婆の言葉に希望が灯る。
「そのブラウニングという方はどこにいらっしゃるのですか!」
「奴はグリステートという町におるはずじゃ」
「グリステート? それはどこにある町なのでしょうか?」
「グリステートはここシャンドゥの北西にある町じゃ。馬車で半月ほど掛かると聞いたことがある。ボビー、地図を持ってきな」
広げられた地図を見ると、直線距離で500キロ、街道沿いを進むと700キロほどの場所にあることが分かった。
「言っておくが、ブラウニングに作れるとは限らん。そのことは理解しておくんじゃぞ」
僕が食い入るように地図を見つめているから、老婆は不安に思ったのか忠告する。
「分かっています。でも、魔銃に賭けるしかないんです」
「仕方がないの。賭けに負けたことじゃし、このノーラ婆が紹介状を書いてやろう」
そう言ってペンを取った。
サラサラと書いていき、封筒に入れて渡してきた。
「モーゼス・ブラウニングという70過ぎの爺じゃ。ノーラ・メドウズの紹介と言えば悪いようにはせんはずじゃ」
「ありがとうございます」と大きく頭を下げ、紹介状を持って店を出ていった。
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