第150話:潜入

 そして進み続けていると、砦の裏側までやってきた。

 大きく迂回したせいで時間を食ってしまったが、見つからずに動くとなるとどうしても慎重にならざるを得なかった。


「ここを真っすぐ行けば入り口までもうすぐだ。ここらは見張りが居ないはずだけど、一応注意してくれ」

「ああ」


 ランドールが砦に向かって進んでいく。

 しかし雑草が多くて歩き難く、進むスピードも遅い。


「こっち側はまともに手入れされてないからな。だからこの道は誰も使って無いんだ」

「そりゃここまで雑草だらけだと誰も通りたがらないわな……」


 けど俺達にとっては潜入にはうってつけのルートだ。

 そして誰に見つかることなく砦の裏口にある城壁まで到着することができた。

 ランドールは壁伝いに歩き、古い門の前で立ち止まった。


「この門から砦の内部に入れる。ここら一帯はまだ人は少ないけど、奥に進めば人が増えて発見されやすくなる。なるべく人があまり通らない所を進むつもりだけど、それでも限界がある。用心してくれ」

「ああ。ランドールが先行して、その後に俺。後尾はリリィに任せていいか?」

「がんばる!」

「よし。これで行こう」


 そしてランドールが門に触れ、一呼吸置いてから動く。


「行くぞ」


 小声でそう言ったあと、俺達は砦の内部へと潜入した。


 内部に入ってから警戒しながら進むが、今のところ見える範囲には人影は見えない。

 しかし遠くから人の声が聞こえてきた。


「…………おかしい」


 ランドールが足を止めて辺りを見回す。


「どうした? 何かあったのか?」

「ここの場所から皆の声が聞こえてくることはあまりないはずなんだが……」

「そうなのか?」


 奥の方からは楽しそうな人の声が聞こえてくる。まるで宴会をしているような感じだ。


「砦のどこかでパーティでも開いてるんじゃないのか? 酒場に居る人達みたいな雰囲気がするんだけど」

「騒ぐこと自体はよくあるんだが、ここまで声が響くぐらいの規模はあまり無いはずなんだ」


 聞こえてくる声の量からすると、10人20人程度の規模じゃない。100人近く集まっている気がする。

 それぐらいの大騒ぎだ。


「まぁ行けば分かるさ。ランドール進んでくれ」

「あ、ああ……」


 困惑しながらもランドールは慎重に進んでいく。

 奥に進めば聞こえてくる声の大きさも増してくる。大人数で飲み会でもやっているのだろうか。そんな感じだ。


 そしてランドールは曲がり角の壁に張り付き、そーっと顔を覗かせる。


「……! なんだあの数は……」

「どうした? 何が見えたんだ?」

「こっちに来て見てみろ。見た方が早い」


 気になって俺とリリィも壁から顔を覗いてみる。

 視線の先には広いスペースがあり、そこには100人は余裕で超えてそうな多くの人が騒いでいたのだ。

 ここからならある程度なら言ってる内容も聞こえてくる。


「あっひゃっひゃ! エンペラー最高だぜー!」

「あんなドデカい兵器を作るとはさすがキング様! これで敵無しだな!」

「もう何も恐れることはねぇ! 大暴れしてやろうぜ!」

「おーい! 酒足りねーぞ! もっと持ってこい!」


 すっげぇ浮かれてんな。何人かは既に酔いつぶれて寝ているし。

 どいつもこいつもガラの悪そうな奴ばかりだ。


「エンペラーって大規模な盗賊集団って聞いてたけど、こうして目の当たりにしたらとんでもないな……」

「だから言っただろう。エンペラーは他とは違うんだ。これからもさらに増え続けるだろうな」


 よくまぁこれだけ集めたものだ。エンペラーだけで1つの街ができそうだ。

 そういやエンペラーに初めて遭遇した時もいきなり勧誘されたっけか。ああやって徐々に人を増やし続けていってるんだろうな。


「しかしこれだけ集まってる光景は見たことないな……」

「そうなのか? 盗賊ってのはいつもああやって騒いでるイメージがあるんだけど」

「間違ってはいないが、これだけ集まるのは初めて見る。たぶん、砦中の人が集まっていると思う」

「ふ~ん……」


 奴らの会話の内容から察すると、念願の古代兵器が完成したからその記念パーティってところだろうか。

 だからこれだけの大規模で騒いでいるんだろう。


「まぁ何れにしろ、これだけ密集しているなら動きやすくて好都合だ。今のうちに移動しよう。アティラリがある頂上まで案内してくれ」

「ああ。こっちだ」


 見つからないように慎重に通路を進んでいく。

 連中がさっきの場所に集まっているせいか、誰とも遭遇せずにスムーズに進むことができた。


 順調に進んでいると、登り階段があるのが見えてきた。

 ランドールは階段を指さして小声を出す。


「あそこから目的の頂上まで行ける。付いてきてくれ」


 そしてそのまま階段を登ろうとした時だった。


「……! 誰か来る! こっちに来い!」


 階段の上から足音が聞こえてきたのだ。それを聞いてランドールは階段脇の小さなスペースまで素早く移動。

 俺とリリィも急いでランドールの元へと駆け寄るが……


「え……こ、こんな狭い所は入れなくない……?」

「いいから早く!」

「あ、うん」


 荷物が色々と置かれているせいで、どう頑張っても2人ぐらいしか入れなさそうな狭いスペースしか無かった。しかし迷ってる暇が無くここに隠れることになった。

 だが……


「……ッ!! リ、リリィすまん!」

「これくらいなら大丈夫。気にしなくていいぞ」

「だ、だけど……」


 狭いスペースにはリリィが先に入って壁を背にこっちを向いている。そこに俺が入ろうとすると、リリィに抱き着くような格好になってしまうのだ。

 そこにランドールが押し込んできてくるもんだから密着することになる。


 すると当然、リリィのおっぱいが思いっきり当たることになるわけで……


「あ、あんまり動かないでくれ……」

「で、でも少し苦しいぞ……」

「2人とも静かにしてくれッ……!」


 俺の胸元には、リリィのおっぱいの感触がリアルに伝わってくる。


 めっちゃ柔らかい……

 大きなマシュマロに抱きついたらこんな感触になるんだろうか……

 リリィがほんの少しでも身動ぎするだけで、柔らかい感触が全部伝わってくる。


 やばい。この状況は色々とやばい。

 今は見つからないように聞き耳を立てるべきなのに、胸元に全ての神経を持っていかれている……

 つーかこんな状況で集中できるか!


 お、落ち着け。相手はリリィだ。

 見た目はいいけど中身は脳筋だからな。

 このくらいで動揺してどうする。冷静になれ。こういう時は静かに深呼吸だ。


 ………………


 …………………………


 …………………………………………


「……そろそろ行けるだろう。足音もしないしな。2人とも大丈夫か?」

「あ、ああ……」

「狭かったぁ……こんな狭い所に入ったの初めてだったぞ……」

「すまんな。他に隠れる所が無かったんだ」


 案の定というか、リリィは俺と密着したことについて全然気にした様子は無いな。

 ある意味相手がリリィで助かった。


「……? ゼスト? どうしたんだ? 顔が少し赤いぞ?」


 リリィが顔を覗かせてきたので、咄嗟に顔を反らしてしまった。


「べ、別になんでもない! それより先に進むぞ! 次はどこにいくんだランドール!」

「この階段を登れば頂上に行ける。もう少しで目的の場所まで――」

「じゃあ急ぐぞ!」

「えっ……そ、そうだな……」


 いかんいかん。集中しないと。

 煩悩を振り払うべく気を取り直し、この場からすぐに立ち去ることになった。


 その後は誰にも会うことなく順調に進み続け、ランドールはとある扉に前で立ち止まった。

 ゆっくりと扉を開けると日の光が差し込んでくる。


 そして少し離れた所に巨大な大砲が置かれている光景が目に入った。


「あれだ……間違いない。本物のアティラリだ」

「あれが伝説の古代兵器か……」

「おー」


 暗めの銀色に輝くその砲身は、山の方角に向けれらた状態で設置されていた。

 外からは砲身の先っぽだけしか見えていなかったが、ここからなら全体の姿がハッキリと確認することができる。

 俺としては懐かしさと驚きが入り混じった複雑な心境だった。


「それでどうするんだ? 直接壊しにいくのか?」

「いや。俺に考えがあるんだ。とりえあえず近くまで行くぞ」


 近づくべく足を動かし始めた時だった。

 アティラリの物陰から1人の男が姿を現してきたのだ。


「あ? 誰だテメェら」


 俺達に気がついた男はその場から睨みつけてきた。

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